その266 復活
「ふ~~~~~~ん、そうなんだ~~~~」
「あの、ナタリーさん? まず回復魔法を少しでいいので掛けてもらえないでしょうか?」
「へ~~~~~~、ふ~~~~~~ん」
物凄いジト目をする我が仲間ナタリー。
何とかテレパシーを発動し、屋敷の俺の部屋から転移出来るここへ呼んだのだが、経緯を説明した後、ナタリーはただ俺に相槌を打つだけで回復魔法を行使してくれないのだ。
「ナタリー、出来れば回復を頼む」
「あぁ、ごめんねリィたん」
おかしい、何故リィたんには回復魔法が施されているのだろうか。
「うむ、感謝する」
「どういたしまして♪ あ、ジェイル大丈夫ー?」
ナタリーがここにやって来てから十数分、『大丈夫?』なんて言葉、掛けてもらった記憶がない。
「怒ってるのかな?」
「そう見えなかったら怒られるぞ」
リィたんの言葉を聞き確信を持った俺。
「参考までに、何で怒ってると思う?」
「ミックが命の危険に飛び込んだからだ」
「あ~……やっぱり?」
「だが、ナタリーが明確に怒りを示さないのも理由がある」
「参考その2を聞きたいね」
「ミックがナタリーたちを守ったからだ」
……なるほど。
「怒るに怒れない。何故ならナタリーたちミナジリ共和国の皆はミックによって命を救われたから。だからナタリーはあのように振舞っているのだろう」
人間歴は俺の方が長いのだが、龍族の人間界への順応はとんでもないな。
「女心というやつだ」
……人間は関係なかった。
「うむ、助かったぞナタリー」
「どういたしまして♪」
ふむ、ジェイルも何とか生きていたようだ。
「あ、あそこにミックがいるー。ジェイルー、後でねー?」
まるでここに来て初めて見つけたかのような反応だ。
そしてここへ小走りにやって来て、ナタリーはちょこんと腰を落とす。
「お困りのようですね、ミケラルド様?」
改めてやって来たナタリーはとても他人行儀でした。
「ナタリーさん、出来れば回復魔法をお願いしたいのだけど」
「わかりました。本日の勤務表と共に特殊技術料を申請しますけど、それでもよろしいですか?」
「……たんと申請してくれ」
「はい♪」
なるほど、ナタリーとしては怒っているから、あくまで部下として回復させる訳か。何とも、女心とはわからないものだ。
ナタリーの【ダークヒール】によって回復した俺は、ようやく身体を起こす事が出来た。
「強敵だったな」
ジェイルの言葉にはこれまでにない重みがあった。
「でも、三人がやられちゃうなんて……そんなに凄かったの?」
ナタリーは、雷龍シュガリオンの強さに詳しいであろうリィたんに聞く。
するとリイたんは肩を竦めて言った。
「さてな。だが、雷龍は五色の龍の中では異端と聞く。龍族でありながら更に上を目指す向上心は、私も学ばなければならないだろうな」
「当然、相性もある」
そう言い切ったのはジェイル。
「水龍と雷龍、どう考えたところで水龍のリイたんの方が分が悪い」
「つまり、リィたんは炎竜には強いって事?」
「そういう事だ」
ジェイルの説明に理解を示したナタリー。
「だから炎龍との交流はない。私が地龍と付き合いがあるのは、互いに干渉しない属性を持っているからだ」
へぇ、そういう理由があったのか。
「そういえば地龍は雷龍がちょっかい出したから消えたとか言ってたよね?」
「雷龍では地龍と相性が悪いだろう?」
今度は俺とジェイルの質問。
「雷龍としては、だからこそなのだろうな。地龍は元々争いを好む性格ではない。避けられる戦いならば、と身を引いてどこかに隠れたのだろう」
前、リィたんに地龍の素材欲しいとか言ってた時、確か『肝が冷える』とか言ってなかったっけか?
「だが、地龍は怒ると怖い」
それは肝が冷えるな。
「溜め息を吐きながらやれやれと隠れる地龍が容易に想像出来るな。……ところでミック」
「ん?」
「雷龍は再訪を言い残し去った。この意味がわかるな?」
「……あぁ」
「それまでの間に出来るだけ強くなれ。そう、私より強く……!」
俺の肩に手をのせるリィたんの瞳は、かつてない程真剣なものだった。
これは、俺だけじゃない、ミナジリ共和国民全員の存亡が懸かっている最優先事項とも言える。
「……ちょうどいいかもな」
「何が? あ、何がでしょうミケラルド様?」
ナタリーがとても可愛い。
「いや、冒険者ギルドからの依頼でさ、各国に立国についての親書を届けなきゃいけないんだよ」
「え? それは確か私が冒険者ギルドに依頼したはずなんだけど……?」
「だからランクSの依頼として俺にきた」
頭を抱えるナタリーが……
「二割の手数料損しちゃったぁああああ!?」
悲痛の叫びを荒野に響き渡らせる。
「それでミック、『ちょうどいい』とは?」
金勘定を頭でしているナタリーをよそに、ジェイルが聞く。
「どうせ各国を回るなら、各国のダンジョンに潜って来るよ」
「ほぅ」
ジェイルが口を尖らせる。
「うむ、それがいい。だが、南へ行けば困難なダンジョンもあるかもしれない。もしそうなれば、我が力をいつでも頼るといいぞ!」
バインと胸を張るリィたんと、
「微力ながら、手伝える事があれば言ってくれ」
剣に手を置きながら言うジェイル。
そしてナタリーは溜め息を吐き言った。
「分裂が役に立つ時が来たって事ね。わかったわ、ミナジリ共和国の事は私に任せて!」
影の支配者ナタリー爆誕の瞬間だった。
次回:「その267 執筆中」




