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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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110/917

その109 商戦

2020/1/15 本日1話目の更新です。ご注意ください。

 店内からでも伝わる店外の緊張、小窓から見えるドマーク商会のドン――ドマークからも緊張が見てとれる。俺だって緊張しない訳じゃない。

 他国からの商人は幾度となく相手にしてきた。しかし、それは人間が相手だからだ。

 その相手全てがエルフともなると、緊張して当然だった。

 リーガル店の小さな階段を上がるいくつかの軋み音。

 開けられる扉。ドアベルの音。皆の口が揃う。


「「いらっしゃいませー!」」


 活気溢れるエメラとクロード、そして奥から聞こえるカミナの声。


「……ほぉ」


 最初に目に入ったのは中老のイケメンダンディズムだった。

 短めの髭を整え、小綺麗な男。派手ではないが、その身の到る所に、多くの職人の仕事が見える。おそらくこのエルフが商人。

 後ろに控える軽装ながら武装した二人、男女のエルフは彼の護衛だろう。

 男のエルフは腰に剣を、そして槍を持っている。ギラギラした眼差しで周囲を警戒している。

 女のエルフは腰に短剣を、そして背には弓矢が。目を伏せながらも警戒は怠っていない。

 どちらもランクBの冒険者と遜色ないだろう。なるほど、良い護衛を抱えているな。

 エルフ商人は左に立つクロードを軽く見た後、俺へ視線を移した。

 クロードの情報は当然相手にも伝わっているはず。だが、その一瞬の視線だけでクロードは緊張してしまったようだ。

 俺は咄嗟にテレパシーを発動しクロードに呼びかけた。


『知ってる人でした?』

『た、大変なお方がいらっしゃいました……』

『情報ではバルト商会(、、、、、)の方と?』

『シェルフを牛耳っている商会のボス……その人です』


 なるほど、情報はそこまで詳細には聞いてないが、まさかそんな大物がやってくるとはな。

 しかし、名前でビビるのであれば俺の真名(まな)を聞いた方が皆驚くだろう。

 少なくとも、名前負けはしてないんじゃなかろうか。

 俺はそう思いながらテレパシーを閉じる。

 バルトは俺から目を逸らそうとしない。何をどう見定めているのかはわからないが、こちらはやるべき事をやるだけだ。


「いろんな商品がございます。心ゆくまでご覧ください。ご質問等ありましたらお気軽に声を掛けてください」


 相手方が何を買いに来たのかは知っている。しかし、それを売るだけでは商人ではないのだ。この店に置いてある商品をその目で、その身で体感してもらわなくてはいけない。


「なるほど、素敵な店だな。ダドリー、クレア、お前たちも見てまわるといい」

「「はっ」」


 男エルフはダドリー、女エルフの名前はクレア。

 これはバルトが提示したヒント。名前という引き出しを見せたという事。

 だが、それを勝手に使うようではいけない。当然それはバルトの名前さえも。


「君、すまないがこの商品の説明を頼む」

「かしこまりました!」


 バルトに呼ばれたのはエメラ。

 おそらく彼は俺が店長だと知っている。これはエメラへの指導を見ているのだろう。

 いくつかの商品説明の後、エメラが挨拶をして帰ってくる。

 その挨拶の中には、互いの名前がある。だからバルトはエメラの名を、エメラはバルトの名前を知った事だろう。相手との信頼関係を築けた証拠だ。


「あの」

「はい、何でしょうお客様(、、、)


 だが、これを築かずに行使するのはまずい。耳に名前が入ったとて、このクレアをいきなり名前呼びしてはいけないのだ。


「この商品の説明を頼む」

「か、かしこまりました!」


 ダドリーを相手取ったクロードも同じ対応である。

 商品説明を求めたのはただのパフォーマンス。本当の目的はこの店の中身にある。

 外見だけではない中身。相手が国を隔てても信用足る商売相手かどうか、バルトはそれを見ようとしている。


「エメラ君、ここの店主はどなたかな?」

「はい、あちらのミケラルドが当店の店長です」

「紹介を頼めるかな?」

「はい、勿論です」


 バルトの接近。

 エメラがここまで頑張ってくれてるのだ。ここで俺がヘマする訳にはいかない。


「初めましてお客様、店長のミケラルドと申します」

「これはご丁寧に、バルトと申します」


 ここでただ要点に向かってはいけない。

 まず聞かなくてはいけないのは、エメラに俺の紹介を求めた理由だ。


「何かお困りでしょうか」

「このショーケースにある魔導書(グリモワール)について伺いたい」


 ようやく相手の要望を聞き出せた。

 相手の興味がないものを勝手に出して勝手に売りつけては、心証(しんしょう)がよろしくない。それがたとえ事前に明示されていたものであっても。


「はい、どのようなご質問でしょう?」

「これをいくつか購入したいと考えているのだが、在庫がどれ程あるのかと思ってね」


 リーガルの冒険者ギルドマスターのディックからの情報では、このバルト商会が求めている魔導書(グリモワール)の数は五冊。だが、どうもきな臭い情報だとは思っていた。

 理由は簡単だった。たとえ商会であろうとも国を隔てて来るのだ。それにしては数が少ない。バルトはこれを足がかりに魔導書(グリモワール)をエルフの国で売りさばく事だろう。

 そう考えれば考える程、ディックの情報はきな臭かった。

 そもそも、ディックに何故情報を与えたのか。それこそが、ミケラルド商店とバルト商会の……商戦(、、)の始まりだったのではないのか。


「ありがとうございます。いかほどご入り用でしょうか」


 俺が聞くと、バルトは三本の指を立ててきた。

 やはり、五冊ではない。そして、嫌な予感がする。


「三冊……でしょうか?」

「いや」

「それでは、三十冊でしょうか?」

「ふふふ、もう一声だ」


 なるほど、バルト商会のバルト……、


三百冊(、、、)頂こうか」


 かなりのやり手のようだな。

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