【第3面】 (10)
「ええ。どこからでもどうぞ」
アスカは言った。
私は一発で決めるつもりだった。最初から全力だ。私の最強の技は■■■■■という魔法だ。エルフのステージで使ったことがある。うずまく灼熱の火炎で、相手に大ダメージを与える。
初手に■■■■■を叩き込んだ。アスカに190のダメージを与えた。
カウンターの数値が476に減った。いける。手応えを感じる。勢いに乗り、今度は■■■■■を両手同時に二発撃ち。175、171、のダメージ。
アスカの残りHPは130となった。
最強の呪文を連発したことで私は疲弊していたが、高揚感のほうが勝っていた。このまま押し切りたかった。もう一発■■■■■を撃てる気力は残っていなかった。だが、与えるダメージは、あと31でいい。通常攻撃でも仕留められる。私は剣での攻撃を選択した。懐かしい剣の感触。いつか王宮で剣を振ったことが、ずっと昔のことにも思えた。私は、ここまで来た。ふうっと息を吐き、私はアスカに近付き、そして剣を振った。
31のダメージ。
ちょうど31だった。ゲームにはこういう偶然がある。私は、ついてる。アスカのカウンターは、130から、99になった。
やった。
これで魔王城に
「あ、それは無理」
と、アスカは言った。
カウンターの「99」の前の黒いスペース。――そこに突然表示された「9」という数値。
999。
「隠してたわけじゃないの。このカウンターには三桁しか表示されない仕様だから。けれどHPの最大値が999だと聞いたことは無いでしょう。
ボクのHPは66666666666666666666666666666666666666666666666666666だよ。
最初から全力の攻撃でくるべきだったね。それとも、今のが、もしかして最大の攻撃だったかなあ」
何の感慨もなくアスカが言った。
一瞬の安堵は、一転して暗転へ。実際、簡単に達成できすぎて、おかしいと思っていた。いや、最初から相手の手の内である事は予想していた。それが1位と71位の客観的な差というのものだ。
私は、信じたかったのだ。せめて、一瞬の安堵だけでも味わいたかった。
情けないが、もう私には、打てる策が無い。
「それじゃ、ボクの番だね。最後に言うことはある? 『殺さないで』は無しでね。賭けは賭けだから。それ以外なら聞いてあげるかも。ボクは1位。非常に有能だからね」
「じゃあ、あなたが魔王城に行ったら、ユイって子を助けて。魔王に捕らわれてるはずなの」
私は迷わず頼んだ。まずユイの救出を取り付けたかった。そしたらちょっとは安心だった。私を殺す子に頼むのは感情が錯綜した。だが、この子しか居なかった。そして、この子はユイを救える力がある。
「いや、それは無理」
ところが、アスカは撥ね付けた。
「なぜよ!? 一人助けるぐらい簡単でしょ! 捕まってる人間を助けないやつなんて、魔王と変わらないわ。なにが1位よ! 魔王と同じ穴の狢じゃない!」
私は子どものようにキレていた。だが、気にしている場合じゃない。力があるのに正義のために使わないのはずるいじゃないか。
「なんでって、あのね。ボクは、現実の小学校で、アズサユイと同じクラスなの。頭が弱い感じの子でね。クラスでも見向きもされてなかった。だから目立たなかったね。最近は学校を休んでる。ボクはあいつがあまり好きじゃないの。だって、馬鹿だから。ユイがゲームに居るのは知ってたよ。でもね、関わる理由がない。だから、お断りよ」
アスカは断言した。
「な……」
そんな事情だったのか。同じクラスで、嫌っている相手だなんて。
それではアスカがユイを助けるわけがない。
「不愉快な気分になった。ユイの話をしたせい。ねえ、どうしよう?」
アスカは下から私を覗き見た。
「こうしよう」
言うと同時、不快な音がした。
壊れる音だった。
私のカラダが、カセットテープのようにきしんで、壊れた。




