その277 検証、新能力!
皆さま、お待たせしました。
次回予告詐称疑惑のあった壱弐参でしたが、ようやくその回までやってきました。
「あ、イヅナさーん!」
「む? ボンか、どうしたのだ?」
「ちょっと訓練に付き合ってほしくて、今お時間あります?」
「ボンとの訓練だと? ……ふむ、こちらとしてもボンと剣を交えたかったところだ、断る理由はないが?」
「おぉ、よかった!」
剣神イヅナとの訓練。
少し前の俺ならば怖くてチビっていただろう。
だが、雷龍シュガリオンと対峙し、国の存亡が目の前に迫っている今、この人との訓練は避けられない。そう考え俺はイヅナに声を掛けた。
「ここならば確かに人はおらん。が、何故二人きりに?」
二人でやって来たのは、ミナジリ共和国のシェルフ側、その未開拓地である。
「ちょっと新しい技を仕入れて来たので、出来るだけ被害が出ないような配慮ですよ」
「ほぉ? ……して、そのオリハルコンの手甲はその新しい技と関係があるのかの?」
「ないと言えば嘘になります。けど、あまり訓練してなかったので、ちょうどいいかなと」
「答えになってないぞ、ボン」
「先日、またガンドフに行ったんですよ」
「ふむ?」
「そこでまたオベイルさんに会いましてね」
「鬼っ子に?」
「自分は剣士だと言ったつもりはないって言ったら、あの剣を持ってて剣士じゃないのかって嫌味を言われちゃいまして」
「ほっほっほ、確かに鬼っ子なら言いそうじゃのう」
「で、ちゃんと説明したんですよ。私の本来の戦闘スタイルは無手だと」
「なるほど、それでその手甲か」
「そういう事です。ちょっと不慣れかもしれないですが、イヅナさんなら受け止めてくれると思ったので」
「ほっほ、さて、それが出来るかどうかは約束出来んのう」
「審判……は、いらないですよね」
「私たちの戦闘を見極められる存在は、今このミナジリ共和国にはおらぬよ」
「それもそうですね」
腰を落とした俺と、正眼の構えから動かないイヅナ。
訓練に誘ったのは俺だ。相手が受け入れる態勢ならば、俺から動く他――、
「ほっ!」
意外な事に、最初に動いたのはイヅナだった。
「甘いの、ボンッ!」
引き手を見せない神速の突き。
それもそのはずで、イヅナは一度身体を後ろに引いたのだ。
しかし、身体を引いた分の剣は、その場に残し、剣を抱えるようにして前に出た。
「上手いっ!」
仰け反った俺は、腕を交差してその剣を受け、滑らせ、上部へかち上げた。
「神剣、神風!」
「嘘っ!?」
かち上げたばかりの剣が戻って来る。
しかもその軌道が不規則で……読めない!
「ぬん!」
ソルジャースケルトンから得た固有能力【鋼の身体】。
更にはジェネラルゾンビから得た【不死者の防気】。
これに【斬撃耐性】、【外装強化】、【外装超強化】を加えれば……!
「っつぅううううっ!?」
「なんとっ!?」
剣神イヅナの剣撃だろうが、手甲で受けられなかろうが、斬傷を負う事はない。
がしかし、鈍痛がとんでもない。こりゃ、サイクロプスアンデッドから手に入れた【超撃耐性】も発動しておこう。何せ、相手が相手だ。
「ふむ、どんな手品かわからぬが、また強くなったようだの……ボン?」
「ここからです……よっ!」
「何をっ!?」
拳を振り上げ、落とした場所は地面。
その中へ、まるで水に浸かるかのように入っていく。
これが、ゴーレムアンデッドから得た固有能力――【地泳】である。
『【地泳】を使える人間がいるとは驚いたのう……が、その技の弱点は音。耳と足から伝わる振動で容易に場所を特定出来――――っ!?』
同時に発動したのは【静音】と【気配遮断】、それに【隠形】そして、ここで更に【地泳】の能力を開花させたのは【透過】である。足の支えのみ発動しなければ、地中を最小限の動き且つ一瞬に移動出来る。
音すら発さず、気配さえ感じさせず、相手に忍び寄る完璧な――ん?
『神剣、土噛み!』
……おや? これはまずいやつでは? 後方へ回避。
直後、俺の正面に強大な衝撃が響いた。
外へ出てみると、イヅナの足下には、まるで隕石でも落ちてきたかのような大きなクレーターが形成されていた。
咄嗟に木の枝の下に回避した俺は、それを見てゾッとする。
「……何すかそれ?」
「地面に潜ったのなら、地面ごと食らいつくせばいいだけの事。が、中々面白い攻撃だったの」
ソフトな柔剣ばかり使う人間だと思っていたが、こんな荒業も出来るのか。
というより、何故俺は出来ないと思っていたんだ。
勇者殺しのジェイルが一目置く男だし、SSS最強の男なのだ。出来ない方がおかしい。
「それで、ボン? こちらも聞きたいのだが、ソレは何だ?」
木の枝の下に移動した俺は、別にぶら下がっている訳ではない。
木の下に立っているのだから。
「私も、壁や天井を駆ける事は出来ても、立つ事は出来ぬ。それは【壁歩き】の能力があって初めて出来るもの。そして今の【地泳】…………。確か、ボンはオベイルにガンドフで会ったと言ったのう? この試すような動き、そしてガンドフダンジョンで見かけるモンスターの能力との合致。ほっほっほっほ、なるほどのう……」
流石は剣神イヅナ。こちらがバラす前に勘づき始めている。
直後、イヅナの闘気があふれ出す。
「ならば、本気でいかせてもらおうか」
おかしい、誘ったのは訓練なのだが?
次回:「その278 薄口? 濃口?」




