表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/917

その190 勇者エメリー

 銀髪の少女、勇者エメリー。

 背に見える大剣は、どういう理屈かはわからないが、一瞬で引き抜かれていた。

 何アレかっこいい。

 がしかし、先程までの低姿勢がどこへやら。身の丈程の大剣が小さく見える。

 やたら堂に入っている。内包する魔力が溢れ出て、彼女を大きく見せているのか。それとも、俺の目がそう見せているのか。


「実は私、この試合を楽しみにしていたんです」

「何でです?」


 俺の問いに、彼女は口の端を少し上げるだけだった。

 その笑みが何を意味するのか、俺も、動向を見守る審判もわかるはずもない。

 審判が一歩引き、手を下げ……振り上げる!


「始め!」


 パーシバルVSレミリア戦を彷彿させるような開始直後のダッシュ。

 剣と大剣の衝突と同時に、エメリーは力強い声を上げた。


「やぁあああああああっ!」


 腹に力の入った強き咆哮。

 相当な修羅場を潜ったのだろう。大剣の威力も、魔力の重圧も、足運びから剣筋まで、エメリーの攻撃は一流の冒険者と言えた。


「ふっ!」


 俺の力みと共に発動する【身体能力超強化】。大剣を押し返し、エメリーは後方へ跳びながら宙返りする。


「流石、やりますね! はぁあっ!」


 着地と同時に再度ダッシュ。

 再びそれを受けると……っ!?


「くっ!」

「私と同じで相手の実力を見て戦うタイプだと思いましたっ!」


 さっきより威力が……上がってる!

 瞬時に【身体能力強化】、更に【解放】を発動。


「はっ!」

「っ!? やっぱり、間違いない!」


 彼女は何を言っているのか、俺にはわからなかった。

 俺は力を入れて彼女の大剣を再度押し返す。土煙を舞い上げながら後方へ吹き飛ばされたエメリー。

 今度こそ彼女の余裕はなくなり、体勢が揺らぐ。


「ま、まだまだです! ふっ!」


 エメリーの身体を多う神々しい光。

 これは、光の身体強化魔法!?

 三度ダッシュするエメリーの攻撃。


「つぉっ!?」


 こりゃ下手するとレミリア並みっ?

 俺はすかさず闇魔法【ダークオーラ】を発動し、その威を迎え撃つ。


「ふっ!」

「どこまでも上がりますね!」


 その後エメリーは、俺が押し返す度に力を強めた。

 エメリーが光魔法【パワーアップ】を使えば、俺も同じ魔法を発動し、【スピードアップ】を使えば俺も同じく発動した。止まらぬ猛攻はコロセウム中に轟音を響かせ、その衝撃は波となって観客席を襲った。


「わ、わっ!?」


 爆風によりネムのスカートがちらりとめくれあがる。


「どこを見てるんです!?」


 攻撃の合間に届くエメリーの声。


「いえ、どこも」


 断固として否定するミケラルド(おっさん)


「これが……最後です!」


 彼女が何かを使った、乃至(ないし)発動させた様子はなかった。

 しかし、これが彼女の最大攻撃力。受けなければジェイル師匠に怒られてしまう。


「はぁ!」

「うわぁ!? っと、とと……はぁはぁはぁ」


 この競い合いに勝つ事は出来た。

 だが、俺の手札は残り少なかった。手札の数で勝っただけとも言える。そしてこれは、俺のこれまでの経験と吸血活動の(たまもの)である。【血鎖の転換(ブラッドコントロール)】があったからこそ勝てた。運と能力に重きを置いた勝利。

 それに比べ、彼女の手札は多かった。これが勇者が受けた天啓と天恵の力。

 だが、それでも俺には届かなかった。だからこそ彼女は知恵を働かせた。

 何度も何度も押し返され、彼女は、エメリーは同じ場所に下り立った。

 着地の瞬間に大地を蹴り、密かに造っていたのは陸上競技で見るような足場(スターター)だった。一部盛り上がっている土部分に魔法を掛け、ほんの短時間ながら強化を施したのだろう。

 足場(スターター)の完成と共に、最高の一撃。

 何とも逞しい少女……勇者エメリー。

 エメリーの出方を待つ俺と、体力の回復を図るエメリー。

 そんな膠着(こうちゃく)状態が生まれた時、観客たちがようやく事態に追いついた。


「「ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!」」


 様々な声が交ざった歓声が俺たちに届く。

 何をした訳でもない。俺たちが行ったのでは戦闘ではなく単なる力比べ。

 たったそれだけで観客は、会場は湧いた。

 割れんばかりの声援は、俺たちに何とも言えない高揚感を与えた。

 互いに笑みを浮かべ、次なる手を考える。

 なるほど、武闘大会に来て初めて楽しいと思えるような相手だ。

 前世と今世の合計でいえば、俺の半分に満たない歳の少女が相手だというのに。

 やはり勇者。世界の主人公とも言うべき強者。

 そんな中、エメリーの中で次のプランが決まったのだろう。

 彼女の笑みはいつの間にか消えていたのだから。


「ミケラルドさん」

「何です?」

「次で……次で決めます」

「まだ始まったばかりじゃないですか……」


 俺が言うと、彼女はくすりと笑った。


「ふふ、ですね。でも……次で決めます」


 自信に満ちた声。

 どれだけ強力な力で来ようとも、俺がやる事は決まっている。

 この場で勇者と戦い、そして勝つ。

 そう、師ジェイルに倣うだけ。

 勇者殺しジェイルの雄大な剣で、勇者を打ち砕くのみ。

 人間と魔族の半端なおっさんが、世界の主人公を打ち砕く。

 ただ、それだけだ。


「っ! 行きます!」

「来い!」


 次の瞬間、俺の視界は光に染まったのだった。

次回:「その192 ミケラルドの全力」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ