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六年という歳月

 最初に出てくるのが刈谷でないのは特に気にしないでください。

 一人の少年が小さなまだ発展中の村にいた。

 少年は今日も最近村にやってきた女性の元へと向かう。

 最初に会ったときからずっと暇を見つけては遊びにいっているという感じだ。いつも笑顔で少年を迎え入れ、よく分からない話をしてくれる。それだけで少年は女性の下に通い続けた。

 だが、それも今日までとなってしまう。


 いつもどおり少年…マシューは女性…イザベラの元へと向かった。

 内陸で冬は寒いが、今は春になって雪解け水が川を流れる。

 その川を渡り、村から外れたところにある丘の上の家に向かった。

「こんにちはー」

 そういってノックもせずに扉を開け、中に入る。

 もしもここで日ごろから返事を待ってから入る習慣ができていたらこの場面は見なくてもすんだのだが……そんなことは後の祭りだ。

 家の中には男が立っていた。

 黒のロングコート、正面は開けており、そこから刀が見えるがそれをマシューは知らない。

「誰……?」

 マシューは男が知らない人だったから戸惑った。それを見て男はため息をつくとマシューに分かるようにはっきりと、ゆっくりとこういった。

「名乗る気はないが、強いて言うなら愚者といったところか?」

 その愚者と名乗った男は振り返り、そのままマシューの横をすり抜けて外に出て行く。

 マシューはそれを止めようと思ったが、男がマシューのほうに向かうとき、見てしまった。

 イザベラは死んでいた。よく分からないが白色の翼を背中に生やして、首をなくして……。

「え……」

 マシューは状況を理解するのに5秒かかった。年齢を考えれば早いが、この場で考えるなら遅すぎた。

 急いで振り向き、家を出て、あたりを見渡す。だが、先ほどの男はいない。

「イザベラさん!」

 もう無駄だがそんなことはお構いなしに死体に近づく。

 まだ暖かい。そして首からは血がまだ吹き出ており、マシューが現れる直前に殺されたことが伺える。

 思わず死体にさわり、自らの身体を血で染める。

 白色の翼はどんどん輝きを失っていき黒くなっていく。

「うわああぁぁぁ」

 そしてやっとほかの大人がイザベラの家で起きた異変に気付いた。



 愚者は世界の裏側の闇とも言える者たちの集まる酒場に訪れる。

 6年前、日本で小さいが大きすぎる事件が起きた。

 日本国内で魔術が世界の表側にあると公になったのだ。

 理由はライブ中継中のカメラの映像に大量の剣が突如写ったこと。

 しかもそれが何もないところで宙に浮かび、動き出したのである。それは大きなドーム状になっていたため、動きが止まったあと、そのドームの中心に向かってみればある大家の家で大量の死体と剣が散乱していた。

 その後いくつか問題が起きた後、政府が魔術の存在を肯定。その後あらゆる国でも魔術の存在が確認された。

 この事件が起きてからもはや6年。

 魔術の適正のあるものを公に集めて教育する機関ができたのも6年前なので今年で初めてそれを卒業してくる魔術師がいるということになる。

 こういった裏側の闇もそれによって今年は客が多くなったらしく、予想以上に席が埋まっている。

 ―――そうはいっても全席埋まらないが……。

 さらに翼を持つ者たちである天使が現れ、この世界を生きている。

 裏側には天使から堕天使へと堕ちた者たちもいる。

 天使曰く、我々は何千年前からかこの世界の人たちを見てきたが、その中でもあまりにも大きな我らの敵がいるから再びこの地へと降りた。その者を見たら教えてほしい。と。

 堕天使はその天使が堕ちた存在。ゆえに天使とは大きく違い、そのものの味方をするという。

 この天使が降りてきたことを天使降臨という。これが5年前。

 多くの者たちは神がいると知ってこの天使が使えている神を崇める宗教が発足し、それが爆発的に広まっていき、今ではほとんどの人に信仰されている。

 この宗教を天涯教といい、聖地が天使が最初に降り立った日本の6年前の事件の跡地である。ここを降臨地という。これは天使降臨の3ヵ月後に起きた。

 そしてそのころから頻繁に起きている事件が天使暗殺事件。

 初めのころこそ他の宗教が天使を殺していると思われていたが、それがいたるところで起きているのだから謎になっている。

 おそらく、今日のことでまた進展があるだろう。暗殺者が日本人男性、身長は175程度で体格は普通。腰に日本刀を差し、年齢が20代前半ということぐらいしか分かっていなかったが、今回の事件でそこに愚者と名乗るというのが追加されるだろう。

 もしかしたら子供の話だからといって信用されないかもしれないが、そんなことはどうでもいい。そう考えている。


「注文の品だ」

「ありがとう」

 そういって渡された料理に手をつける。

 新聞を読んでいると隣に男が座り、

「天使暗殺か、若いのにそれを追っているのか?」

 どうやら開いているページから予測したらしい。

「ああ、追っているわけではないが、どんなやつかなとは思っている。同じくに出身の同じぐらいのやつ。興味わくだろう?」

 そういうと男はうなずき、

「確かに、もともと複数犯説派だが、ここまで同じような人間を何人も集めて、確実に天使だけを殺すなんてこと普通できないし、そもそも俺も魔術はかじったが天使と人間の区別なんてすぐにつかないよ」

「そりゃあそうだろう。天使は人と違って翼を持っているが、それ以外はほとんど変わらないそうだし、確か子供を生めるって聞いたぞ」

「ああ、それは俺も聞いた。あのときには思わず飲んでたビールを吹いちまった」

 そういうと男は一気にコップの中のビールを飲み、

「そういう噂か何かが出てくるということは、実際にあったのかもしれないな」

「違いない」

 そういって二人で笑いながら食事を続ける。

 すると突然真剣な顔つきになって、

「お前、天使暗殺を続けているやつ…刈谷とかいったな。そいつを追うのはやめたほうがいい。仕掛けたやつらの半分以上が死んでいるし、十人天使を大衆の目前で殺したそうだ。俺たちのようなやつに手が出せる相手じゃない」

 まるで言い聞かせるように言う。

「いいか、いくら金がほしいといっても、そいつよりもほかの稼ぎをしたほうが安全だ。やるつもりかどうかは分からねぇけど、もっとほかの道があるからな」

「大丈夫だ。それに僕はどちらかというと天使反対派だ。依頼されてもやらないよ」

「そうか、それならよかった……」

 そういうと男はもう一度酒を飲み、金を払って出て行った。

 ―――二人か……。

 天使反対派といったときに敵意をぶつけてきたのは二人だった。この国では天使の恩恵がほとんどないから賛成とか反対とか言う奴はほとんどいない。さらには反対だと公言しても敵視されない。

 つまりは、敵意をぶつけてきたやつはここの出身ではない可能性が高く、さらに刈谷に協力者がいると考えて世界中で探し回っているやつだろう。

 天使ではない。天使はあと百三十八人だ。その人数を外国に割り振るなんて馬鹿なまねはしない。出てきても隣の国、それとは別に現れた天使を中心に殺しているが……いかんせん数が多い。一日五人ぐらい殺しているが、まったくいなくなる気配がない。

「っち、面倒だな」

 誘うつもりで適当に裏路地をうろついていたら天使がいくらか動き出したようだ。

 こいつら、どうやら僕の現在地を天使に知らせただけで自分たちが動く気はないようだ。

「まあ、ある意味では楽だが……」

 そういうと裏路地ではなく何もない丘に来る。

 ここでならほかの人に迷惑は掛けないだろう。

「わざわざ人のいないところに来てくれるとは感心だな」

 白色の羽を生やした天使がこちらを見下ろす。

「もともと僕だけを殺そうとするやつは殺してないよ」

 刈谷が裏では名前まで判明している理由は刈谷がいろいろと名乗ることが多いことと、刈谷が口封じをしないことが原因だ。

 もう一度襲ってきたときにほかの人のことを無視して殺しにくるやつは殺すが、ほかの人のことを考えて殺しにくるやつは殺さずに放置する。

「それにしても、あんたらとうとう人を使うようになったか、遅すぎるだろう。今回は何人だ?」

「今回の人数はそのときのお楽しみだ」

 そう天使が言うとそのまま魔術があらゆる方向から放たれる。

 それを左の剣一振りで消し飛ばし、さらに右の剣を抜き放ち空間を断裂させる。

「―――魔剣技 滅―――」

 一瞬静かになり、その後、剣の砕け散る音と空間の割れる音が響いた。

 すると天使たちは塵となって消える。準備は必要だが、滅を使えば魔力を込めた量に比例した範囲内の動物を消滅させられる。

『またそれか、面倒なのはわからないでもないが、それはお前に負担がかかりすぎる。あまり無茶をするな』

 そういう声が内から聞こえてくるが、そんなものは気にしない。

『それに滅と絶は切り札だろう。そんなに多用するな。いくら見られていないと分かっていても……』

『いや、見られているぞ』

 そう言い放つと少しの間沈黙が続き、

『なぜ切り札をわざわざ見せる。それにどこからだ?』

 聞かれたなら答えるしかない。

『上だよ。衛星で見られてる』

『わざわざ手の内を見せる必要は?』

『絶までだと思っていたら問題ない。それに前ほかの技の案を見せただろう』

『あれができると思っているのか?』

『絶ができるんだからな』

 そういうともう声は聞こえなくなった。

 空間断裂ができるなら、もっと大きく断ち切ることもできるはずだ。

「―――世界の記録ぐらい消し去ってやる」


 魔剣技 滅:周囲の空間を傷つけてその場で動くもの(動物)を空間ごと消し去る魔剣技。

 魔剣技 絶:空間を切り裂き、敵の防御などを無視して切り裂く魔剣技。 

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