詠唱という勝機
紙一重で避けるというのは口で言うよりも難しい。
まず、完璧に攻撃範囲を読んでいないとできないし、ほかにもタイミングなども難しいのだ。
それをいつまでも続けるというのは集中力を使う。
刈谷はそれを10分間続けていた。
「避けるだけですか? 反撃しないんでしょうか?」
始めのうちは頭に血が上っていたが、今では落ち着き払っている。この敵を倒すにはまず、難しいところがある。
この敵は迎撃が得意だ。そして武器の性質上、迎撃はそのまま攻撃になる。
「黙っていては面白くありませんね」
いくつかナイフを投げ、魔術を使ったが、ナイフは避けられ、魔術は剣に吸い込まれた。
おそらく武器は魔術を吸い込む性質がある。ゆえに攻撃魔術は無駄だ。
「―――全ては無より始まり、全ては無に帰す―――」
ふと、呟く。
存在の根源を無だという詩のフレーズ。
「ようやくしゃべったと思ったら何ですか、それは?」
おそらくこれについて何も知らないのだろう。事実僕は一度しか使っていない。
「―――全ては有より生まれ、全ては有に死す―――」
今度は根源を有だという詩のフレーズ。
「その魔力の流れは……。まずいですね」
そういうと剣を掲げて一直線に突っ込んでくる。
―――引いたら死ぬ。
直感すると同時に詠唱を終える。
「―――今ここに全を一とし、一を零とし、零より全を生み出す」
詠唱を終えると同時に先ほどまでの恐怖を剣から感じなくなっていた。
「――――っ!!」
「――――っあ!!」
上から迫る剣を渾身の魔力を込めて右の剣で打ち返し、その衝撃で右の剣は砕け散るも左の剣が相手の心臓を抉っていた。
「―――なぜ、無生物がこの剣を防げる」
己の胸に突き刺さる剣を見て、男はまずそういった。
「―――それは、その男が使った魔術が存在の統一をしたからだ。
一度消してその後生み出す。消費も激しいが、うまく使えば相手の魔力を消し飛ばせるという極悪さ、そして破壊と再生を行うという神への冒涜……」
進むべき先から聞こえる男の声。
「おお、神よ。私をお救いください」
男の声は響き、それに対して声は、
「ふ、ふははははは。
私が貴様を救うとでも思っていたのか?私が?
そんなことはありえまい。ジュティスよ、貴様がそれを一番よく分かっていたのではないか?」
笑い声が響く。
広間には武器を失った男と進行に裏切られた哀れな男。
「まあ、しかし、お前もその男の武器を奪ったことには価値があろう。ならば、その武器は天まで持っていけ」
やばい、と思い剣を引き抜こうとするも一歩遅かった。
頭上には太陽を思わせる極大の炎が浮かび、ジュティスは心臓に生やした剣を抱きかかえようにつかむ。
極大の炎が男、ジュティスに落ちていく。
「ああああああああああぁぁぁぁぁ……………!!!」
しっかりと刈谷の剣をその心臓に生やしながら炎の中へと消えていった。
「っち」
舌打ちして錬金をしようとするもそんな余裕はない。
中に浮かぶ禁術級の魔術の数々。
「そら、耐えられるかな?」
その声が号令であったかのように一斉に魔術が放たれる。
―――武器を失ってこの数を相手にするのは無謀といえた。
爆発。
水流。
真空波。
地震。
落雷。
雹。
光線。
七つの魔術。それら全てが禁術級。それを相手にできるのはほとんどいないだろう。
「―――魔剣技―――」
徒手で構える。そもそも誰にでも使える魔剣技。故に―――
「―――覇王―――!!」
―――徒手であっても使えるのは道理ではなかろうか?
手刀に足刀合わせて四つの刃が雨霰と襲い掛かる魔術を消し飛ばしていく。
『いまだ!』
『分かっている』
同時に悪魔に命じて剣を錬金する。
「―――舞え、剣たちよ」
作り出された剣を盾にし、手で二振りの剣を持って扉を蹴破る。
「な、んだと」
そこで待っていたのは驚愕の事実だった。
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