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第09話「やばくない?」

# 第09話「やばくない?」


---


## 1


ギルドの受付。


エルマが、二人を見ていた。


「……ちょっと聞いていい? あなたたち、大丈夫?」


リンが振り返った。


「何が?」


「いや、その——」


エルマは言葉を選んだ。


「最近、ずっと一緒だなって。朝も昼も夜も。別々に来たこと、一度もないし」


「それが何か?」


「いや、別に問題じゃないんだけど——」


エルマは、ミオを見た。ミオはリンの裾を掴んで、きょろきょろしている。リンの後ろに隠れるように。


「ミオちゃん、リンさんがいないと大丈夫?」


ミオが首をかしげた。


「大丈夫じゃない。リンがいないと、何すればいいかわかんない」


「……そう」


エルマは、リンを見た。


「リンさんは? ミオちゃんがいないと——」


「落ち着かないわね」


リンは、あっさり認めた。


「だから何?」


「いや——私が余計なお世話なのはわかってるけど」


エルマは、小さく息を吐いた。


「共依存って、こういうことなのかなって。——ごめん、気にしないで」


「気にしてないわ」


リンはミオの手を取って、その場を離れた。


エルマは、二人の背中を見送った。


「いつか破綻するって、みんな言ってる……」


誰にも聞こえない声で、呟いた。


---


## 2


酒場。


カインが声をかけてきた。


「おい、リン。ちょっと話せるか」


「忙しいわ」


「頼むよ。5分だけ」


リンはため息をついた。


「……5分だけ」


カインは、向かいの席に座った。ミオはリンの横に座っている。リンの腕を掴んで、離さない。


「単刀直入に言う。お前ら、やばいぞ」


「知ってる」


「知ってて続けてんのか」


「ええ」


カインは、頭をかいた。


「俺はお前らのことが心配で言ってんだ。チームってのはな、誰か一人が欠けても回るようにするもんだ」


「知ってる」


「お前らは逆だ。一人でも欠けたら終わる。そんなの危険すぎる」


「知ってる」


「知ってて——」


「やめられないの」


リンは、カインの目を見た。


「わかってる。危険だって。異常だって。でも、やめられない」


「……」


「ミオがいないと、私は何もできない。ミオも、私がいないと何もできない。——それが、現実」


カインは、黙った。


ミオが口を開いた。


「カインさん、心配してくれてありがとう。でも、ミオ、リンと離れたくない」


「……」


「離れたら、ミオ、壊れちゃうから」


カインは、立ち上がった。


「——まあ、俺に言われたくねえよな」


そう言って、去っていった。


リンはミオの手を握った。


「……ごめんね。嫌な思いさせて」


「嫌じゃない。リンがいるから」


「そう」


二人は、酒場を出た。


---


## 3


医務室。


ミオの傷の経過を診てもらいに来た。


ドクが包帯を外しながら、言った。


「傷は塞がってきてる。あと数日で完治だな」


「ありがとうございます」


「——で、聞きたいんだが」


ドクは、リンを見た。


「お前ら、このままでいいと思ってるのか」


「どういう意味ですか」


「依存症ってのはな、自覚した時には手遅れなんだ」


「……」


「お前らは自覚してる。わかってて続けてる。——それが一番たちが悪い」


リンは何も言わなかった。


「薬で治せる依存症じゃない。だから俺には何もできん」


ドクは、ため息をついた。


「離れた方がいい、とは言わん。でも、覚悟はしておけ」


「覚悟?」


「お前らの関係は、どこかで必ず代償を求めてくる。——もう払い始めてるだろ」


リンの左手が、無意識に右腕を掴んでいた。


「払い始めてるって——」


「この前の戦闘。ミオが大怪我した。お前は動けなかった。——それが代償だ」


「……」


「次はもっと大きな代償を払うことになる。それでもいいなら、続けろ」


ドクは、包帯を巻き直した。


「はい、終わり。帰っていいぞ」


リンは立ち上がった。ミオが横に立つ。


「ドク」


「何だ」


「覚悟なら、とっくにしています」


「……そうか」


「私が壊れても、ミオが壊れても——それでも、離れられない。離れたくない」


ドクは、何も言わなかった。


二人は、医務室を出た。


---


## 4


夜。


宿の部屋。


二人は、ベッドに座っていた。


「リン」


「何」


「みんな、ミオたちのこと心配してくれてるね」


「……そうね」


「でも、ミオ、リンと離れたくない」


「——私も」


リンはミオの手を取った。


「わかってる。異常だって。危険だって。みんなが心配してくれてるのも、わかってる」


「うん」


「でも、やめられない」


「うん」


「——それでいいの?」


ミオは首をかしげた。


「いいとか悪いとか、わかんない。でも、リンがいないと、ミオ、生きていけない」


「……」


「だから、一緒にいる。それだけ」


リンは、深く息を吐いた。


「——そうね。それだけ」


ミオがリンに寄りかかってきた。


「リン、あったかい」


「……あなたの方があったかいわよ」


「えへへ」


ミオが目を閉じた。リンの肩に頭を乗せて。


リンは、ミオの髪を撫でた。


——やばい。わかってる。


でも、この温もりを手放せない。


みんなが心配してくれている。わかってる。


でも——


「リン」


「何」


「ミオ、リンが好き」


「……知ってる」


「リンは?」


「——うるさい。寝なさい」


「えへへ」


ミオの呼吸が、すぐに穏やかになった。眠っている。


リンは、ミオの寝顔を見た。


「——私も」


誰にも聞こえない声で、呟いた。


---


*第09話 了*


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