再会という再開
お久しぶりです
今枝吉末、これが俺の名前。6年前に学校に向かう途中で意識を失い、気がついたらほかの世界で勇者として召喚された。
気がついたらきれいな女性がこちらを見て『ようこそ、勇者様』といって抱きしめてきたのだ。そのまま流されて訓練をさせられた。
つらい訓練だったが、皇女様の笑顔のためにがんばった。そこで騎士のティッグさんに出会い、苦楽をともにした。
皇女様に言われて出場した大会。よくある物語のものだろうと思ってそこまで気にせず、どうやったら皇女様と結婚できるかということだけを考えていた。そしたら一回戦で思いもしなかったことが起きる。
刈谷慎吾とかっていう冒険者。ランクはCのはずなのにその動きはほかの人を圧倒していた。だが、問題はそこではない。ティッグさんの四肢をもぎ、殺しはしなかったものの勝利という宣誓を聞いてティッグさんに一瞥もせず去っていった。なにやら会話をしているところもあったがそんなことは関係なかった。やつはあのティッグさんを騎士ティッグを殺したのだ。俺のもっとも信頼する騎士を……。
その後、俺は刈谷を倒すため、勝ち進んだ。結論から言うならば勝ち進むのはそう難しくはなかった。ランクAの冒険者も近衛の騎士も自分の敵ではなかった。
決勝、俺は刈谷を相手にしてすぐに怒りをあらわにした。だが、それに刈谷はまったく動じず、それどころか逆にあおられ、無様に剣を折られ見逃された。
確かに、魔族が現れたとか魔王が現れたとかあったらしいが、そんなことは刈谷にとってはそこまで問題ではなかったのだろう。おそらく殺す必要性があれば殺していた。利用価値がなかったら殺していた。
それから一年経ち、五籐とかっていう人に元の世界に戻された。完全に不意打ちだった。そのとき消えていく意識の中その人は『これでいいだろう、刈谷』といっていた。刈谷の仲間とも思ったが今思うと刈谷と言うやつはもしかしたら俺と同じで召喚されたと思った。これは直感だし、確信はない。だが、元の世界に戻って確信した。
元の世界、地球に戻るとまず警察に捕まった。当たり前だ腰の剣はどう考えても銃刀法違反だろう。
つかまってからしばらくすると学園にいけるといわれる。最初は日本の学校に行こうと思ったが刈谷がいると聞いてすぐにアメリカの学園に進んだ。
3ヶ月ぐらいしたころ。学校で友人と話していると大きなニュースが入る。
何でもあの刈谷が禁術を使ったとか、ほかにもいろいろな家から勧誘されているとか、日本の大家の娘が死んだとか、いろいろだ。
友人の伝で大きくない英国の魔術師主催のパーティーに参加した。そこで驚く顔を見た。
刈谷慎吾、あちらで俺の精神をずたずたにした男。ティッグさんを騎士として殺した男。俺をあちらからこちらに無理やり返させた男。禁術を使った男……そして今にも泣きそうな男。
顔を見て、一言言ってやろうと思ったらすぐにそんな気はうせた。その顔に前に見た生気はない。まるで廃人、そのくせ興味本位でぶつけられている魔術をすべて無効化してそのまま返している。
廃人という表現は間違っていた。ただ、彼は悲しんでいた。
俺は、こいつがこちらに帰ってから何か大きなものをなくしたことを悟った。そしてそれをなくしてもなお、悲しむだけだった。
絶対にまねできない。まねしたくもない。これは異常だ。
なにやら話している。少し目に生気が宿る。少したってもう一度刈谷を探してみたがもう見つけられなかった。
―――おそらく、立ち直ってはいない。だが、また距離を大きく離されたような気がした。
そして現在、今俺は天使に呼ばれた。
だが、正直な話、俺は天使を信頼していない。
―――いまさら現れて地上をなんだかんだと支配し、さらにはその目的が刈谷を殺すこと。
おそらく、こいつらの言っていることには何か裏がある。それは成長した俺ならわかる。何も考えなかったころの俺では分からなかっただろう。だが、こいつらの目的は刈谷を殺すことだけであり、さらには地上のこともほとんど考えておらず、ただ都合の悪い人間がいるから利用しているだけではないか?
「勇者今枝吉末よ。おぬしならばかの悪人刈谷の脅威が分かるであろう。その脅威は地上の全人類にも及ぶ……」
―――確かに、あの人が間接的な原因で支配者(天使)が現れたな。
「―――ゆえに、おぬしに天杖と天弓をつける。三人でやつを倒してくれ」
はっきり言って、無理だろうな。
「それだけでは倒せないだろう。それほどにやつは強力だ。ここに天剣がある。これを使いやつを切れ」
出された剣は大きさとしてはよくある両手剣。持ってみると重さは思ったよりも軽く、片手でも振り回せそうだ。少しだけ抜いてみるとその刀身は白銀に輝き、そのすばらしさを示していた。今まで使ったどの剣よりもいいものだろう。
「分かりました。必ずや、やつを倒して見せます」
そういって腰に差す。今たとえ俺が逆らっても無意味だ。本当に必要なときに裏切る。
新聞に勇者が天使に協力しているということが載っている。こちら側の唯一とも言える有利な点は情報が集めやすいということだ。新聞ぐらいすぐに手に入るし……。
「そろそろまずいな」
思わずもらしてしまった。写真ではいつかの出来損ないが写っている。そしてその腰には天剣がある。
「そういう手でくるか……」
コートの下の剣に触れる。今の時代、剣を帯剣している人を見てもさして珍しくない。
わずかに“目”が発動する。感情をコントロール出来ていない。
『大丈夫か?』
『大丈夫だ』
そういうと町外れで寝転がる。今ので居場所がばれただろう。魔力を集中させ、いつでも対応できるように剣も抜く。
目を閉じる。火のついたろうそくを思い浮かべ、心を落ち着ける。
わずかな魔力の揺らぎを感じ取った瞬間、左手でナイフを投げ、さらにそれにめがけて電撃を放つ。
ナイフは剣によって叩き落され、電撃はその剣の力で消えた。
「到着が早いな。なり損ない」
そういって両手に剣を持つ。魔力は内側にとどめ、いつでも外に放出できる。
「やっぱりあんたか、刈谷」
目が合う。その目に映る自分の姿は穏やかだった。
勇者だということで刈谷の討伐を命じられたが、はっきり言ってやることはない。
刈谷が少しでも大きな魔術を使うのを待ち、それを観測したらそこに飛んでいくというだけのこと。
つまり、刈谷が何かしらの行動を起こすまでまったく何も出来ないのだ。
―――完全に後手だ。絶対に刈谷が逃げに徹すれば逃げられてしまう。
そう思っても言わない。言うまでもないことだから。
「勇者様。こちらへ」
常に俺には世話役という名前の見張りがついている。
確かに天使の本拠地で悠々と過ごしてはいるが、ここまで見張りがいなくならないものかとも思う。見張り(気付かなかったものは除く)がいないのは風呂とトイレでそこは両方とも換気扇ぐらいしか外に通じるところがない。
もちろん、換気扇から出れれば逃げられるがそんなことが出来るのは人間ではない。
「勇者様。刈谷です。刈谷が現れました。こちらへ」
そういってつれられる。装備はほとんどずっとしているのだ。準備なんて必要ない。
世話役に連れられてくるとすでにほかの二人は集まっている。何度見てもきれいだが、何で見ても身構えそうになってしまう。
「それでは行きますよ」
そう天杖がいうと杖を掲げ、空間がゆがむ。転移魔術だ、詠唱ではない何かしらの方法で使っているようだが聞いても教えてくれなかった。
転移したらすぐに剣を抜き、振った。あたったのはナイフ、確かに刈谷もナイフを投げるということを聞いたことがある。
ナイフとともに電撃が飛んできたが天剣に吸い込まれ、消えていった。これはすごい。
もう一度しっかりと天剣を握りなおし、目の前の敵と対峙した。
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