再会という惨殺
侵攻は予想以上にスムーズに進んでいた。
敵はこちらに来ていたやつよりも弱く、数の暴力というのもそこまで脅威ではなかった。
てっきり情報が行っているものだと思っていたが、どうやら僕の情報は何も来ていないようにも感じる。つまり、やつらは送り込んだだけの人数で僕を殺し、地上を征服できると考えていたらしい。
―――なめられたものだ。
天剣を殺したという情報は市街地に入ってきているが、それでもあの程度の戦力で僕を殺せると思っていたらしい。
市街地への潜入は難しくなかった。適当に隠れて、適当に店先から食べ物をかっぱらっている。何度か不審に思われたが、今のところばれてはいないようだ。
こちらに潜伏して驚いたところはいくつかある。
まず、転生した天使はまるで奴隷のように扱われていること。前世の記憶はあるらしいが、前世と同じ人物かといわれれば違うイメージを持つ。
世界の記録は実際にある。どうやら神とかって言うやつがいるところに在るらしい。
雫は見つけられなかった。どこにいるのかはわからないが、それに執着するのもあれだろう。
「いくか……」
目的地である神の居城はここから世界樹を上った上にある。
とりあえずの目的地である世界樹を見上げ、走った。
世界中は雲の上まで伸びた巨大な樹だ。上るといったが中に階段があるらしい。
世界中の中に入り、階段を見上げる。普通に上ったら一日で一番上までつけないだろう。
「誰だ!」
どうやら見つかったようだ。だが問題ない。
ファイアボールを打ち、牽制して魔術を使いつつ一気に飛び上がる。
足の裏に空気を固めて足場とする魔術 空歩と身体強化、さらに重力軟化を使ってどんどん上に上がっていく。
飛んでくる魔術を覇王で叩き落し、矢は跳んでかわす。
翼を持つ敵は飛んで剣で切りつけてくるもそんなものはいなして突破する。目的地までの障害は全て無視するつもりなのだ。
弾幕のような魔術をかいくぐり、雨のごとき矢をすり抜け、怒涛のような剣をいなして進む。
最上層にたどり着いたらそれまでの速度を殺さずそのまま神のいるという場所に突撃する。
「――――――!!!」
自分の声ではない誰かの怒声が響き、進行方向に多量の天使が……。
―――だが、そんなものもどうでもいいのだ。
「邪魔だ!」
不思議と力がみなぎる。振り払うようにしてなぎ払われた剣は天使たちを惨殺していた。
次々と現れる天使たち、それも全てなぎ払っていく。
―――今の彼の姿を見るものがいたら、それはその姿に修羅か夜叉を重ねるだろう。それほどまでにその突撃は強靭で止められるようなものではなかった。
「やっぱりきたのね。絶対にくると思ってた」
雫。
藤林 雫がいる。
天使になってしまったが、たしかに雫がいる。
「雫……」
再び心には迷いが入り込もうとする。
雫は失ったそのときから姿を変えていなかった。
「―――悪い」
だが、彼にとって雫はすでに死んだものだった。
ためらうことなく右の剣を首に、左の剣を心臓に向けて振るう。
肉を断ついやな感触。先ほどまではなんとも思っていなかったというのにこれはどういうことだろう?
雫は再び死んだ。もしかしたら偽者だったのかもしれないと一瞬でも考えてしまうが、
―――馬鹿か?僕は。
そんなことはない。例えそうだったとしてもそんなことはどうでもいいのだ。
重要なのは、いま、僕が、自らの意思で、雫を、殺したということだ。
言い訳はしない。ああ、確かに僕が殺した。死んだあとどれだけ責められてもかまわない。少なくとも、今、それが正しいと感じたから。
雫の死体を見て、一度目を閉じ……。
―――何かを振り払うようにまっすぐ進んだ。
「何で、慎吾は私と付き合ってくれないの?」
この光景は、中学三年のときの秋の記憶だった。
夕焼けの中、雫は僕に振り返りそう尋ねた。
「何でだろうな。何となく、っていうわけでもないんだが……」
理由はいえなかったが“目”を使ってみるとへんなものがまとわりついているからだった。
今思うと、それは魔力だったのだ。魔術師である雫が内包する魔力を見たからそう思ったのだ。恐怖からだろう。
「えー、だったらいいじゃない。特に理由はないんでしょう。こんなかわいいことはそうそう付き合えないわよ」
少しむくれて言うその姿をかわいいと感じつつ、その口は否定をしていた。
「付き合う理由もないだろう。それに、自分でかわいいって言うものじゃない」
そういって視線を避けるように道を歩いた。
後ろからは文句がいくつか聞こえるも、それを微笑みつつ聞いていた。
「雫はどうしたんだ? 何かあったのか?」
召喚された日の朝、
「雫は風邪を引いたそうだ。胃腸風だと」
坂本に聞かれたことを答える。
するとやれやれとつぶやいた後。
「放課後に見舞いに行くぞ」
「何でわざわざ」
そう答えると今度はため息をついて、
「別に減るものじゃないだろう。それにクラスメイトで家も近いんだ。行ってやっても罰は当たらないと思うが?」
罰が当たる当たらないの問題ではないと思ったが、
「でもな、今日はちょっとゆっくりしたいし……」
そうつぶやくと、
「なら、少し残ったら行くぞ。ついて行ってやるから」
「別についてきてほしいわけではないんだが……」
この日の放課後、召喚されたんだ。
気がつくと、広間につき、涙を流していた。
おそらく先に見えるドアの向こうに神とやらがいる。
涙はいまだ止まらず、自分で殺しておいて何を泣いているんだ。と自分を罵っても涙があふれるばかり。
「おやおや、自分で殺しておいて、何を泣いているんでしょうか?」
前に天使が現れる。その声は人を馬鹿にしきっていた。
「失せろ」
心が冷え固まっていく。
解けていた心が剣として、刃となって形を作り、その存在を固める。
「ひどいですね。今まで彼女を生かしていたのは私だというのに」
「失せろといった。次はない」
そういうと首をすくめた後。
「残念ながらここから先には通せません。人を通しでもしたら私たちが殺される。そういう方なのですよ。神は」
そういいつつその姿はすきだらけに見えてまったく隙がない。
剣を構えなおし、魔力を確認する。
―――大丈夫、まだ大丈夫。
そう思っていると相手の体が沈み、一気に距離をつめてきた。
下から襲ってくる剣を受け止めようとして、反射的に跳んで避けた。
「今の攻撃を避ける判断をしますか……もしかしてこの剣について知っていますか?」
知らないが、受け止めるのは下策とそう思ったのだ。
「知らないようですが、まあ、私だけあなたの事を知っているというのも不公平。教えて差し上げましょう。これは霊剣ファブル。生命にしか攻撃できない剣ですが……」
そこまでの説明で理解した。つまりその剣は……
「―――生命以外でとめることもできないということか……」
面倒なものだ。打ち合うことができなければ僕のできるほとんどの魔剣技は使えないことになる。
「そのとおりです。つまりあなたができる魔剣技はほとんどがカウンターを主にしています。またはカウンターできないほどの高威力のものですが、それでも剣に当たらなければ意味がないでしょう」
そのとおり、用は今、ほとんどの決め技を封じられたといっても過言ではない。
「さて、あなたはいつまで避け続けられるでしょうか?」
もう一度剣を構えて突進してきた。
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