第08話「私も、あなたを」
# 第08話「私も、あなたを」
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## 1
その夜。
リンは眠れなかった。
ミオは隣で眠っている。腕に包帯を巻いたまま。深い傷。でも、「痛くない」と言って笑っていた。
——リンを守る。それだけは、ミオが決めた。
ミオの言葉が、頭から離れない。
この子は、自分で何かを決めたことがないと言っていた。孤児院で、「考えるな」と教育されて。自分の意志を持たないまま生きてきた。
なのに——
「リンを守る」
それだけは、自分で決めた。
リンは天井を見つめた。
——私は、どうだ。
3年間、何も決められなかった。動けなかった。過去に縛られて、事務仕事に逃げて。
ミオに出会って、指示を出すようになった。でも、それは「自分が動く」ことじゃない。ミオを動かしているだけ。
私は、まだ何も変わっていない。
「……」
リンはミオの寝顔を見た。
銀髪が枕に広がっている。穏やかな呼吸。無防備な寝顔。
——この子を守りたい。
ふと、そう思った。
今日、ミオは私を守ってくれた。私のために、自分で決めて動いてくれた。
なら、私は——
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## 2
翌朝。
リンは医務室にいた。
「ミオの傷、どうですか」
ドクが包帯を巻き直しながら、答えた。
「深い。でも、致命傷じゃない。1週間は安静だな」
「……そう」
「お前が傷一つないってことは、あの子が庇ったんだろう」
「——はい」
ドクは、リンの顔を見た。
「お前、顔色悪いぞ。寝てないのか」
「……寝てません」
「なんで」
「考え事をしていました」
ドクは、ため息をついた。
「お前らの関係は、どこかで必ず代償を求めてくる。今回がそれだったんだろう」
「——」
「離れた方がいい、とは言わん。でも、覚悟はしておけ」
「覚悟」
「いつか、どちらかが壊れる。そういう関係だ」
リンは何も言わなかった。
ミオが包帯を巻き終えて、起き上がった。
「リン、終わったよ」
「……ええ。帰りましょう」
「うん!」
ミオがリンの手を取った。怪我をした方じゃない手で。
リンは、その手を握り返した。
——覚悟なら、とっくにしている。
この子といる限り、どちらかが壊れる。わかってる。
でも、離れられない。
離れたくない。
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## 3
宿に戻った。
ミオはベッドで横になっている。リンは椅子に座って、本を読んでいる——ふりをしている。
「リン」
「何」
「リン、昨日から変」
「変じゃないわ」
「変。リン、ミオのこと見てる。でも、目が合うと逸らす」
「……気のせい」
「気のせいじゃない」
ミオが起き上がった。腕が痛むはずなのに、平気な顔で。
「リン、何考えてるの」
「……」
「ミオに言って。ミオ、リンのこと知りたい」
リンは、本を閉じた。
「……ミオ」
「うん」
「昨日、あなたは私を守ってくれた」
「うん」
「私のために、自分で決めて動いた」
「うん」
「私は——何もできなかった」
リンの声が、震えた。
「あなたが危なかった時、私は動けなかった。足が動かなかった。3年前と同じで——」
「リン」
「私は、まだ何も変わっていない。指示を出すだけ。自分では動けない。あなたを守れない」
「リン」
ミオがリンの手を取った。
「リン、ミオを守ってくれてる」
「守れてないでしょ」
「守ってる。毎日、守ってくれてる」
「——」
「リンがいなかったら、ミオ、もう死んでた。何回も死んでた。リンが『右』って言ってくれたから、右に行けた。リンが『待って』って言ってくれたから、待てた」
ミオはリンの手を握った。
「それって、守ってるってことでしょ」
「……それは、指示を出してるだけで」
「同じ」
ミオが笑った。
「ミオ、一人だと何もわかんない。リンがいてくれるから、わかる。生きてる。それって、リンがミオを守ってくれてるってこと」
リンは、何も言えなかった。
目頭が熱い。また泣きそう。
「……ミオ」
「うん」
「私も、あなたを守りたい」
言葉が、自然と出た。
「今まで、指示を出すだけだった。自分では動かなかった。でも——あなたのためなら、動けるかもしれない」
「——」
「約束できない。また、動けなくなるかもしれない。でも——」
「うん」
ミオが抱きついてきた。
「リン、ありがとう」
「まだ何もしてないわよ」
「でも、言ってくれた。それだけで嬉しい」
リンは、ミオの背中に手を回した。
「——変な子」
「リンが好きだから」
「……うるさい」
「えへへ」
ミオが笑う。
リンは、少しだけ笑った。
——私も、あなたを守りたい。
言葉にできた。初めて。
それだけで、何かが変わった気がした。
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*第08話 了*




