表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/73

【リアリア】 (14)

 *

 

 サークルビルの病的な白さの内部を通り、[ 925E ]の札が掲げられた部屋に連れて来られた。

 灰色のドアにはヒジリが言った『サブカル研究会』の名は無かった。代わりの目印か、デフォルメされた丸っぽいキャラのプレートが、ドアノブに提げられていた。キャラの顔だけをデザインした物で、下ぶくれしたトマトみたいな形をしていた。目は大きくて縦に長く、点目と線目の中間といった趣。髪はギザギザと簡略に描かれていた。大きいヘチマ形の口は愛嬌と皮肉を感じさせる。私は一目見て、ヒジリを模したキャラではないかと思った。

 ヒジリはプレートを外し、カギを開け、室内に入った。プレートは「退室中」を意味するようだ。

 細長い殺風景な部屋だった。大きなテーブルが部屋の大部分を占めていた。部屋の壁には本棚が備えられているが、一冊も本は無かった。突き当たりの窓にはブラインドが下りていた。

 ヒジリはブラインドを背に、奥の椅子に座った。この部屋では、ヒジリはいつもより鋭角的なデータに感じられた。教室で彼女がふと窓を見たりする時の、明晰で澄んだイメージ。

「参加権を得た君に対し、こちらも今からは裁定者インストラクターとして接する」

 ヒジリは言い、座るように促した。

 私は、テーブルまわりにたくさんある椅子のうち、ヒジリの対面に座った。長方形のテーブル。最も遠い座席。

「さて、『ゲーム』の内容は、『リアリア』からの脱却を目指すセラピー。先程の話で説明した通り、ゲームオーバーの代償は、死亡をはじめ、ゲーム参加権の消失。概説はこの程度。わからないところは適宜説明する。『ゲーム』を詳しく知るにはプレイするのが早道。まもなくプレイする機会が実際にあるであろう」

 ヒジリは形式ばって話した。「裁定者インストラクター」の話し方か?

 たぶん自覚なしにやっているのだろう。ヒジリは、呼吸のように自然に、色々なキャラクターを演じ分けた。使われたキャラクターは捨て去られ、再び拾われなかった。次々に違う模様が現れるが間違いなく「空蝉ヒジリ」だと言える万華鏡だった。

「ところで、『ゲーム』をやるに当たって参加費ベットが必要になるが、君は準備できる?」

「ベット? 賭け金という意味?」

「通常はね。しかし、『ゲーム』においては、お金に限らない。『ゲーム』に参加するには、『現在もっとも大事な物』を差し出すことが条件。差し出したベットはゲームをクリアすれば返還されるが、クリアできなければ没収される。つまりベットも現実世界から消滅する。しかし没収を恐れるのは徒労とも言える。ベットが没収される時点では、プレイヤーも死亡しているから」

 私は、躊躇した。

 私には「大事な物」など無かった。

 この世界も、この世界の物も、私に無理矢理与えられたもの。もちろん、ジブンの心身も含めてだ。望んだ覚えは、ない。私は何故か・・・・・烏賊夏菖蒲・・・・・なのだ・・・。もちろん、私は、痛いことは嫌いだし、苦しいことも嫌いだ。やりたくないことは、いっぱいある。

 けれど、だからといって、やりたいことはない。大事な物などありはしない。

 現実世界はカサブタと変わらなかった。元々ある傷を、更に悪化しないように・・・・・・・・・・塞ぐもの。めくったら痛いもの。カサブタをベットにするのは、いかにもお粗末だ。

「君の『もっとも大事な物』は何?」

 問われて、私は考えあぐねた。私には賭ける物などない……。

 いや、しかし、それは本当か? 

 私はなぜ「現実病」を治すことに本気になっているのか? 

 現実に『大事な物』があるから、本気で取り組むのではないだろうか?

 ひょっとして、私は現実この世界に対して何かをしたいのだろうか?

 我ながら、驚いた。このジブンが、現実世界に何かの望みを残しているっていうのか。

 だとしたら、それは何か。

 なぜ私は、『ゲーム』をやろうとしているのか? 

 なぜ私は、この部屋に来たのか? 

 なにが一体、私を……? 

 そうか……ハッキリした。

 私にとって「大事な物」は、

「ヒジリ」

「何か質問?」

「私のベットは、空蝉ヒジリ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ