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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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159/917

その158 大問題

 おかしい。たとえ辺境伯の息子であろうと序列的には対等なんだけどな?

 まぁ、文句言って来ないだけいいか。

 ギュスターブ卿の息子、アンドリューはそれきり無言のまま広間に向かってしまった。

 しかし、この不躾な態度に父親はどう反応するのか?


「すまぬなミナジリ卿、先の一件(、、、、)以来あの調子なのだ」


 あぁ、俺が勝手にやっちゃった道路舗装事件の事か。


「お気になさらず。本日は良いお話も出来るかと」

「無論、期待している」


 適度な打算と好奇心、それに彼からは向上心を感じられる。

 流石はリプトゥア国と隣接した辺境伯だ。ブライアン王からの信頼が厚いだけはある。


「ではご案内を――」


 そう言い掛けた時だった。


「ミナジリ卿!」


 この快活なおっさん声は……俺にミドルネームをくれた貴族だろう。

 俺とギュスターブ卿はその声に反応して振り返る。


「はははは、待たせたかな?」

「いえ、そのような事はありませんよ、サマリア卿」


 俺はランドルフと軽い握手をかわす。


「おぉ、ギュスターブ卿も到着したばかりであったか!」

「サマリア卿、お久しぶりにございます」

「うむ、妻のリンダには会った事があったな? 息子のラファエロと娘のレティシアだ」


 リンダがそれはもう見事なお辞儀(カーテシー)をしながら挨拶をするも、


「うっ……あぅ……」


 レティシアの不慣れなカーテシーにミケラルド君はホッコリである。


「わぁっ」

「おっと」


 レティシアを受け止めると、リンダが嬉しそうに笑った。


「あらあら、ふふふ」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがるレティシアをランドルフがフォローする。


「社交の場はまだ不慣れでな、許してくれたまえ」

「いえ、そのお歳で見事な挨拶にございます」


 まぁ、ギュスターブ卿もそう言うしかないよな。

 相手は公爵令嬢様である。立場は辺境伯が上だろうと、今は公爵の目の前。

 社交界って何でこんなに窮屈なのだろうか。

 ランドルフ、リンダ、ラファエロ、レティシア、ギュスターブ卿の五人。彼らが来た事で、出席者の全員が揃った。

 広間への案内の途中、他の貴族たちが俺の作品の前に群がっている。

 先に案内した王商(おうしょう)ドマークもその価値に唸っている。


「ほぉ、これは素晴らしい。ミスリル製の鎧かな?」


 ランドルフがそれを言い当てる。


「えぇ、冒険者時代の名残です」

「そういえばミナジリ卿は冒険者としても商人としてもご高名と聞く。今日は是非その武勇伝を聞きたいものだな」


 ギュスターブ卿の興味は武具よりもこちらの経歴のようだ。

 彼は目先の宝以上の価値を俺に見出しているという事か。

 他の貴族にはないプレッシャーだな。

 因みに、ランドルフの圧はもう慣れてしまったから別にいいのだ。


「おぉ、これはミナジリ卿!」

「ドマーク殿、いかがされました?」

「あの先進的な鎧のデザインはミナジリ卿がっ?」


 鎧のデザイン。

 究極の軽量化と機能性を追求し、身体にフィットしたデザインとなっている。

 この世界の鎧だと、身体のサイズの五割増しくらいになるからな。ボディーアーマー級のデザインは珍しいのだろう。


「えぇ、今度出品する予定です」

「鋼鉄製だとしても高く売れるでしょうな」

「はははは、まぁその話はまた後程という事で」


 皆の案内、着席させ、いよいよ落成式もとい貴族としての社交界デビューの瞬間である。

 壇上に立ち、皆の注目を集めると同時に開式の言葉。


「皆様、本日は我がミナジリ領の落成式にご出席頂き、感謝の念に()えません。偉大なる国王陛下より拝領したこのミナジリの地、誠心誠意繁栄に尽力する所存にございます。ささやかながら食事をご用意致しました。是非ご歓談のお供としてくださいませ」


 シュバイツからグラスを受け取り、掲げる。


「陛下に」

「「陛下に!」」


 胃が痛い。

 乾杯と共に胃潰瘍(いかいよう)になった気分だ。


「むぅ、何と冷たい……これは一体?」

「まぁ、美味しい……」


 保冷室を造って部屋全体に付与魔法を掛ける。限りなく冷やした水魔法を風魔法で循環させるこの付与魔法こそ【冷蔵庫】。それで冷やした飲み物はこの時代、中々味わえないだろう。食事に至ってもそうだ、舌の肥えた貴族たちが食しているものを凌駕するのが現代クッキングである。

 ジェイルとエメラ、ナタリーに協力してもらって、サラダやパンからデザートに至るまで、今回のパーティーに死角はない。

 そう、なかったはずなのだ。


「何だ貴様はっ!?」


 声の主はギュスターブ辺境伯の息子にしてギュスターブ子爵。

 給仕にやって来たクロードに対して怒鳴った理由は(おおむ)ね察しが付く。

 当然、クロードがエルフだからである。

 彼は辺境伯領に住んでいるのであろう、クロードの噂は聞いていようが、認知までは変えられなかった。それが今回の失敗の一つだ。

 他の貴族は気にしていなかったが、彼は、彼だけは違ったようだ。


「ミナジリ卿! エルフを召使いに使うとはどういうつもりだ! ここは貴族たちの神聖な場! 使用人であろうがこの場にいる事が許されるはずがない!」


 困惑するクロード。

 俺は平静を装いながらもどう対処するか考えていた。


亜人(、、)趣味とは貴族の名が泣きますな!」


 亜人(あじん)、それは人間以外の蔑称ともいえる呼称である。


「こんなもの食えるかっ!」


 クロードがトレイに載せ持ってきた料理が宙を舞う。


「ひっ」


 その皿がレティシアに向かって飛んで行った瞬間、俺は皿を受け止めた。

 やれやれ、盛り付けが台無しになってしまったな。


「控えろアンドリュー! サマリア公爵の御前だぞ!」


 ギュスターブ卿が息子に言い聞かせるも――、


「父上も父上です! 我々はミナジリ家に恥をかかされたのですぞ! よくものうのうとこのような低俗な場に参加していられますね!」


 成人したばかりの子供は自制がきかないご様子。

 子供の使用人はこの場にそぐわないとし、コリンは待機させているが、クロードは別だ。

 彼の願いと意図を汲むのが俺の役目であるし、それ以上に彼は国家奨励職員である。

 働いてはいけないはずなどない。

 …………しかし、この現状どうおさめるか?

 俺はランドルフに視線を向けると、彼はコクリと一度頷いた。

 これはあれだ。「怪我しない程度に拘束し、お帰り頂け」というサインである。

 俺は溜め息を吐いた後、一歩前に出た。

 そう、俺以外にこの騒ぎを止められる者はいない。

 この場に俺以上の武力を持ったヤツなんて――――


「ちょと、リィたんっ?」


 ――――我が護衛の一人、カミナが小声でリィたんを止めるような声が聞こえた。


「何だ貴様? ミナジリ卿の情婦(じょうふ)か?」


 にゃろう、言っていい事と悪い事があるだろうに。


「困ったものですな、ミナジリ郷。ご自分の飼い犬の手綱はしっかりと握ってくださいませんと――」


 こりゃちょっと強めに――ぁ。


「――ぐふぉぁ!?」


 俺は止めなくちゃいけない存在を間違えていた。

 皿でも飛ばしたのかと思う程の威力。宙を舞うは紛れもなくアンドリュー。ギュスターブ辺境伯様の息子であるギュスターブ子爵。

 顔にはリィたんの強く硬い鉄拳の痕。壁にめり込むのは人か、それとも死体か。

 そうなんだ。俺が止めなくちゃいけなかったのは……水龍リバイアタン(リィたん)の怒りだったのだ。

 こちらに振り返るリィたんの晴れやかな笑顔は……一体何だ?


「外敵を排除したぞ、ご主人様っ♪」


 これはもしかしてもしなくても……大問題なのでは?

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