その257 新情報
「……何やってるんすか?」
それは、俺がドマークたちとの契約の後、リーガル国側の入り口にやって来た時の事だった。
適当なスペースに設置しているベンチを豪快に使い、寝ている男が一人。その表情はグッタリとしていて、今にも死に絶えそうだった。
「お、おぉミックか……おぅふ……」
口を押さえながら堪える男の名はディック。リーガル国の首都リーガルのギルドマスターである。
「何か言い残す事は?」
「水を一杯く――がぼぼぼぼぼぼぼ!?」
ディックの言葉を聞き終える前に、俺は【ウォーター】の魔法を発動していた。最初は驚いた様子のディックだったが、逆にこちらが驚く程彼は水を飲み干していった。
「あぁ~……生き返った」
何故、俺の周りにはおっさんしかいないのだろうか。
「じゃ、お疲れ様です」
今日という日をおっさんDAYにしたくなかった俺は、そのままディックが倒れていた理由も聞かずにその場を去ろうとした。
が、俺はディックに腕を掴まれ止められてしまった。
「やぁ、ミックじゃないか」
「……やぁ、ディックさん」
「いい天気だな」
「いい天気ですね」
「という訳でちょっと付き合ってくれ」
人は、時によって天気がいいから人を付き合わせるものである。俺はまた一つ賢くなったのであった。
「はぁ……一体何なんですか?」
「依頼だよ。ランクSの」
「はぁ!? こっちは今建国したばかりで忙しいんですけど!?」
「その建国に関わる事だ」
「っ!?」
つまり、ディックも俺の言い分を理解していない訳ではないという事だ。建国に関わる事……一体どんな事なんだろうか?
ランクSの依頼だ。流石に外で話す訳にもいかず、俺はディックに付いて行き、冒険者ギルドに着いたのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「それで、一体どういう事ですか?」
「これは、とある方からの依頼でな。重要な書類故、冒険者ギルドに仕事が回ってきたんだ」
「へぇ、って事は書類はリーガル国にあるんですね? ランクSの依頼がリーガル国で発生するなんて珍しいですね」
「…………ソーダナ」
気のせいか、今一瞬だけディックが呆れ眼で俺を見たような気がする。
「つまり、今回の仕事は運び屋」
「そう、それもシェルフ、ガンドフ、リプトゥア国、法王国を股にかけたかなりヘビーな運搬だ」
何だ、それくらいなら――
「――『簡単だな』って思っただろ?」
「いいえ、滅相もない」
「まぁ、あの魔法を使えるミックなら訳ない仕事だ。だから、幸か不幸かミックなんだよ」
「何故、今不幸という言葉が?」
するとディックは、俺に複数枚の封書を見せた。
瞬間、俺は思い出したくない事を思い出してしまった。
「…………どこか見覚えのある封書ですね」
「これがシェルフ、これがガンドフ、これが、リプトゥア国、これが法王国だな」
ころんと転がる封書。
封をしてある蝋に目をやると、見覚えのある紋章があった。
「……水龍の紋章ですね」
「ソーダナ」
「……私の見間違いじゃなければ、これはミナジリ共和国の紋章だと思うですけど?」
「流石ミックだな」
「これはもしやミナジリ共和国立国につき、各国代表への挨拶状では?」
「すまんな。冒険者には中身を教えられない決まりでな。もしかしたらそうなのかもな。ははは」
「ははは」
……何で俺が書いた書状を俺が配達せにゃならんのか?
「仕方ねぇだろ。これだけの国を股に掛ける書状だ。ランクA以上は必定。更には中の重要度を考えるとランクSの依頼になる訳だ。そして、冒険者ギルドが今ランクSの仕事を最優先で振りたい相手と言えば?」
ディックの指がすっと俺に向く。
「私だと?」
「はははは、どうだ? 面白いだろ?」
「いや、笑えませんて……」
「普通に考えたら一国の代表ってのは冒険者をやらねぇんだよ」
「それは盲点でしたね」
「俺はお前の性格が盲点だったよ」
「それで、ミナジリ共和国が冒険者ギルドに支払った報酬から、手数料の二割を引いた額が私に入ると?」
「成功報酬らしいぞ。中々抜け目がない国だよな、ミナジリ共和国って」
…………これ、何ていうマッチポンプ?
俺は大きな溜め息を吐き、自分が書いて封をした書類を【闇空間】に入れる。
「まぁ、これから出かける予定だったからいいですけどね……」
「おう! あ、茶でも飲んでくか? ここの元首は払いがよくてな!」
これもまたマッチポンプか……。
俺は項垂れながら、ミケラルド商店に向かい、更にそこからシェルフに向かったのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
シェルフに着いた俺は、早速シェルフの族長――ローディの家に向かった。
「ミケラルド様っ!」
そこで最初に迎えてくれたのは、ミナジリ共和国大使候補筆頭であるメアリィだった。
輝かんばかりの満面の笑みで俺の手をとるメアリィ。
そんなメアリィを後ろから見る父親のディーン。
あの、ディーンさん? 今日も目が鋭いのでは?
そんなディーンの目は妻のアイリスに気付かれド突かれ、小動物のような瞳へと変わった。
なるほど、家庭の覇権はアイリスが握っているのかもしれない。
「あの、今日はどんなご用でしょう!? 私この後、ミナジリ共和国に向かう予定だったんです!」
「え? って事はメアリィ殿が大使に?」
「はいっ!」
やはり、シェルフ側のミナジリ共和国の大使は、メアリィに決まったようだ。ところで、シェルフにはミナジリ共和国の大使って置いた方がいいのだろうか?
そんな事を考えるミケラルド君だった。
次回:「その258 新入生」




