表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

294/917

その293 悪しき存在

2020/07/10 本日一話目の更新です。ご注意くださいませ。

 ◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆


 聖女。聖女。聖女。

 私を取り巻く言葉はそれだけ。

 人類の希望勇者エメリー。そのサポートをするためだけの存在。それが私。

 誰もが私を聖女として扱い、聖女として優遇する。

 けれど、その優遇は本当に心から?

 違う。求められているのは私の【聖加護】の能力。

 私はこの優遇と対価に人類に尽くさなければならない。

 最初はそんな事、私は気にもしなかった。


 だけど、それに気付いた時――――。


 彼らは私の能力を渇望し、甘やかす事でそれを手にしようとしている。私が甘いから。私が……私が子供だから。

 聖加護のコントロール。それが今の私の課題であり、最大の壁。

 法王国の皇后アイビス様は言った。コントロールの鍵は人類への愛。心の底から人々を愛し、敬い、強く想う事。

 元聖女の言葉は、私には重かった。

 無理。私には出来ない。

 何故そんな事をしなければいけないの? 何故思ってもない事を課せられるの? 何故神様は私を聖女にしたの?

 勇者エメリーは……違うのだろうか。

 私と同じ葛藤があるのだろうか。悩みはあるのだろうか。

 人類への不満はないのだろうか。

 この世の不平等を呪わなかったのだろうか。

 法王クルス様の話によれば、勇者エメリーの成長は目覚ましいとの事だ。

 彼女はきっと違う。きっと強い心をもっているのだ。

 私とは違う。


 そんな重い(かせ)を引きずりながらも、私はようやくランクAになった。

 だけどそれも法王国が用意(、、)してくれたもの。

 法王国が用意した冒険者たちと共に、一緒に戦い、戦い方、生き方を学んだだけ。

 彼らにとってはいい迷惑だろう。

 聖加護の能力が使えない聖女は、ただの魔法使い。

 光魔法が多少使えたところで、甘やかされた戦場で育った私はパーティの役立たず。

 今日は初めてのランクSダンジョン。

 昨日約束したランクSパーティ――青雷(せいらい)と共に難度の高いダンジョンに潜る。そう、私は青雷と共にダンジョンに侵入するはずだった。


「そんな、困ります!」


 彼らはきっと……。


「昨日のお話ではランクSのダンジョンへ連れて行ってくれるお約束だったはずです! それなのに何で今になって駄目なんですかっ!」


 わかっている事だった。


「あ~、回復の助っ人が別に見つかっちゃってさ。悪いんだけど他を当たってくれる?」


 そう、私の噂はもう冒険者の間で広まっている。


「ランクSの冒険者パーティなんて、そう簡単に見つかる訳ないです!」


 使えない子供(ガキ)として。


「しょうがないだろう? こっちも命が懸かった商売だ。ランクAの君より、ランクSの冒険者を連れてった方が生き残る確率が上がる。それは君もよくわかっているはずだ」

「っ!」


 彼らはきっと、(てい)のいい都合を並べ立て、私を拒絶したのだ。

 今日の約束はあくまで一階層のみ。

 だけど彼らは気付いたのだ。これを引き受ければ、それ以降も私が付き纏う事になると。

 今日は一階層でも、明日は二階層。

 私の能力が発動しない事を想定しているならば、彼の決断は確かに間違いじゃない。

 でも彼は言うだろう。

 これまで何度も聞いてきた言葉を。


「それに、【聖女】なら俺たちなんかと一緒じゃなくても、すぐに仲間は見つかるでしょ?」


 ……ほら、また聖女。

 冒険に危険が増す程、私は距離を置かれる。

 当然だ。当然なんだ。

 わかってる。わかってるの。

 だけど納得出来ない私もいる。


 ――人類(あなたたち)が私を戦場に立たせた。そうじゃないの?


 人類(あなたたち)が望んだ事じゃないの?

 人類(あなたたち)が用意したんじゃないの?

 なのに何故私を拒絶するの?

 私は戦場なんて望んでいない。

 仕事をして、美味しいものを食べて、可愛い服を着て……恋をして。そんなどこにでもある生活を望んでいるだけ。戦場なんて望んでない。望む訳がない。

 それがそんなにわがまま?

 なら私はわがままで結構。

 私は子供(、、)だから。

 冒険者(おとなたち)の場で大人と比べないで。

 冒険者(おとなたち)と一緒に競わせないで。

 冒険者(おとなたち)の場で子供と呼ばないで。

 私はこんな日常望んでいない。求めてない。

 今はまだ子供でいい。子供でいたいの。

 それを知らない冒険者(おとなたち)が、私を子供と呼ぶ事が許せない。

 何も知らない子供を勝手に大人の場に立たせた人たちに、私は子供と呼ばれたくない。


 ――人類(あなたたち)なんて……!


「あの」


 それは、黒銀の髪を靡かせた、若い男性だった。


「先程のお話、耳に入ってしまいまして。災難でしたね」


 あぁ、彼は私を知らない。

 たとえ聖女だと知っていても知らないのだ。

 私が使えない聖女だと。

 きっと彼は第一印象としての聖女を甘やかそうとし、甘い汁でも吸おうと考えているんだ。

 わかってる。これまでもずっとそうだったから。


「……いえ」


 大人はいつも私を都合のいいように利用する。

 後で何と言われようが構わない。ここで冷たくあしらっておけば後が楽だもの。


「コホン……では、幸多い一日を」


 ……意外な事に彼はそれだけで身を引いた。

 もしかして彼は別の目的で話しかけたのだろうか。

 いつもの冒険者たちのように、冷たくあしらう私を蔑むような目でもみない。むしろこちらを警戒しているようにも見える。こんな使えない聖女を?

 彼はそのままじりじりと後退し、踵を返してダンジョンへ向かった。

 …………ダンジョン?


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」

次回:「その294 不思議な存在」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ