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その19 最果ての村…………にすら入れない

「…………痛い」

「当たり前だ。自分が魔族という事を忘れてるんじゃないか? お前は?」


 ジェイルが呆れた口調で言う。

 人界を訪れて一日程で、俺たちは最果ての村、ジャリード村に着いた。

 喜び走って村の入口まで行くと、鎧こそ着ていないが、ガタイの良い男が槍を持って構えた。まるで俺が悪者のように。

 ……そうでした。私吸血鬼でした。

 村の柵の内側から矢の雨が降り、俺は背中を刺されてジェイルお父さんのところまで逃げてきたのだ。


「ダークヒール! あーいて。ったく、せめて話くらい聞いてくれたっていいだろうに」

「ミック」

「なんだい、リィたん?」

「滅ぼすか?」

「滅ぼさない滅ぼさない」


 何基準でものを考えてるのこの人?

 何か「人間も厄介な生き物だな」とか呟いてるけど、一番厄介な生き物、ここら辺じゃあなただけだからね?


「わ、私が……行ってこようか? 調味料くらいなら分けてくれるかもしれないよ」

「危険だな」

「危険だね。却下だナタリー。でも、この中で一番人間に見えるのは…………」

「滅ぼ――」

「さない滅ぼさない」


 あの横乳海獣様だけなんだが、こんな調子では真昼間からあの一帯を血の海にしかねない。

 勿論、別に村に入れなくてもいいんだが、さっきナタリーが言った調味料ってのが欲しい。本当に。

 動物の生肉? 確かに刺身でも焼いても食えるが、やはり味気ないもので終わる。

 世の中には味付けの出来る香草やら野草もあるそうだが、あれからスパニッシュの書庫に入る事なんてほとんど出来なかった俺が、そんな事を知っているはずがない。


「仕方ない。あれを使うか」

「アレとは何だ? ミック」


 ジェイルが首を傾げる。


「たとえ俺が人間になったとしても三歳のサイズで村で買い物なんか出来る訳がない。人界の生活を知らないリィたんにも無理だし、ナタリーをあんな危険なところへ送れない。…………となると、必然的にジェイルさんになる訳です」

「この顔で入れると思うのか?」


 えぇ、無理です。鰐みたいで竜みたいですから。ちょっと近いです。怖いから離れてくれ。

 俺は「いえ」とだけ言って、ジェイルが更に首を傾げる。

 するとナタリーが思い出したかのように手をぽんと鳴らした。


「あ、もしかしてミック…………アレッ?」

「そ、俺の超能力を使う」

「それはもしかして、チェンジの事か?」


 リィたんの言葉に俺は頷く。


「あれは他者には掛けられない超能力じゃなかったか? ミックが使うのならともかく、他者であるジェイルに使えるはずがないぞ?」

「ちょっと厄介な方法ではあるんだけど、実は出来る」


 チェンジとは自分の姿形を自在に変化させる超能力だ。

 勿論、俺にチェンジを使えば大人の姿になる事もできる。しかし、この服で大人になったらまたナタリーに引っ(ぱた)かれてしまう。俺にはそういった特殊な性癖はないからな。

 この方法だと、裸になるし、服が破けてしまうからこれは却下だ。

 では、服を脱いで大人になり、ジェイルの衣服を借りる手は? ジェイルが裸になっちゃうよね? ナタリーにぶたれるジェイルが見たくないと言ったら嘘になるが、これも却下だ。

 だったら一番効率がいいのが、ジェイル自体の姿を変えればいい。

 服も破けないし、裸にもならないし、ナタリーにもぶたれない。

 俺がこの説明を終えると、何故かナタリーにぶたれた。え、痛い。


「……出来るのか?」

「ジェイルさんが人間の姿になる事に抵抗がなければですけど」


 俺は伺うように聞いた。

 ジェイルはしばらく沈黙し、俺たちの姿を一度見た後、小さく「やってくれ」と言った。

 端から嫌そうではなかったが、一体何を考えていたのだろう?


「それじゃあ腕を出してもらえますか?」

「これでいいのか?」


 ……太くて大きいです。


「硬そうな鱗だなぁ…………これちゃんと噛めるかなぁ……?」

「か、噛むのか?」


 逡巡するようにジェイルが手を引っ込める。

 まるで亀さんの首が引っ込むように。


「えぇ、俺が一回噛み血を吸う事で、ジェイルさんに対して【呪縛】が発動出来るようになります。そこからテレパシーでジェイルさんの意識に入り込み、その中でチェンジを発動するんです」

「なるほどな、『本人であればチェンジが使える』を逆手にとったのだな? ミック」

「そういう事。勿論、これもジェイルさんが抵抗なければですけど……どうします?」


 呆れた様子でジェイルが溜め息を吐き、先程とは違うテンションで「やってくれ」と呟いた。

 確かに他人からの意識介入は嬉しいものではない。困りながらも苦渋の選択ってところだろうな。

 ジェイルにはいつか何かしらでお礼をしたいものだ。

 何とか噛む事に成功した俺は、コクリと頷くジェイルを見ると、テレパシーからの呪縛を発動した。本当は目を合わせれば可能なんだが、ジェイルの顔はやはり怖いので余り見たくないのだ。

 うぅ、早く慣れないと失礼だよなぁ。

 放心状態で立つジェイルの意識に入り込んだ俺は、その意識内でチェンジを発動した。

 すると、ジェイルの顔がうようよと動きだした。

 ザラザラの竜の皮膚や鱗が体の内側に入り込むように消え、次第に滑らかさを帯びていく。深緑の体色は徐々に薄くなり、やがては肌色へと変わる。

 あんなに逞しく大きかった口も、こんなに萎んじゃちゃって!

 あんなにビキビキで太かった首も、こんなに細くなっちゃって!

 あんなに鋭く見る者を凍らせちびらせる黄金の瞳も、こんなに青く透き通った目になっちゃって!

 俺による俺流のダンディお父さんが、今誕生した。

 意識の中から【呪縛】を解除し、俺はゆっくりと目を開けた。


「…………かっこいい」


 と、ナタリーさんが呟いていました。

 妬いちゃうよ?

何とか二十話までこれました。

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