その196 帰還の祝い
「ただいまーっと」
「「おかえりなさいませ、ご主人様」」
ハの字になり整列した使用人たち。中央で待つシュバイツが再度頭を下げる。
「ランクSに昇格なさったそうで、本当におめでとうございます。ミケラルド様」
「情報が早いね、ナタリーから?」
「えぇ、奥でお待ちにございます」
テレパシーを使い、ナタリーには結果を報告している訳だが……はてさて、どこまで広まっている事やら。
俺はシュバイツの後に続き、広間へ向かう。
…………ん? 広間?
扉を開けるや否や、俺の身体を叩く盛大な賛辞。
「「ミック! ランクS昇格おめでとう!!」」
ナタリー指揮の下、ジェイル、クロード、エメラ、ランドルフ、ラファエロ、レティシア、リンダ、コリンが拍手しながら俺を迎える。
余りの出来事に俺は目を丸くしていた。
「ふふ~ん! どう? 私とレティシア、それとコリンのアイディアなんだよ!」
ナタリーが小走りにやってきて、先日の落成式に負けない料理の数々に手を向ける。
「いや……驚いた。うん」
それ以外、言葉に出来ない俺を見て、ナタリーがくすりと笑う。
そして俺の手を引き、皆の下へ誘うのだ。
「ほら、今日は主賓なんだからドンと構えて! ね、ご主人様♪」
心なしか、ナタリーがいつもより優しい気がする。
「はっはっはっは! どうだ、ミック! レティシアとナタリー、そしてコリンのアイディアだぞ!」
「ランドルフ様、今しがたナタリーに聞きました」
「そうかそうか! はっはっはっはっは!」
「でも何故ここに? シェルフと同盟を組んで間もない今の時期は、かなりお忙しいのでは?」
「流石よくわかっているな。何、間もなくシェルフより視察団がやって来るのでな。首都リーガルに移り住むエルフが何人かいるらしい」
「へぇ、リーガル国にも……」
「ふふふふ、ミナジリ領はまだリーガル国だったはずだが?」
「おっと、これは失礼しました」
「構わんよ。バルト殿の話では、ミナジリ領への移住希望者は殺到していたそうだぞ」
「という事は……」
「うむ、その余剰希望者を首都リーガルにという話だ」
「つまり、視察団とは言っても、その方々は移住希望者……って事ですか」
「自分が住むかもしれない地を見たいというのは至極当然の事だ」
「その通りですね」
「さぁ、パーティだぞ! この前呑めなかった分、今日は付き合ってもらうぞ、ミック! ははははははっ!」
このおっさん、あの落成式、本当に楽しみにしてたんだな。
なるほど、だからこのメンバーか。
その後俺は出稼ぎに向かったリィたんを呼び戻し、パーティーを楽しんだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「Z区分? 何だそれは?」
パーティーが落ち着いた頃、俺、ジェイル、ナタリー、リィたんの初期メンバーはバルコニーに集い、冒険者ギルドで聞いた事を二人に話していた。
ジェイルの疑問にリィたんが肩を竦めて答える。
「SSSの冒険者で対処出来ない……まぁ規格外の存在の事だ」
「つまり、リィたんがそれに該当すると?」
ジェイルが聞く。
「間違いなく。五色の龍が該当するので、霊龍もそうなんでしょうね」
俺の説明に、リィたんがすんと鼻を鳴らす。
「霊龍が聞いたら天か地が割れるな」
どちらにしろ割れるんだ。
「それ以外にはどんな事聞いたのー?」
ナタリーが顔を覗かせるように聞く。
「ん~、ランクの上げ方とか?」
「あ、それ気になる!」
「ギルドが回すランクSの依頼をこなすだけ」
「何それ? いつもと同じじゃない?」
「こちらが選ぶ事は出来ない指名制の依頼だよ。しかも、範囲は世界中」
「うぇ!? 世界中!?」
「考えてもみなよ、ランクAの依頼ですらまだ受けた事ないんだよ? ランクSの依頼なんてほとんどないよ。それに、十年待てばランクAの冒険者がランクSに上がれるんだから、俺たちに回ってくる事なんてほとんどないって」
「おっと、そいつはわかんねぇぞ」
そんな俺の話を割って入るような声が聞こえた。
振り返るとそこには、首都リーガルのギルドマスター、ディックがいた。
「あれ、ディックさん? いらっしゃい」
「ミケラルド、お仲間とはいえZ区分の話をするのは頂けねぇぞ。ちゃんとその話は聞いたんだろ?」
「えぇ、『あらぬ混乱を招くため、口外はご遠慮ください』って言われました」
「で、話したと?」
「禁止はされなかったのでいいのかと」
「ぐっ……! そ、その件については後程修正を加えよう」
「それで、『そいつはわからねぇ』ってどういう意味ですか?」
先の話に焦点を向けると、ディックは溜め息を吐いた後話してくれた。
「十年ランクAだった人間のほとんどは、それ以上を望んでいない場合がほとんどだ。だから、必然的に武闘大会の上位入賞者が指名される事が多い」
「へぇ」
「その上位入賞者、そして覇者もランクSの依頼には手を焼いている状況。その中で健闘してるのがあの【剣聖】や【魔帝】って話だな」
やっぱり、ランクSの中でもレミリアは優秀だったんだな。
「で、その魔帝が失敗した依頼ってのを俺が持って来たって訳だ」
「「……へ?」」
最近戦い通しだからそういうのはちょっと……。
次回:「その197 強い癖」
 




