第12羽
それから、約20年。
多くのペンギン達は、空を飛べることを忘れてしまいました。わずかに都市伝説(南極に都市はありませんけど)として残っているだけです。
4月。繁殖期を迎え、伴侶の居る雄ペンギン達は、卵の上に座って卵を暖めていました。
伴侶の居ない雄ペンギン達は、卵を暖めている雄ペンギンの周りに立ち、空からちょっかいを出すカモメを追い払っていました。ずっと上を向いての仕事は、とても退屈。「今年もAAAか。どうして俺はこんなにもてないんだろう?」
皇帝ペンギンのE-800206Mは、遊びに来ていたアデリーペンギンのE-811007Mにぼやきました。
「おい、AAAって何だい?」
「Anti Aircraft Artillery、対空砲兵の略の英語だよ。私は、カモメが来たらグワッグワッと叫び声の対空砲火を浴びせかけるのさ。」
「おい、その言葉は、どこで教わったんだ?人間の言葉だろ?」
「父さんに教わったんだ。そういえば、今でも人間の名前を使うペンギンが居るらしいよ。」
「それ、ただの噂だろ?」
「でも、卵を暖めることも出来ずに死んじゃうのは、寂しい人生じゃん。」
「もてるように、頑張ればいいじゃない!」
「僕は、勉強したいんだよ!なぜ南極は寒いのか?なぜ氷は白いのか?なぜペンギンは空を飛べないのか?」
「じゃあ、探しに行ってみるかい?人間の名前を持ったペンギンを!」
「早速行こう!」
こうして皇帝ペンギンのE-800206MとアデリーペンギンのE-81107Mは、トボガン滑り(おなかで滑ること)でペンギンの群から静かに去っていきました。