その154 匠の世界
「さて、現在手持ちであるのは【鉄鉱石】と【ミスリル原石】、そして【オリハルコンの欠片】だ」
失敗が怖いからな。
土塊操作でいくらでも用意出来る【鉄鉱石】から使ってみよう。
まずは鋳造からやってみよう。
【鍛冶】の技を発動させながら、土塊操作で剣の型を造る。そして、火魔法により溶かした鉄を、型にそのまま流し込む。凄いな……これが【鍛冶】の力か。こんな単純な事をやれば、これは脆い鉄くずへと変わる。しかし、この【鍛冶】の技があるだけで、鉄が鋼鉄へと変異しているようだ。いや、ホント、ファンタジーですわ。まぁ、ダンジョンなんてある時点でそうなんだけどな。
これを型から外し、取り出した剣を徐々に冷ましておく。
この間、今度は鍛造へ移る。
炎耐性がある俺が魔力で身体を覆えば、全ての防護は不要である。
熱を保ち、鍛治師の鎚を使いコンコンと叩いて伸ばす。
「……意外に簡単だったな」
冷ました剣に鋼糸を使い徐々に研磨させる事で切れ味を持たせる。
そんな時、実験場というべき屋敷の裏庭にやってきたのはリィたんとジェイルだった。
「何をしている、ミック?」
「剣……か?」
「あぁ、リィたん、ジェイルさん。そうなんです、ようやく鍛冶スキルを試してみようと思って」
リィたんは物珍しそうに、ジェイルはどこか嬉しそうにしている。
領地内故、彼のお顔は人間の状態。表情がわかりやすすぎて笑える。
「ほぉ、既に出来ているのか」
ジェイルが鋳造の剣を握り確かめる。
「単純な鋼鉄の剣ですね。それは鋳造です。これからテストするんで、ジェイルさん試し斬りをお願いします」
「それは楽しみだな」
土塊操作で土の木偶人形を二体作り、標的とする。
俺とリィたんが見守る中、ジェイルがそれを一瞬で分断する。
「……ふむ、悪くない。商店に並ぶ商品としては上等だろう」
「それじゃあ次は鍛造のロングソードで」
「どれ……むんっ!」
二体目の木偶人形が分断される。
「……どうです?」
「良いな。こちらの方がしっくりくる」
「やっぱりこっちか。なら折り返し鍛練を複合させた方がいいかもしれないな。あ、ちょっと待っててください!」
顔を見合わせ、首を傾げる二人を横目に、俺は今一度剣を造ってみせた。
◇◆◇ ◆◇◆
「剣とはこれ程早く出来ただろうか?」
「ジェイル、ミックのやる事だ。我らの頭では理解出来ないぞ」
人外に人外って言われた気分だ。
「むぅ、確かに……」
「さぁ、ミックが試し斬りを所望だぞ」
「ふむ……では……っ!」
…………あれ? 斬れてない?
「世界の理を斬った気分だ」
「それはどういう意味ですかね、ジェイルさん」
「間もなく斬れる」
ジェイルがそう言ったのも束の間、木偶人形は左右にパックリと割れたのだ。
「すげぇ……」
「凄いのはこの剣だ。何の付与もなしにこの威力……これは最早凶器だ」
「いや、剣って元々凶器ですけど?」
言った瞬間、俺は物凄い力で肩を掴まれた。
屋敷の壁に追いやられた俺は、肩を掴む人物を窺うように見る。
何で俺がリィたんに壁ドンされなくちゃいけないのか。
「な、何、リィたん……?」
「ミック、私は最近新しいハルバードが欲しいと思っていたところだぞ」
「あ、あぁ……そういやしょっちゅう【修理】してたもんね。いや、ホント、いつもありがとうございます」
「私は、新しい、ハルバードが、欲しい、ぞ」
最後の「ぞ」の区切り方はリィたんらしい。
「わかってるって。これで皆の武具を新調するつもりだったし。でも新しいハルバードって……鉄でいいの?」
「っ! そうか! オリハルコン!」
一気にミスリルを飛び越えたな。
リーガルのダンジョンで宝箱から得られる貴重なアイテム。
薄青く光る神の金属――それがオリハルコンの欠片である。
可能ならば、身内にはオリハルコンを使った武器を造ってあげたいのが親心というものだろう。まぁ、彼らの方が年上だけど。
ん?
「……で、何でジェイルさんまで壁ドンを?」
「いつ出来る?」
恐喝に遭ってる気分だ。
◇◆◇ ◆◇◆
「おぉ! これは素晴らしいぞ!」
リィたんにはオリハルコンのハルバードに歓喜して振り回し、ジェイルは……、
「……感無量だ!」
いい年したトカゲが泣いてる。
「はい、返して」
「む、何故だミック!」
リィたんは正に脊髄反射でハルバードを抱きかかえた。
「すぐ返すよ。まだ完成してないだけ」
「……これ以上何をするというのだ?」
ジェイルが何故か顔を硬直させた。
「え、付与魔法だけど?」
「「…………」」
◇◆◇ ◆◇◆
「ジェイルさんは火魔法が得意だから、斬撃に火の特性が付くように。リィたんは水龍だしね。水刃の多段効果を付与しておいたよ」
「ジェイル」
「なんだ、リィたん」
「人の手で神器が出来たな。流石の私も開いた口が塞がらないぞ」
「奇遇だな、私もだ」
まったく、酷い言われようだ。
その後、ふざけてミスリル製の食器を造ったり、造形の凝った武具を造ってシュッツのところに持っていったところ、「子爵の器でこれはやり過ぎだ」と言われてしまった。
何事にも限度があるという事を身に染みたミケラルド君だった。




