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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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251/917

その250 不審の国

「ふぅ……」


 あ~~~~……眠い。

 パジャマからシャツに着替えた俺は、困惑した顔付きでソファーに座って待つエメリーの下へ歩いて行く。


「やっぱり、リプトゥア国はエメリーさんに勇者の剣を渡しませんでしたか」


 そんな俺の言葉を聞き、エメリーは悲しそうで、歯痒(はがゆ)そうで、悔しそうな顔をしながら静かに首を縦に振った。

 そして、すぐに思い出したのだ。

 自分がここまでどうやって来たのかを。


「そ、そうだ! ここは!? ミケラルドさんがいるって事は、ここはやっぱりミナジリ領なんですか!?」

「えぇ、新生ミナジリ共和国です。三日前に独立しました」

「それはおめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「ってそうじゃないです!」


 ドジっ子というか天然も少し入ってそうなエメリーのノリツッコミはともかくとして、俺はくすりと笑ってエメリーの驚きを受け入れた。


「や、やっぱりあれは失われし転移魔法……! そうか、だからミケラルドさんはあんな事を言ったんですね……」


 ――――時が来ない事を願います。


 俺は勇者の剣をエメリーに渡しに行った夜、別れの言葉としてそれを選んだ。その理由は正にこれ。


「時が来てしまいましたね」


 これとは(すなわ)ち、リプトゥア国が勇者を裏切ったという事。当然、そうと受け取るには早い。

 だが、勇者の下にあらねばならない剣を、渡さないという時点で、リプトゥア国は勇者を裏切っているのだ。

 それは変えようもない事実であり、信じがたい事実である。

 人間の国が勇者を裏切り、魔族の国が勇者を受け入れる。

 何とも皮肉めいた話ではあるが、エメリーが今それを知る事はない。


「一応……戻る事も可能ですが?」


 俺の問いに、エメリーは沈黙でしか答えられなかった。

 話を変える訳ではない。だが、話を進めなければ何も進まない。俺はシュッツに聞く。


「シュッツ、リプトゥア国が勇者を封殺(ふうさつ)する事でどんなメリットがある?」

「……そうですね、大きく挙げて二つ」


 意外と少ないものだ。


「一つは勇者を対抗国への抑止力として考えている場合です」

「というと?」

「リプトゥア国は過激なやり方を通す事が多く、他国から疎まれる事が多い国です。しかし、勇者がいれば無視する事は出来なくなる。エメリー様には申し訳ありませんが、勇者という材料を使い、他国との交渉を有利に運ぶ事も可能かと存じます。当然、勇者がいる事によって他国からの支援金を受け取っています。あのリーガル国も例外ではありません」


 なるほど、国として甘い蜜を吸い続けられるという事か。

 ブライアン王も辛いだろうな。リプトゥア国から戦争まがいの事を仕掛けられながらも拳を握る事しか出来ない。


「ん? という事は、その内ウチからも支援金を支払わなくちゃいけないって事?」

「古より存在する【世界協定】という繋がりが国同士で存在します。ただ、この協定の中にはシェルフとガンドフは含まれておりません」

「……人間だけの協定?」

「そういう事になります。もしかすると今後このミナジリ共和国にもそういった打診があるかもしれません」

「わかった。もう一つは?」


 二つの内、もう一つのメリットを聞いた俺に、シュバイツは少し言いにくそうな顔をした。

 その顔を見ただけで、俺は……いや、俺たちはわかってしまったのだ。


「リプトゥア国が……魔界と通じていた場合です」


 …………やはり。

 闇ギルドが魔界と通じていた事には驚きだが、リプトゥア国が通じている可能性まで出てくるとなると、いよいよ人間界もおかしくなってるな。

 すると、すんと鼻息を吐いたリィたんがシュバイツを見た。


「シュッツ、二国間での(はかりごと)とは互いにメリットがあって初めて成立するもの。魔界のメリットは理解出来るが、リプトゥア国側のメリットは何だ?」

「……申し訳御座いません、リィたん様。そればかりは私にも何とも……」


 シュバイツの言い分は(もっと)もであるが、決定打には欠ける。

 勇者を監視し、成長を妨害させる事で何らかの甘い蜜が魔界から提供されている可能性はある。


「だけど、何らかの利益が約束されているとしたらあり得る話だよね」


 そうまとめると、エメリーが俺に言った。


「あの、ミケラルドさん」

「はい、何でしょう?」

「私って、ここにいていいんですかね……? ははは」


 その苦笑いには、当然の如く悲しみが宿っていた。

 人類を守るはずの勇者に対し、人類が最初から裏切るこの行為。勇者として、エメリーとして、ナタリーとそうかわらない年頃の乙女として、彼女の悲しみは(もっと)もだったのだ。

 そんなエメリーの悲しみに、誰もが気付いていた。

 だからこそ心優しいナタリーが、勇者エメリーの手を取って言ったのだ。


「当然でしょ! ね、ミック?」


 ナタリーが俺に向けた瞳は、信頼そのもの。

 こんな純粋な瞳を背ける事が出来る程、俺の心は冷め切っていない。

 …………当然、それに伴う批判を被る事にはなるだろうが、その全てを受ける事になろうとも、俺は勇者エメリーを、何より俺を信頼してくれたナタリーを裏切る事は出来なかったのだ。


「当然でしょ」


 これは、国の代表の決断としては間違っているのかもしれない。だが、その前に俺は人間なのだという思いがあった。

 リーガル国のブライアン王や、シェルフのローディには「甘い」と言われるだろう。

 だが、今それを決める事が出来るのは、この場で俺だけなのだ。


「それじゃ、今後のプランについて話そうか」


 そう言った後、俺はお気に入りの枕を闇空間にしまったのだった。


次回:「その251 今後のプラン」

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