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闘技場  作者:
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闘技場(上)

「申し訳ありませんが、ご招待券などお持ちでしょうか」

「あ、あぁ……」


 青年が地下へと続く階段を下りてから10分程した頃、目の前には重く頑丈そうな扉が現れた。そしてそこには1人の男が佇んでいた。


「はい、確かに」


 男は青年から1枚の紙を受け取りながら、青年の顔を覗き込む。どこにでもいそうな普通の青年。それが男の感想だった。


「僕の顔になにか?」


 青年にそう尋ねられ、男は短く──いえ、と答えながら招待券を青年に返す。

 青年は首を傾げながらも招待券を受け取る。


「では、どうぞお楽しみ下さい」


 男はゆっくりと扉を開ける。青年はその扉をくぐり、目的の場所へと向かう。

 暗い通路に残された男は先程と同じ姿勢に戻りながら呟く。


「人の趣味と言うのは……見かけによらないと言うことか」


 この扉の向こう側で何が行われているのか、それを知る男がその内容を思い出しながら先程の青年に対する評価を勝手ながら下げていた。





『皆さん、お待ちしました!』


 青年が扉をくぐって最初に耳にしたのは、司会者かの様な男の大声だった。そして、その声を聞いた青年以外の人間の待ってましたと言わんばかりの歓声。


「ここが……」


 すり鉢状になっている大きな空間。青年はちょうど、すり鉢の(ふち)に当たる部分に立っていた。

 青年が下を見れば、すり鉢の底に当たる部分を囲っている大勢の人間が見える。そして、底に当たる部分には一辺が50mはあると思われる大きな正方形の舞台があった。


『最後のお客様も到着した様なので、そろそろ始めさせて頂きます』


 青年は一瞬ビクッと体を揺らす。

 司会者のその一言により、青年のいる空間……いや会場が観客の歓声により震えたのだ。


『さっそく、今日の選手のご紹介をいたします』


 その声を合図にしていたのか、舞台の周りに2人の女性が連れて来られた。

 それぞれ赤と青の髪をした2人の女性。その2人を見た瞬間、青年の顔に驚きが広がった。


『では紹介いたします!出は貧民でありながら、実力を尊重する国の方針のおかげで24という若さで一国の騎士隊長を務めた若き天才!ミレス・ハルバード!』


 その名を聞き、驚きの中にあった否定の感情が消え去った。

 彼女──ミレスは名を呼ばれ舞台へと上がる。長く洗われていないのか、輝きを失った長い髪を揺らしながら。

 ミレスが舞台へ上がると、至る所から声援が飛ぶ。お前に賭けたんだから勝て、と言う身勝手な声援と呼ぶには程遠い罵声が。


『皆様、どうか飛ばすのは声援だけでお願いします』


 声援と一緒に飛んでいた食べ物などが、その声と共に止まった。その代わりに会場には新たに笑いが飛ぶ事になったのだが。

 ミレスが着ているのは肩から胸、腰から膝の上という女性が他人に見られて最も羞恥心が働く部分だけを隠した最低限の衣服。その布も雑巾の方がまだマシな布なのではと思ってしまうような薄い物だった。

 ただでさえその姿だけでみすぼらしいのに、今のミレスは観客から投げ付けられた食べ物を頭からかぶり、さらに悲惨な事になっていた。


『お客様。食べ物(・・・)が勿体無いので、もう辞めて下さいね』


 司会者が口にした言葉。

 ミレスをいたわる言葉ではなく、食べ物の部分を強調しミレスを馬鹿にしていた。

 当の本人のミレスは、体についている食べ物を取る事もせず肩を震わせていた。下唇を噛み、目元には涙を溜めながら。


『さてミレス選手の相手をするのは!若き天才と呼ばれ国の英雄となった国王。その娘。シェル・ドレク!その強さは七光りなどではく、自らの力で騎士隊長を掴みとったことからお分かり頂けるだろうか!』


 シェルもミレスのいる舞台へと上がる。着ている服はミレスと同じ。そして舞台へ上がって間も無く、シェルもミレスと同じく頭から大量の食べ物をかぶっていた。

 司会者は特にそれを止める訳でもなく、きっと毎度この様な感じなのだろう。


『さて、2人の選手が揃いました』


 舞台の上の2人。一国の騎士隊長同士の対決に観客のボルテージも最高まで上がっていた。

 そんな中、青年は1人困惑の中にいた。


「なんだ。貴女の国も滅ぼされたんだ」


 ミレスはシェルに投げ付けらる食べ物が止むと同時にシェルに声をかける。

 2人の国は過去敵対していた。それは周知の事実。


「黙りなさい。少なくとも貴女の国よりは私の国の方が強かったわ」


 家柄でなく実力主義であったミレスの国が弱小であったわけではないが、事実シェルの国に押され気味だったため、ミレスは黙るしかなかった。

 その一方、観客は2人の言い合いを笑いながら聞いていた。ほとんど裸同然の女2人が、今は亡き自分の国の敵と言い合っているというのは見ていて面白かったのだろう。


『お2人とも。ありもしない国の威厳をいつまでも背負って言い合うの不毛ですよ』


 司会者の言葉で、会場内に笑いが走る。

 リング内の2人はというと、屈辱に耐えながらも目元には涙がうかんでいた。


『ではそろそろ……お2人とも準備は宜しいでしょうか?』


 2人はハッとなり自分の首にある首輪に触れる。装飾がされているわけでもなく、それこそペットなどに付けるかのような首輪。


『その首輪はこの舞台に反応しています。1時間この舞台内にいた場合……ドカーンとね、なります』


 司会者のふざけた言い方。2人は怒りを感じ、観客は毎度のことながら笑っていた。

 もちろん司会者が言っていた事は事実であった。2人もそのことは分かっている。


『まぁ、こちらから発動させることも可能なのですが』


 そう。それが、2人がじっとしている理由。

 一国の騎士隊長の2人が本気でかかれば、ここにいる全ての人間を血祭りにすることぐらい可能であったが、この首輪によってその可能性を潰されていた。


『勝者は1人。生き残るのも1人。この舞台から出ることが出来るのはミレス選手なのかシェル選手なのか』


 いよいよリングがなる。

 青年は舞台の上にいる2人に──ごめん、と一言入れ会場を後にした。


『お2人の準備も宜しいですね』


 2人は手に持っていた両刃の剣を構える。


『では……試合開始です!』


 司会者の合図と同時に、会場にリングの音が響き渡った。

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