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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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296/930

その295 変な存在

 ◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆


「あ、改めまして、アリスですっ!」


 これまでの態度は流石に失礼だった。

 私はそんな謝罪の意味を込め、深く頭を下げた。

 私の冷たくあしらう態度、許可証偽造の言いがかり、彼に大きな手間を掛けさせた連行。そして、この後も。


「あ、えーっと……ミケラルドです。よろしく」


 ミケラルドさんは少し緊張した様子で自分の手を見た後、ゆっくりと私に握手の手を差し伸べた。


「よろしくお願いします!」


 直後、彼の身体がビクンとビクついた。

 その後、彼はピクピクと震えながらゆっくりと手を引いた。

 そして、握手した右手をひらひらと振りながら言ったのだ。


「おーいちち……」


 彼は何故かその手を痛がったのだ。


「え? 私そんなに強く握ってしまいましたか?」

「あぁいや、そうじゃなくて【聖加護】のコントロールが出来ないって話は本当みたいですね。さっきとは大違い……」

「へ?」

「こっちの話ですよ」

「私に言いましたよね?」

「いいえ、こっちどころかもうあっちにいっちゃった話ですよ。ハハハハ」


 不思議と思っていたけど、そうじゃない。

 この人ちょっと変だ。でも、私をダンジョンに連れて行ける人は今この人しかいない。少しでも気に入られなければ。


「あ、その作り笑顔変ですよ」

「……」


 やっぱり変だ、この人。

 普通そういう事言わないよね?

 仮にも女の子のなりたいランキングナンバー1の聖女にそういう事言う?

 絶対変。おかしい。何なのこの人。


「作り笑顔をする時のコツを教えますよ」


 何なのこの人……。


「…………参考までにお聞きします」

「簡単ですよ。『あぁ、この人、今私が作り笑顔してるの気付いてないんだろうなぁ』って思うと、不思議と笑えます」

「それは最早(もはや)嘲笑しているのでは?」

「本当の笑いが入るからバレにくいです。テストに出るんで書き留めておいてください」

「……じゃあ、その笑顔は作り笑顔なんですか?」


 これくらいの嫌味は言って問題ないと思う。この人なら。


「そうですよ?」


 どうしよう、真顔で返されちゃった。


「……こほん、どんな事を考えながら?」

「『やっべ、俺聖女に何言ってるんだろ』って思いながらです」

「それはつまり、自分を笑っているんですか?」

「だって変でしょ。こんな人」


 ミケラルドさんは自分を指差しながら笑って言った。

 あぁ、この笑顔はきっと、心の底から笑っているのだろう。

 この人になら、少しくらい本音で話してもいいかもしれない。

 だけど、それは私の気の迷いだった。


「……私、聖女って言われるの嫌いなんです」

「私も言われたくないですね」


 そう断言出来る。


「あ、あなたは男でしょう! い、いいから理由を聞いてください!」

「え、面倒なんで嫌ですけど?」


 違った、私が本音で話そうと思ったのは彼の笑顔が理由じゃない。

 彼が、ミケラルドさんが本音で話してるからだ。


「さっきから思ってたんですけど、初対面の人に随分じゃないですか?」

「だってこの後、二人でダンジョンに潜るんですよ? で、今日は一階層だけだとしても、今後もっと深く潜る事になる。私と、アリスさんで。つまり、二人はこれからそこそこの時間を共にする訳です。だったら最初から本音で話した方が効率的でしょう?」

「徐々に歩み寄るという案は何故あなたの頭にないんでしょうか」

「この同行が確定事項だからですよ」


 そんなミケラルドさんの説明を聞いて、私は納得に追い込まれてしまった。

 そう、納得するしかなかったのだ。


「……確かにその通りです。私のわがままで通った同行……ですもんね」

「……へぇ」

「っ! その『わがままって自覚あったんだ……』って顔は何ですか!?」

「よかった、ちゃんと伝わってる。いい感じで歩み寄れてますね!」

「私が! 走り寄ってるんです! ミケラルドさんはそこから(、、、、)一歩も動いてないじゃないですか!」

「……はて?」


 むぅう……妙に堂に入った『はて?』だ。

 きっとミケラルドさんは、これまでも多くの人をからかって生きてきたんだ。

 変だけど不思議。これから恐ろしいダンジョンに侵入するというのに、この人と一緒なら全然怖くない。


「……着きましたね」

「ダンジョンに歩み寄りましたからね」

「もう! それはもういいんです!」

「ところで、疑問だったんですけど」

「何ですか?」

「このダンジョンに潜ったら【聖加護】の能力のコントロールが上手くいくんですか?」

「……こういう時にそういう事言います?」

「それが目的なんだったら、その目的のために頑張ろうかと」


 意外な協力要請に、私は驚いてしまった。


「アイビス殿は何と?」

「……人類を慈しみ愛する事だ、と」

「ダンジョンに人類はいないと思いますけど?」

「な、何かの取っ掛かりになるかと思ったんです! それに! アイビス殿なんて馴れ馴れしいですよ! 皇后アイビス様です!」

「ははは」

「……これがさっき言ったテスト(、、、)ですか?」


 私はじとりとミケラルドさんを見た。

 彼は本当にわかりやすく作り笑顔を見せたのだから。


「じゃあとりあえずは潜るって事で」

「あ、ちょっと! 先に行かないでください!」


 彼は、本当に変な人だ。

次回:「その296 存在X」

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