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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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265/917

◆その264 限界

他の作品でも行っていたのですが、今話は三人称視点です。

今後また出てくる可能性もあるので、三人称視点で進める話につきましてはサブタイトル前に「◆」を付けます。

 血走る瞳、流れる雫は涙ではなかった。ミケラルドの血涙(けつるい)は頬を朱に染めた。

 (あるじ)の危機に手を伸ばすリィたんだが、当のミケラルドはリィたんという存在に気付いていない。

 彼の目に映るのはただ一つ。雷龍シュガリオンという(おの)が脅威のみ。

 ミケラルドの肌という肌から浮き上がる太い血管は、事の異常を知らせた。


「カカカカカッ……!」

「馬鹿な……!? この我をサイコキネシスだけで止めるだと!?」


 ミケラルドの口からは涎が垂れ、足もおぼつかない。

 軸足すら定まらぬその姿からは力という存在を周囲の者に感じさせる事はない。

 漂う魔力は(ぜろ)に等しく、ミケラルドの最後の力――(すなわ)ち精神力のみで発動しているサイコキネシス。だが、そんなミケラルドの今の風貌からは精神力など垣間見えなかったのだ。

 リィたんは困惑の色を顔に浮かべながらミケラルドを見、案じた。


「このっ! このような児戯で……!」

「黙っていろだまっていろダマッテイロッ! もうすぐその身体をねじ切ってヤル……! クカ、クカカカカカッ!」


 リィたんの後ろから聞こえる足音。

 それは異様な空気を察知し、異様な殺気によって目覚めたジェイルだった。


「あれは何だ……?」


 ジェイルが聞くも、リィたんから答えは出なかった。


「わからん……だが、ただ一つ言える事はある」


 リィたんは気付いていた。

 これまでミケラルドと過ごしたその過程で見たミケラルドの異様性。

 ミケラルドの陰にちらつくおかしな一面。

 そしてジェイルもまた、気付いてしまったのだ。

 かつてミケラルドがドゥムガと戦った時、彼は暴走を起こした。

 ジェイルの助言もあり元に戻ったミケラルドだったが、今ジェイルは別の事が頭に(よぎ)ったのだ。


 ――あれは本当に暴走だったのか? と。


 そしてその結論に至った時、ジェイルはリィたんと口を揃えた。


「「少なくとも、我らの知っているミックではないな」」


 見合って言った二人は静かに頷き合い、そしてまたミケラルドの背中を見つめた。


「別の人格?」

「いや、ナニか入っているな」


 ジェイルが聞き、リィたんが答える。


「一体何が?」


 だが、ジェイルの二つ目の問いには首を横に振る他なかった。


「……ミックは寄生転生によってスパニッシュがこちらに呼んだと言っていたな」

「私もそう聞いた」

「ずっと気になっていた」

「何がだ?」


 ジェイルは横目で口ごもるリィたんを見る。

 やがてリィたんは口にする。


「寄生とは(すなわ)ち、相手がいて成り立つべきものだ。ミックが強引に寄生させられたとしたら……その相手は一体誰だ(、、、、、、、、、)?」


 リィたんがそう言い終えると、ジェイルは鼻息をすんと吐いてまたミケラルドを見た。


「カカ……カヒッ! ガァッ!?」


 そして、眉をひそめながら言った。


「誰だ、ではない。『何だ』と言うべきだろうな」


 リィたんもまた、ミケラルドの横顔を見つめる。

 そして、何かを諦めたかのように小さく溜め息を吐いた。


「いずれにせよ、今はあの状態のミックだけが我々の生命線だという事だ」

「だが、あのままではミックの頭が持たん」


 雷龍シュガリオンすら押さえつける超強力なサイコキネシス。

 それを制御するミケラルドへの負担は計り知れない。

 目から、そして鼻から血を流し、血の泡を噴き出しながらもミケラルドはシュガリオンと対峙し続けた。


「吸血鬼のガキがぁ……っ!?」

「ゲヒィッ!? ア……アヒ? フヘ……フヘハ? ハハハハハハハハッ!!」


 やがてミケラルドの腕が、手が、指が動く。

 左手が下、右手が上に回り、円を描くように。


「お、お? おぉっ!?」


 それと共に雷龍シュガリオンの首が、徐々に横へ倒れていくのだ。


「おっ!? おぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 踏ん張る雷龍シュガリオンの絶叫の如き雄叫(おたけ)びが荒野に響き渡った時、戦闘は終焉を告げた。


「はぁはぁはぁはぁ……っ!」


 肩で息をし、自身の安堵を確かめるかのような目をする雷龍シュガリオン。

 対し、その正面で立ち尽くす吸血鬼――ミケラルド。

 互いに大地に両の足を付け、未だ戦闘は続いているかのように見えるも、それは違った。

 ミケラルドの瞳は既に全てを出し尽くした事を知らせていた。

 廃人の如く、どこでもない中空を向き、瞳の定まらぬミケラルドの視界がぐるりと弧を描く。

 何を支えにする訳でもなく、ミケラルドは頭から地面へ倒れ込んだ。

 ピクリとも動かぬミケラルドを見て、息を整えた雷龍シュガリオンが神妙な面持ちで一歩前に出る。

 ――――だが、


「……む?」


 倒れるミケラルドを前に立ちふさがる男と女。

 それがジェイルであるという事、リィたんであるという事は明白だった。

 傷だらけになりながらも、雷龍シュガリオンに道を譲る気はない様子だ。


「……そんな姿でそいつを守り切れると言う気か?」

「そんな事は関係ない」


 リィたんの言、


「今我々に出来る事はこれだけしかないというだけの話だ」


 ジェイルの言は、雷龍シュガリオンの言葉を、足を止めさせた。

 そして、二人の間から見える力なきミケラルドを見据え、リィたんに言ったのだ。


「その吸血鬼のガキ……名を何という?」

「我が(あるじ)、ミケラルド」

「……なるほど、水龍リバイアタンの(あるじ)か」


 雷龍シュガリオンはそう言ったきりしばらくミケラルドをじっと見ていた。

 そして、何かに納得したかのように、後方へ跳んだのだ。


「当てが外れた」


 リィたんが雷龍シュガリオンを目で追う。


「水龍リバイアタンは予想以上に弱かった。……だが、それ以上の戦果があった」


 雷龍シュガリオンは、今一度ミケラルドを見、


「我に死を予期させる程の強者という戦果がな」


 そう言って消えていったのだった。

 雷龍シュガリオンをいた場所を見ながら、ジェイルが聞く。


「どういう意味だと思う?」

「青い果実が熟れるのを待つのだろう」

「ふむ……そういう事か」

「何にせよ」


 リィたんがミケラルドを見る。


「うむ、全員生還だ。相手が相手だけに、ある意味大金星というやつだな」

「この顔で生きてると?」

「我らがミックはそう簡単にくたばらない」


 リィたんが自身の膝にミケラルドの頭を乗せる。


「見ろ」


 ジェイルがそう言うと、リィたんがそれに釣られてミケラルドの顔を覗き込む。


「なるほど、流石我らのミックだな」


 くすりと笑うリィたんと、呆れるジェイル。

 そこには、リィたんの柔らかき太腿(ふともも)の心地良さを、脊髄反射の如く理解した、ミケラルド本来のだらしない顔があったのだった。

次回:「その265 大地と共に」

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[良い点] キャラが可愛く面白い [一言] やっぱり中に魔王が入ってるパターンかぁ この展開苦手なんだよなぁ
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