その113 ミケラルド子爵
翌日の昼、俺はランドルフと共にリーガル城へ登城していた。
幾人かの貴族たちに囲まれ、玉座にはあの……リーガル王。
「面をあげい」
跪いた俺は、リーガル王の許可をもらい顔を上げる。
立ち並ぶ貴族のお歴々。見知った顔はランドルフのみ。
しかしながら、これからは彼らの顔を覚えておかねばならない。
「王商ミケラルド、召致に応じ参上致しました」
「うむ、先程バルト殿はリーガルを発たれた。ミケラルド商店の礼を重んじる厚意に大いに感謝していた」
「過分な言葉にございます」
「そう改まるでない。此度の功績を余は高く評価している」
「ありがたき幸せ」
「さて、褒美は何が良いかのう……ランドルフ?」
相変わらず狸な王様だ事。
まぁ、それ以上に侯爵に信頼を置いている王を演じているんだろうけどな。
「はっ、今後の事を踏まえ、ミケラルド殿に爵位をお与えになってはいかがでしょうか」
「ほう、それは良き考えだな。なぁ皆の者?」
侯爵が提案して王が納得したら首を縦に振るしかないんだよ。
ほら見ろ、皆ぎこちない笑い浮かべてるじゃないか。
腹の中はどうかわからないが、快く思わない者もいるだろう。
しかし、言い返せるだけの功績を持った者がいないのも事実。
「ミケラルド殿、立ち上がられい」
「はっ」
「御前へ」
ランドルフの指示により、俺はリーガル王の前まで歩きまた跪く。
リーガル王は俺の頭部を右手で軽く触れ、低く、しかし通る声で言い放つ。
「我、ブライアン・フォン・リーガルがミケラルドに任ずる。これより其方は子爵の地位を以て余に尽くせ」
「……謹んで拝命致します」
「ミケラルド、其方の双肩に民の命がある事、努々忘れるでないぞ……!」
「はっ!」
◇◆◇ ◆◇◆
「づ、づがれだぁ……」
「はっはっはっは! 遂にミケラルド殿も貴族か! いや、ミナジリ卿と呼べばよろしいかな?」
「ホント、勘弁してくださいよ……でも、本当に良かったんですか? オードの名前貰っちゃって?」
「構わぬよ。これも一種のパフォーマンスみたいなものだ。いいではないか。【ミケラルド・オード・ミナジリ】……耳に慣れれば心地良いものだぞ? はっはっはっは!」
帰りの馬車の中、俺は豪快に笑うランドルフを前に、ぐったりと肩を落としていた。
貴族階級というのはこれだから嫌いだ。
当然、サマリア侯爵であるランドルフには好意的だ。しかしそういう問題でもない。あの空気感はどうも好きになれない。これからあの世界にも浸からなくちゃいけないと考えると、溜め息も出ようものだ。
貴族ともなれば大層な名前も必要である。ファーストネームこそミケラルドであるが、ミドルネームはサマリア侯爵家のミドルネームでもある【オード】を貰った。そして、ラストネームは当然【ミナジリ】である。まだあの村の名前が広まっている訳でもない。
だが、このラストネームが、全世界に広まるため、ここから先も頑張らなくてはいけないだろう。
「ミナジリ卿」
「それ、返事しなくちゃいけないやつです?」
「はっはっはっは! 何事も慣れだぞ、ミナジリ卿!」
「やっぱり呼んだだけじゃないですか!」
「はっはっはっはっは!」
◇◆◇ ◆◇◆
ったく、あのランドルフめ……いつか仕返ししてやる。
まぁ、これからはあの人の力をもっと頼る事になるし、無下には出来ないけどな。
さて、ランドルフに言われた合流場所はここら辺だが?
しっかし、短時間でシェンドに行けるって知ってるからってリーガル国からシェンドの町に移動っておかしいだろう。まぁ、ここからが一番シェルフに近いらしいけどな。
「ぷ、くくく……ミ、ミケラルド様っ!」
俺の聞き間違いじゃなければ、俺は今笑われた後呼ばれた気がする。
「サマリア侯爵様よりシェルフまでの護衛を言いつかったマックスと申しますっ! く……くくくく……」
「やっぱりお前かマックス……」
「だ、だめだっ! ぷっはっはっはっは! ミ、ミケラルドがき、貴族……!」
「よし、クマ鍋にしてやるからそこに直れ」
「じょ、冗談だよ冗談。くくくく……」
自分の冗談でそこまで笑えたら幸せだろうな。
「だけど何でマックスなんだ?」
「サマリア侯爵様の気遣いだろ?」
「やっぱりそういうものか」
「ミックには私兵がいるから公的な護衛は俺だけだ」
「私兵……ね」
「んま、あんなほんわかしてる私兵は初めて見たけどね」
シェンドの町の西門で待つ我が私兵たち。
「ミック! 待ったぞ!」
水龍リバイアタンのリィたん。
「新たな食材が……待っている!」
イケオッサンへとチェンジした、勇者殺しことリザードマンのジェイル。
「ミケラルドさーん!」
人妻エメラ。
「懐かしき故郷へ……」
その夫でありエルフのクロード。
「ミックゥ~! 早く早くーっ!」
そして、チェンジで人間にしているが、本当はハーフエルフのナタリー。
これから行く先はエルフの国、シェルフ。
何が起きるかはわからない。けど、仲間と一緒ならば、何でも乗り越えられる気がするのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではない。
彼が、彼女が、皆がいれば、俺は何でも出来るんだ。
「行こう、シェルフへっ!!」




