表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/73

【リアリア】 (5)

 私には、現実世界で意味あるものは、たった二個しか無い。

 

 

 昔から、不思議な、超常的な存在物を認識できた。

 この世ならぬ場所、人、物などだ。

 現実でないものが、幽霊のように現実世界に出没するのである。

 それら不思議な存在物を、私は「断片」と呼んだ。

「断片」は強いエネルギーを持っているのを感じた。「断片」に接するとき、前に味わったこともないのに、懐かしくて安らげる感じがした。

 ただし、私は「断片」を知覚できるだけで、たとえば「断片」を使って世界改変できたりはしなかった。

 しかも「断片」の存在や出現頻度は、安定していなかった。たとえば、ある場所に「断片」を感じても、二度目にその場所を訪ねると、ふつうのすすけた現実世界であったりした。だからむしろ、「断片」のせいで「現実」との対比は増した。年を取るほど、その較差がすごく拡大してきて、悩みの種になった。しまいには、外を歩いているだけで、ふつうの町並みや風景や人間に、耐えがたい吐き気や眩暈をもよおすようになった。

 現実世界は敵になったのだ。「現実病」の始まりだった。

 私は「現実」を避けたかった。実際、「現実」から遠ざかったつもりだった。だがそれは観念的に遠ざかったに過ぎなかった。私は依然として現実世界で生活していた。生活しているほかなかった。私は「現実世界をやめる」方法を思い付かなかった。私の内部は「現実」の力によって引き裂かれていく。「現実病」は段々と深刻になった。寝ている時以外は私を圧迫する、漬物石のようだった。しかも石は確かに重くなっていた。すぐには気付かないが、じわじわと意地悪く重くなっていた。

 一方、「断片」を見ることは少なくなった。最近は皆無だった。もはや、「断片」という言葉を唱えると、古い思い出のように感じた。大学生という年齢は、「断片」を見るには加齢しすぎかもしれない。あるいは「現実病」が重くなったのだろうか。はたまた、ループする無内容な毎日のせいなのか。

 しかし私は、「断片」を見られるなら、また見たいと思っていた。私にとって「断片」は意味あるものだった。現実世界というゴミの山に隠された宝石のようなものだったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ