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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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220/917

その219 過酷なる輸送護衛任務

 輸送部隊はとてつもなく巨大な組織が率いていた。

 磨きあげられた鎧に身を(まと)った、仰々(ぎょうぎょう)しい兵たち。

 杖に羽が生えたようなエンブレムが剣に付いている。それが法王国の紋章なのだろう。


「全たぁああああい! 止まれ!」


 気合いの入った指示で、二十近くの兵たちはピタリと止まる。

 荷馬車から更に幾人か下り、列を作る。その間から下りて来たのは剣鬼(けんき)オベイルにも負けない大男だった。満面の笑みを浮かべた角刈りの男は、大手を振って俺たちの前へ歩いて来た。


「オベイル殿とミケラルド殿であるな? 私はストラッグ! 法王国騎士団、アルゴス団長直轄、第二部隊隊長である」


 名乗るだけで百回くらい息継ぎしたい気分だな。

 今回は冒険者として呼ばれているので、貴族として名乗らない方がいいだろう。


「ストラッグ殿、私がミケラルドです。どうぞよろしくお願いします」

「うむ、時間の猶予が余りない故、詳しい話は道々(みちみち)話すとしよう。では出発!」


 オベイルは一言も発さなかったな。

 整列しながら馬を歩かせる様、その錬度は見事と言えるが、ストラッグは荷馬車に入ったまま出て来ない。

 オベイルは荷馬車の天幕の上で胡座をかき、全く動く気配はない。

 俺は、御者の隣に乗せてもらい、正面の馬のケツをずっと眺めている。

 何の説明もないまま、移動が始まり、放ったらかし状態ではあるが、これも仕事と割り切り【探知】の魔法を発動させている。

 気になるのが、荷馬車の後ろを走る馬車である。

 荷馬車には当然オリハルコンが載っているのだろう。【探知】で反応を見る限り、そこにはストラッグ含む四人が乗っている。だが、馬車の中の二人は誰だ?

 馬車の造りこそ簡素であるが、彫り細工や装飾は一級品である。高貴な身分の者が乗っているのだろうか。

 出発して三時間程経っただろうか、木々の木陰を背にストラッグが皆に休憩を指示した。

 オベイルは相変わらず天幕の上である。

 俺は自分の尻をトントンと叩き、硬い御者席に座ってた疲れを癒す。

 すると、ストラッグが首をくいと動かし、遠目に俺を荷馬車の方へ誘導する姿が見えた。

 これはオベイルが天幕の上から動かないからだろう。

 まぁ、あの場所が一番護衛には適しているからな。


「ガンドフまでは三日の道程である。この休憩の後、四時間程馬を歩かせると森が見える。その森の手前で野営。翌早朝に出発。二日目は三回の休憩を挟みロッソの町へ。三日目の昼には首都ガンドフが見えるだろう。何か質問は?」


 情報が少なすぎて聞くに聞けない状況である。

 ランクSの仕事ってこんなのばっかりなのだろうか。

 正直、闇空間に全員ぶっ込んでガンドフまで走りたい気分だが、それを提案する訳にもいかないのが辛いところだ。

 ……法王国騎士団、か。武力的には全員がランクC程度。ストラッグもBといったところか。集団行動という点での錬度は高いが、確かにこの面子ではオリハルコンの輸送は心許(こころもと)ない。

 御者の爺ちゃんからカップをもらい、ウォーターで水を一杯にして返すとニコニコと喜んでくれた。今回の旅の癒しはこの爺ちゃんかもしれない。

 休憩中に一度、俺たちの陣営にモンスターが現れた。

 と言っても襲って来たというより、紛れ込んでしまったという印象が強い。

 数匹のホブゴブリンは、騎士たちの剣によって打ち倒された。

 俺も戦いに参加するべきだったのだろうが、ストラッグに止められてしまったのだ。

 勿論、怪我を負った者に対しては回復魔法を施した。

 ホント、全然やる事がなかった。

 モンスターのランクが高いという噂の法王国領内ではあるが、見かけるモンスターは皆低ランクばかり。


「もしかして聖水使ってます?」

「当たり前じゃろう?」


 御者のお爺ちゃんの鋭い突っ込みにより、俺は納得に追いやられた。

 そうか、輸送隊って聖水使うんだ。

 直接振り掛けられなければ問題ないのだが、近くに聖水があると聞くと気が気じゃない。

 だが、そわそわすれば爺ちゃんに怪しまれてしまう。

 と、そんな俺への助け船があった。


「北から強い魔力反応」


 俺が後方のストラッグへ声を掛けると、ストラッグが騎士団を止めた。


「グリーンワーム亜種……か」


 四匹のグリーンワーム亜種が這うようにこちらへ向かっていた。

 騎士団の皆の顔が緊張に染まる。


「オベイルさん?」

「任せた」


 彼の依頼料を、全て俺にくれないだろうか。

 そう思ってしまうのも無理はない。


「力を見せてくれたまえ」


 ストラッグの指示もあり、深い溜め息を吐きながらグリーンワーム亜種の下へ走るミケラルド君。


「一、二、三、四っと」


 輪切りではなく、長い胴体を縦切りする事により攻撃回数を減らしたエコノミー斬撃。

 小走りに戻る俺を、騎士団の皆は安堵の笑顔で迎える。

 彼らは高ランク冒険者との行動も多々あるのだろう。そこまで驚かれはしなかったが、少なくとも俺の実力の一端は見せられたはずだ。


「うむ、では先を急ごう」


 ストラッグからの感想はなかった。簡潔無欠という感じだった。

 やっぱり法王国ともなると、強い人間が多いのだろう。

 いや、もしかして騎士団の団長……確かアルゴスとか言ったか? そいつが強いのかもしれない。

 退屈極まりないこの輸送護衛任務、もう少しミケラルド君のボケどころが欲しいところだ。

 そう思いながら、御者の爺ちゃんと世間話に華を咲かせる俺だった。

次回:「その220 荷馬車の中身」

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[気になる点] >ストラッグからの感想はなかった。簡潔無欠という感じだった。 なんとなく言いたい事は解るのですが「簡潔無欠」って言葉聞いたことないのですが・・・
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