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第07話「リンを守る」

# 第07話「リンを守る」


---


## 1


中層10階。


深層に近い。ここまで来たのは初めてだった。


「この先、大部屋。敵が多い。——6体」


リンの声が緊張している。


「6体?」


「リザードマン4体と、上位種が2体。……きついかもしれない」


「リンが『行け』って言うなら、行く」


「……」


リンは考えた。


6体。今までで最多。上位種は、通常種の3倍は強い。


でも、ここで引き返したら、報酬が——


「行くわ。でも、慎重に。私の指示通りに動いて」


「うん」


二人は、大部屋に足を踏み入れた。


---


## 2


戦闘が始まった。


「右から2体来る! まず1体目を——」


「うん!」


ミオが飛び出す。剣が閃く。1体目の首を落とす。


「後ろ!」


振り返る。2体目の攻撃を剣で受ける。火花が散る。


「押し返して、距離を——」


「——っ!」


3体目が横から来た。予想外。リンの感知が遅れた。


ミオが避ける。でも、完全には避けきれない。腕を切られた。


「ミオ!」


「大丈夫、浅い!」


血が流れる。でも、ミオは止まらない。


3体目を斬る。4体目を斬る。


残り2体。上位種。


「ミオ、一度下がって!」


「うん!」


ミオが下がる。リンの横まで。


上位種が、じりじりと距離を詰めてくる。


大きい。通常種より一回り大きい。鱗が厚い。目が鋭い。


「どうする、リン」


「考えてる」


リンは空間を把握し直した。


退路は——ある。でも、背を向けたら追いつかれる。


正面突破するしかない。でも、2体同時は——


「リン」


「待って」


「リン、顔白い」


「——」


手が震えている。呼吸が浅い。


3年前が、蘇る。


中層12階。5人パーティ。退路を断たれた。一人ずつ倒れていく。


——大丈夫だって言ったのに。


「リン!」


ミオの声で、意識が戻る。


上位種が動いた。1体が、リンに向かって——


「——っ」


リンは動けなかった。足が、動かない。


「リン!!」


ミオが飛び出した。


---


## 3


指示は、なかった。


リンは「待って」と言った。「考えてる」と言った。


でも、ミオは動いた。


リンが危ない。リンが殺される。


それだけが、頭にあった。


考えるな。言われた通りにしろ。


孤児院の声が、頭の中で響く。


うるさい。


今は、そんなことどうでもいい。


リンを守る。それだけ。


ミオは上位種の前に立ちはだかった。


「——っ!」


剣で受ける。衝撃が腕を駆け抜ける。重い。今までで一番重い。


押される。足が滑る。


でも、退かない。


リンがいる。後ろに。


「ミオ! 何してるの!」


「リンを守ってる!」


「指示してないでしょ!」


「いい! ミオが決めた!」


ミオは叫んだ。


「リンを守る! それだけは、ミオが決めた!」


上位種が再び振りかぶる。


ミオは避けない。受ける。


腕が痺れる。肩が軋む。でも、退かない。


「——っ!!」


渾身の力で押し返す。上位種がよろめく。


その隙に——


「リン! もう1体!」


リンが我に返った。


もう1体の上位種が、横から迫っていた。


「——右! ミオ、右!」


「うん!」


ミオが飛ぶ。右の上位種に斬りかかる。


1体目が追いすがる。リンが魔力弾を放つ。顔面に直撃。怯む。


「今! 心臓!」


ミオの剣が、上位種の胸を貫く。


「もう1体! 背後から来る!」


振り返る。斬る。首が飛ぶ。


大部屋が、静かになった。


---


## 4


戦闘が終わった。


ミオは、その場に座り込んだ。息が荒い。全身が震えている。


「ミオ」


リンが駆け寄ってきた。


「怪我は——見せて」


腕の傷。深い。肉が見えている。


「……嘘。全然大丈夫じゃない」


「大丈夫。痛くないから」


「痛覚が鈍いだけでしょ。——動かないで」


リンがポーチから包帯を取り出す。傷口を縛る。手が震えている。


「リン、手、震えてる」


「うるさい」


「リンも怪我した?」


「してない。——あなたが庇ったから」


「よかった」


ミオが笑った。


リンは泣きそうな顔をしていた。


「よくない。勝手に動いたでしょ。私の指示を無視して」


「だって、リンが危なかった」


「だからって——」


「リンを守る。それだけは、ミオが決めた」


ミオは、リンの目を見た。


「リンの言う通りにする。でも、リンが危ない時は、ミオが守る。それは、ミオが決めた」


「……」


リンは何も言えなかった。


ミオの目。虚ろじゃない。初めて見る、強い目。


「ミオ、自分で決めたことなんて、今まで何もなかった。でも、これだけは決めた。リンを守るって」


「……馬鹿」


「うん。馬鹿でいい。リンがいればいい」


リンは、ミオを抱きしめた。


小さな体が、大きな体を抱きしめる。無理がある。でも、構わない。


「……ありがとう」


「リン、泣いてる?」


「泣いてない」


「泣いてる」


「——泣いてない」


ミオが笑った。リンの頭を撫でた。


「リン、かわいい」


「うるさい」


「でも、嬉しい。ミオ、リンに『ありがとう』って言ってもらえた」


「……」


リンは、ミオの胸に顔を埋めた。


涙が止まらなかった。


---


*第07話 了*


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