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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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186/917

その185 果敢なるラッツ

「リィたんお疲れ~」

「ミックもな」


 コロセウムの観客席で落ち合った俺たち二人。

 因みにネムはいない。

 何故なら、ホークの共犯者を警備員に突き出している最中だからである。

 相手が冒険者だったという事もあるが、職務とはいえ自分の命を狙った男に付いて行かなくてはいけないとは、ネムの人生も中々にハードなのではなかろうか。

 小一時間の後、俺たちの下へ戻ったネムは、それはもう怒っていた。


「んもう! 折角の非番なのに、何でこんな事が起こるんですか!」


 ぷんぷんである。


「ぷんぷんです!」


 やっぱりそうだった。

 俺が土壁の中から出した対戦相手のホークは、中から解放したものの顔はやつれきっていた。憔悴していたホークは、もしかするともう冒険者としては活動出来ないかもしれない。結果的に未遂とはいえギルド職員の命を脅かしたのだから。

 とはいえランクAまで上り詰めた才能ある男だ。この先は冒険者ギルドの対応次第だろうな。

 リプトゥアの屋台が並ぶ通りで、ネムの憂さ晴らしもとい買い食いに付き合いながら腹を満たした俺たちは、そのまま帰路についた。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 リプトゥアに購入してある空き家は、空き時間の時に俺が色々置いてはいるが、まだちゃんとした家具もなく、寝泊まりするには不自由がない……程度のものだ。

 物理的で魔法的な部屋割りは行っておらず、ただ広いというだけの家。

 ベッドを三つ置き、リィたんとネムの女性用二つのベッド、そして俺のベッドの間には蛇腹(じゃばら)()りの仕切(しき)りがあるだけだ。

 俺とリィたんは野宿でよく一緒だったし別にいいのだが、ここにネムがいるのは違和感である。何故なら彼女には、冒険者ギルドが提供するギルド職員用の宿舎があるからだ。

 そんな彼女がここにいる理由は至ってシンプルである。


「ん~! やっぱり綺麗なシーツは最高です~♪」


 今日もシンプルな理由を部屋に響かせていらっしゃる。

 生活魔法とも言えるクリーンウォッシュでいつも綺麗なシーツは、一般の人間にとってはかなり貴重な魔法らしい。


「なぁネム?」

「何ですミケラルドさん?」


 仕切り越しに俺が聞き、ネムが軽い返事をよこす。


「宿舎ってそんなに酷いの?」

「酷いって程ではありませんけど、これを知っちゃったらもう元には戻れませんよ……ふふふ」


 ネムが危ない発言をしているように聞こえるのは、仕切り越しだからだろうか?

 是非とも妖しい感じで言って欲しいところだが、昨今のおじさん吸血鬼は理知的かつ理性的なのだ。


「そういえばリィたん、参加者の中で気になる人はいた?」

「あぁ、気になるヤツはいたな」

「へ、ほんと? どんなヤツッ?」


 布団からがばっと起き上がりながら聞くと、リィたんは言った。


「今布団から起き上がった男だ」

「………………他には?」

「つまらん戦いにならない事を祈るばかりだ」


 答えになってはいないのだが、世の中リィたんや俺に敵う人間がそうポンポンいてたまるかという話でもある。リィたんの眼鏡に敵った者は現状俺だけ。

 ランクAたちの祭典とはいえ、ランクSに一番近いのは俺とリィたんという事か。

 パーシバルの一件があったから変な緊張はあったのだが、そこまで気にする事でもないのかもしれない。

 残り一日。明日でランクSになる者が決まる。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「なるほど、冒険者ギルドも見る目はあるようだな」


 腕を組みながら巨大な対戦表を見上げ、リィたんが呟くように言った。


「むっ、それどういう意味ですかぁ?」


 当然、ギルド職員であるネムが反応する。


「見ろ、私が一回戦。ミックは四回戦だ。それも一番離れた場所に書かれている」

「あぁ、本当ですねぇ?」

「筆跡に無駄な迷いがないのが私とミックの名前だけだ」

「そんな事もわかるんですか!?」


 つまり、俺とリィたんは決勝戦で戦わせるという判断か。

 運営側も盛り上げなくちゃいけないから必死だろうな。


「伊達に長生きをしていない」

「そんなお肌つやっつやのぷるんぷるんで言われても説得力ないです!」


 今のところに関して言えば、昨日よりぷんぷんしていないか、ネムよ?


「私の相手は……ラッツという男だな」


 昨日の主人公か。

 キッカとは上手くいったのだろうか。そして、ハンはどんな決断を下したのか。

 是非ともスピンオフ形式で見たいものだ。


「失礼、リィたん殿とお見受けする」


 そんな事を考えていたら、後ろから声が聞こえた。

 聞き覚えのある主人公声(ヒーローボイス)。振り向くとそこにはラッツがいた。


「この場で話しかけたという事は、お前がラッツだな」

「えぇ、試合前に是非ご挨拶をと」


 ラッツが一歩前に出てリィたんに手を差し出す。

 これに目を丸くしたリィたんが小首を傾げる。あ、そうか。

 テレパシーを発動した俺は、リィたんに話しかけた。


『握手ってやつだよ。相手と同じ手を差し出して同じくらいの力で握り返してあげて』

『ほぉ、人間の文化というやつか』


 軽く握り返せなんてリィたんに言ったら、ラッツは悲鳴をあげ、リィたんは出場禁止になってしまう。粉砕骨折で済めばいい方だ。

 ならば相手と同じ力で握り返せと言うのが正解だろう。これは世界を安寧に導くミケラルド君のファインプレイである。

 ラッツと握手をかわしたリィたん。

 その後、ラッツが一礼しながら去って行った。しかし、リィたんはラッツの背中を追ったまま目を放そうとしない。


「どうしたの、リィたん?」

「ミック、気になる人間がいたぞ」


 まじで?


「ラッツって人?」

「うむ」

「参考までに、何でか聞かせてくれる?」

「極度の緊張の中、私の眼前に立ち、我が身に触れようとする行為。おそらく、凄まじい恐怖の中でその選択をしたのだろう」

「恐怖……?」

「握手だったか? 震えていたぞ、あの男」


 なるほど、握手から相手の恐怖がまざまざと見えた訳か。


「それでもリィたんの前に立った……か」

「うむ、初戦や二回戦ではない。我が実力を見知った上でのあの勇気。そんじょそこらの冒険者とは言えんな」

「確かに、気になる相手だね」


 俺とリィたんは再び対戦表を見上げる。


「ラッツか……」


 リィたんが人間の名前をこれほど早く覚えたのは、これが初めてじゃないだろうか?

 しかし、それだけの存在感である事は確かだ。

 第一回戦、ちょっと楽しみだな。

次回:「その186 猛き剣」

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