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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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111/917

その110 ミケラルド商店の店長

2020/1/15 本日2話目の更新です。ご注意ください。

「「……三百冊」」


 クロードもエメラも、その言葉を反芻するように噛みしめている。

 なるほどなるほど、バルト商会はそうきたか。

 客と店は対等。しかし、今回に限ってはそこにリーガル国が絡んでくる。

 俺が「そこまで在庫がない」と言ってしまえばそれは国の懐の狭さを露呈する事になる。

 そうなってしまっては商売人として、王商(おうしょう)として、俺の商売人生命は絶たれてしまう。

 このバルト、一体何が狙いだ?

 俺に個人的な恨みでもあるんじゃないだろうな?

 それとも、この腹の探り合いの先を望んでいる?

 謎だ。少なくとも、この発言はバルト商会にとっても賭けだろう。

 ダドリーにもクレアにも緊張が見て取れるし、何より、事前交渉の数とは違う魔導書(グリモワール)を求めている。

 俺が注文に従えなかったとしたら、リーガル王は俺を見捨てる。

 しかし、当然矛先はそこだけではない。バルト商会の所属国シェルフにまで影響を及ぼす。

 今、彼は……リーガルとの国交断絶、果ては戦争も辞さない交渉を用いている。

 だが、それは俺が求めている未来ではない。


「かしこまりました。魔導書(グリモワール)三百冊、ご用意致します♪」

「「っ!?」」


 やはり、ダドリー、クレアの驚き然り。

 バルトの静かな目の中にも確かな驚きがあった。

 これは向こうとしても本意ではない? いや、待て?


「しかし、魔導書(グリモワール)三百冊となると少々お時間を頂きます。もしよろしければバルト様がいらっしゃる宿にお持ち致しますが、いかがしましょう?」

「…………ふっ、ありがとう。それで頼む」


 やはり、バルト商会の狙いは魔導書(グリモワール)じゃない。

 ……俺だ。俺が目的だったんだ。

 俺との面談を求めている。国賓が泊まる宿にミケラルド商店の店長が行く口実を作ったのだ。そして、こうまでして作りたい俺とのコネクションとは……(すなわ)武力(、、)

 ランクBのダンジョンに三百回潜り、尚且つ攻略出来る冒険者なんて錚々(そうそう)いる訳でもない。それはシェルフだとしても同じだろう。俺が宿に商品を届け、誰もいない部屋で彼と話す。これこそが彼の……シェルフの狙い。


「では、今夜六時にお届けにあがります」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「いや、すまない事をした。ミケラルド殿」

「いえ、狙いがある事は理解していたつもりです」


 流石は国賓とも思えるような王城近くの超高級宿へやって来た俺は、早速バルト君から謝罪を受けていた。


「実はあの後、有無を言わさず『後程、宿まで送り届けてくれ』って言うつもりだったんでしょう?」


 勿論、在庫はあるだけで構わないとかこちらを気遣う事もしただろう。

 だが、魔導書(グリモワール)の在庫はディックから情報を貰った時より増えているのだ。何故なら、全自動リィたんという大海獣様が我らには付いているのだから。

 当時二百冊だった魔導書(グリモワール)の在庫は、現在五百冊近くまである。

 三百冊売ったところで、我々には儲けしか残っていない。

 後出しで気遣いを出されるより、後の先で商戦を制したに過ぎない。


「ふふふふ、何もかもお見通しという訳ですな」

「勿論、魔導書(グリモワール)三百冊……リーガル白金貨で千八百枚、お支払い頂きますけどね」

「儲けは必ず出る。バルト商会の名誉に掛けて全て買い取らせて頂きましょう」

「ありがとうございます。あ、それとこれを」

「これは……?」

「【隠密ブーツ】と【フレイムダガー】です。【隠密ブーツ】はクレアさん、【フレイムダガー】はダドリーさんに」


 そう言ったところで、バルトの後方に控えるダドリーとクレアの瞳が輝いた。


「一体何故……?」

「彼らが目を引いていた商品だったからです。商品説明を受けながらも、お二方、チラチラと欲しいものを目で追っていましたよ」

「なんと、そこまで見ていらしたかっ!」


「失敗したぁ~……」という感じで額を手で覆うダドリーと、恥ずかしそうにもじもじするクレアは、きっといい人たちに違いない。


「ではこちらも代金を――」

「――いえ、それには及びません。現在ミケラルド商店はキャンペーン中でして」

「ほぉ、それはどんな?」

「白金貨千枚以上お買い上げ頂いたお客様には、店長セレクトの商品を二つ進呈するキャンペーンです」


 言った瞬間、バルト含む三人のエルフたちは目を丸くした。

 そして――――、


「「ぷっ……はっはっはっはっは!」」


 密談の中で大いに笑ったのだ。


「い、一体どのような客層へのキャンペーンなのでしょう……くくくく」


 涙を拭いながらバルトが零す。


「家族への良い土産話が出来た……はははは」


 ダドリーも腹を抱えている。


「で、でもそういうのも大事よね……ふふふふ」


 クレアは口元を隠しながら笑っている。

 よかった。やはりエルフの使いに選ばれる方々だ。【看破】を用いる必要すらない。

 といっても使ってしまうのが俺なんだけどな。ふむ、やはり悪意など微塵(みじん)もない。

 笑いの余韻が収まったところで、俺は彼らの求めている本題へと言及した。


「あなた方がミケラルド商店に求めている商品……それは魔導書(グリモワール)ではなく、武力。これに間違いはありませんね?」


 この狙いにも気付いたかと三人はまた目を丸くする。

 しかし、時と静寂が緊張を作り出し、すぐに三人は真顔になった。

 そしてバルトが静かに頷くのだ。


「ふむ、どこから話したものか……」


 さてさて、鬼が出るか大鬼が出るか……吸血鬼ならここにいるんだけどな。

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