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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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184/917

その183 少年漫画

 控え室から彼らの試合を観る事はかなわない。

 意外にも長期戦だったらしく、選手が戻って来るまでかなりの時間を要した。

 しばらくすると、ハンター風の男ハンに肩を貸した戦士風の男ラッツが控え室に戻って来た。遠く聞こえる拍手の音から察するに、良い試合を行ったようだ。

 何やら神妙そうな顔である。邪魔しては悪いので隠れておくか。。


「へへ……負けちまったな……」

「最後の一撃、あれが全てだった」

「あぁ、あれが全てだったな」

「紙一重の差。言ってしまえばそれだけだ」

「俺に肩を貸す余力があるくせに何言ってやがる」

「見ろ……この脚を」

「…………互いに限界だったって事か……」

「そういう事だ」

「ま、折角怪我したんだ。キッカに甘えて来るとするわ」

「む、それは聞き捨てならないな」

「はははは、これくらいは許してくれよ。ラッツ」

「……ハン?」

「本当は知ってんだ。ラッツがキッカの事を好きだって事」

「それは……」

「キッカだってちゃんと気付いてるぜ? 二人をずっと見続けてきた俺だからわかる。二人は両想いだってな」

「ハン、もしかしてお前……」

「言うな言うなっ。言っちまったら俺たちの関係はそこまでになっちまう気がしてな? ずっと言い出せなくてな。……へっ、何言ってるんだろうな、俺」

「ハン……」

「この試合が、俺の最終試験だったんだ」

「試験……?」

「ラッツに勝ったらキッカに告白するってな?」

「…………」

「でも、端からそんなの無理だったんだ。『何で』なんて聞くなよ? 俺が惨めになっちまう。始めから……始めからわかってた。キッカが俺を見てないって事も……ラッツに勝てないって事も。……ははは、バカみてぇだな。だから、お前の言った紙一重ってのは、そんな俺の心の弱さの事だったのかもな」

「そんな事は――」

「――そんな事あるさ!」

「ハン…………?」

「悪いな。そういう事にしといてくれよ? じゃないと(つれ)ぇんだわ……な?」

「…………そうか」

「『わかった』って言ってくれないんだな」

「『わかった』なんて言おうものなら、拳が飛んできそうだからな」

「言いやがる……立ってるのもやっとのくせによ」

「それはこちらの台詞だ……」

「あーあ、何で俺はこんな性格なのかねぇ……」

「それはお前にしかわからない事だ」

「言えてる」

「だが一つだけ言っておくぞ」

「あんだよ?」

「そんなお前だからこそ、俺も、キッカも……お前が、ハンが大好きなんだよ」

「………………」

「ふっ、何だその顔は?」

「…………いや、不意打ち過ぎるだろ」

「ならば、俺の作戦は成功と言えるだろうな」

「……だから、キッカはお前の事が好きなんだろうな」

「どういう意味だ?」

「はいはい、そういうすっとぼけた感じいいから。いらないからそういうの。さっさとキッカに報告して来いよ」

「いや、だってお前の怪我が……――」

「――ここはお前が行くべきだ。俺は後から行くからよ」

「ハン……」

「こういう時ぐらい、かっこつけさせろよ。馬鹿リーダー?」

「…………行け! そんでキッカを抱きしめてやれ!」

「……あぁ!」

「……………………へ、行っちまいやがんの。あ~あ……明日からどうすっかなぁ…………………………………………ちきしょう」


 これいつ出ればいいの?


 ◇◆◇ ◆◇◆


 俺の対戦相手がやって来た事で、ハンは足を引きずりながら控え室から消えて行った。

 俺は【透過】でそれをやり過ごし、さも今控え室にやって来たかのように扉を開ける。

 しかし、青春の一幕だったな。

 俺もいつかあんな青春を送ってみたいものだ。

 …………性格からして無理なのでは?

 一瞬の願いは一瞬の否定によって掻き消え、俺は納得に追い込まれてしまった。


「ミケラルド……」

「えーと確かホークさんでしたっけ?」


 全身金色の甲冑を付けた優男がそこにいた。

 武器はギルド指定のものを使うが、防具に関しては自由。

 そんなルールがある事から、選手たちの防具は質の良い物ばかりである。

 このホークという優男もその口だ。

 鋭い目付きで俺を睨み、一歩、また一歩と近付いて来る。

 そして俺の胸に人差し指をトンと置き、口を開いた。


「あまり調子にのるなよ? ちょっとばかり腕が立つからといって上手くいく世界じゃないんだ。一昨年、昨年は逃したが今年の優勝はこのホークがもらう」


 武闘大会の常連か。

 まぁ、残ってる冒険者は大体が年季の入った連中ばかりだ。

 さっきの少年漫画風の二人を除いてな。


「正々堂々頑張りましょう♪」


 俺の営業スマイルをホーク君に向けると、彼は嫌らしい笑みを浮かべた。


「あぁ、頑張ろうじゃないか。正々堂々(、、、、)とな」


 何か含んだ言い方だ。


「そういえばお前」

「はい?」

「付き添いのギルド職員と随分仲が良いようだな」

「新人の頃からの付き合いなので」

「ほぉ、それは良い事を聞いた」

「どういう意味で?」

「まだ将来のあるかよわい(、、、、)娘……そんな娘がいなくなっては大変だなぁ? ミケラルド?」

「いなくなる?」

「ブロック代表を決める試合。観客は非常に多い。そんな混雑の中、娘の背が無防備では危ないのでは?」


 はは~ん? なるほどなるほど。


『リィたんリィたん?』

『何だミック?』

『ネムと一緒?』

『うむ、そうだぞ』

『ネムを狙ってる人いない?』

『私の足下で寝ている奴の事か?』


 既に対処済みの案件だったので、


「正々堂々頑張りましょう♪」


 コピー&ペーストな営業スマイルで頑張りたいと思います。

次回:「その184 正々堂々(仮題―鋭意執筆中)」

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― 新着の感想 ―
[一言] ホーク……噛ませ犬的なヤツですかね……
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