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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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264/917

その263 薄き望み

2020/6/9 本日2話目の投稿です。ご注意ください。

 俺はかつて魔力を枯渇させてしまったことがある。

 それは自らの過ちにより、聖水を飲んでしまった時。

 それ以外には枯渇した事などない。

 だが今回、あの時よりも更に保有魔力が増えたというのに、魔力切れを起こしそうになっている。

【覚醒】も【解放】も使っているのに、リィたんもジェイルもボロボロになりながら戦っているというのに、奴の身体は傷一つ付かない。

 おかしい、まだランクSの配達依頼すら終えていないのに。

 世界が思い通りに動いてくれないとはこの事か。そう思いながら雷龍シュガリオンを睨む。


「ぬぅ……流石に厳しいか……!」


 膝を突くリィたんが焦げた身体に鞭打ちながらも立ち上がろうとする。

 しかし、身体の支えとしているハルバードを掴む力すらままならなく、ずるりと体勢を崩してしまう。


「弱い、お前はそれでも龍族か?」

「まったく、それはこちらのセリフだ。その強さ、霊龍(れいりゅう)すら彷彿させるぞ」

「霊龍か。あれはあれで別次元の強さを持った龍族。いずれ相まみえる事もあるだろう」

「では、後程私から伝えておいてやろう」

「無理だな」

「ふっ、最初から生かす気などなかったという事か……」


 言いながらリィたんは仰向けに倒れる。


「すまんミック。意外と早い天寿となってしまったようだ」

「謝んないでよ。ちょっと努力が足りなかっただけだって……ははは」


 俺もその隣で仰向けになって倒れる。


「ジェイルも付き合わせて悪かった……」


 リィたんが言いながら倒れているジェイルを見る。


「…………」


 ジェイルから返事はなかった。

 心音は聞こえるが、気を失っているようだ。

 流石に相手が悪すぎる。魔族の襲来どころではない。龍が攻めてきたのだ。

 たとえリィたんがいたとしてもこちらは万全の状態ではない。

 ミナジリ共和国の仲間がいたとしても、このいかんともしがたい差は埋められなかっただろう。

 俺たち三人だけの犠牲で済んで良かったと考えるべきか。

 力も出ない。魔力もない。全員が全員全てを出し切った。

 それで負けてしまったのなら仕方ないのだろう。それが俺たちが生きる世界。

 冒険者の世界なのだ。

 だから俺はここで潔く自分の運命を受け入れるべきなんだろう。


「ミック……?」


 だろう……。


「ほう、まだ立つか」


 立つ?

 俺は自分の視界が動いていた事に気づいていなかった。

 そう、雷龍シュガリオンを前に、俺は再び立っていたのだ。

 フラフラのまま立ち上がって何をする?

 力が抜け、立つ事もままならない。魔力が枯渇し世界すら歪んで見える。

 そんな状態で何が出来る? そんな目をするのは当然雷龍シュガリオン。

 俺だって何で立ったのかはわからない。だが、この運命を受け入れるべきは俺じゃいけないんだ。俺であっちゃいけないんだ。

 俺の背中には多くの臣民がいる。多くの仲間がいる。

 死ぬのであればせめて前のめりに。違う。そうでもない。

 死んではいけないのだ。たとえ天災と恐れられる龍族であろうとも、俺は、俺だけは死んじゃいけないのだ。

 俺にはそれだけの責任がある。俺にはその責任を果たすべき義務がある。

 誓ったんだ、あの日、あの時、あの場所で。

 フラフラだろうが関係ない。力が出ない? 魔力がない? なら別の力を使うまでだ。


「む? ……なるほど、サイコキネシスか。確かにこれならば魔力も力も使わず発動出来る。そうか、お前は吸血鬼だったか……」


 そう、俺に残っていたのは精神力のみ。

 この力が俺の最後の力。

 俺はこの力だけで戦うしかない。


「笑止っ!!」


 直後、雷龍シュガリオンの一喝によって俺のサイコキネシスが解かれてしまう。


「くっ!」


 再度発動するサイコキネシス。

 岩の上に軽やかに着地した雷龍シュガリオンは、俺を見据えながら小さく溜め息を吐く。


「何ともみっともない姿だ。無様に足掻いたところで勝敗は既に決した。そんな姿で何をする? 何を得る? 我にそんな児戯は効かぬぞ」

「うるせぇな……勝敗はまだ決してないし、何とかなるかもしれないし、こんな児戯でも効くかもしれないだろ……」

「呆れてものも言えぬな」

「あぁ、じゃあ黙っててくれ。その方が集中出来るからな」

「ふん、どこか頭でもぶつけたか。それとも死を前にした恐怖で吹っ切れたか。どちらにしろお前の命はこのひと振りで決まる」

「うるせぇって言ってる……だろ!」

「っ!? 馬鹿な!?」

「よーしよし、そのまま動くなよ」

「ちょ、猪口才な! カァアアアアッ!」


 くそ、外されちまった。

 もう少し。

 もう少しでわかりそうなんだよな。


「吸血鬼のガキがっ!」

「まずはその口からだな……!」

「っ!」


 何だ使えるじゃないかこの力。

 何でもっと早く使わなかったんだろう。


「ッッ!! ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 チッ、またか。


「馬鹿な? 吸血鬼如きにそんな力があるはずがない。何だ、その力は――――またかっ!?」

「うるさい煩い五月蠅いウルサイんだよ。いいからちょっと黙ってろ。こっちは今いいところなんだからさぁ……!! クッ、カカカッ!!」

「っ! いかん、ミック!」


 そうリィたんが叫んだ時、最早(もはや)俺の精神力は限界を迎えていたのだ。

次回:「その264 限界」

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