第06話「離れていた時間」
# 第06話「離れていた時間」
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## 1
その日、リンは一人だった。
ヴェルナーに呼び出された。報告書の確認。書類仕事。半日かかると言われた。
「ミオは連れてくるな。お前一人で来い」
そう言われて、仕方なく。
「リン、行っちゃうの?」
朝、宿の前で。ミオが不安そうな顔をしていた。
「半日で終わる。夕方には戻るから」
「……うん」
「一人で大丈夫?」
「大丈夫。ミオ、待ってる」
ミオは笑った。でも、目が笑っていなかった。
リンはギルドに向かった。振り返らなかった。
振り返ったら、戻ってしまいそうだったから。
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## 2
ギルドの執務室。
書類の山。報告書の確認。誤字脱字のチェック。単純作業。
リンは黙々とこなした。
でも、集中できない。
ミオは何してるかな。
ペンが止まる。
——違う。仕事に集中しろ。
書類をめくる。数字を確認する。計算を照合する。
ミオ、ちゃんとご飯食べてるかな。
また止まる。
リンは、左手で右腕を掴んだ。爪が食い込む。痛みで、意識を引き戻す。
「……集中しろ」
自分に言い聞かせる。
半日。たった半日。それだけ離れるだけ。
なのに、落ち着かない。何をしていいかわからない。手持ち無沙汰。胸がざわつく。
——これは、なんだ。
リンは息を吐いた。
手が、かすかに震えていた。
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## 3
同じ頃。
ミオは宿の部屋にいた。
一人。
「……」
何をすればいいかわからない。
リンがいない。指示がない。
とりあえず座る。ベッドの端に。
リンの匂いがする。枕から。シーツから。
「リン……」
名前を呼んでみる。返事はない。当たり前。
立ち上がる。部屋を歩く。窓を見る。外を見る。
何も見えない。何も考えられない。
また座る。
手が震えている。なんで? 怪我してない。戦闘してない。なのに震えてる。
呼吸が浅い。肺が縮んだみたいに、うまく吸えない。
「……リン」
また名前を呼ぶ。
リンがいない。リンがいないと、何をすればいいかわからない。
孤児院の時と同じ。誰も指示してくれない。暗い部屋に閉じ込められた時と同じ。
「やだ……」
ミオは膝を抱えた。
「リン、早く帰ってきて……」
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## 4
昼過ぎ。
リンは書類仕事を終えた。予定より早い。
「もういいわ。帰る」
「まだ確認が——」
「残りは明日やる」
リンは立ち上がった。
落ち着かない。ミオのことが気になる。早く戻りたい。
——何を焦ってる。
自分でもわからない。でも、足が勝手に動く。
ギルドを出る。宿に向かう。歩く速度が、いつもより速い。
走りたい。でも、走るほどじゃない。たかが半日離れただけ。
なのに——
胸が締め付けられる。息が苦しい。手汗が出ている。
宿に着く。階段を上がる。部屋の扉。
ノックする。
返事がない。
「ミオ?」
扉を開ける。
ミオがいた。ベッドの上。膝を抱えて、丸まっている。
「ミオ」
「——リン?」
ミオが顔を上げた。
目が赤い。泣いていた。
「リン……!」
ミオが飛びついてきた。リンを抱きしめる。大きな体が、小さなリンに覆いかぶさる。
「リン、リン、リン……」
「ど、どうしたの」
「帰ってきた。リン、帰ってきた」
「当たり前でしょ。半日って言ったじゃない」
「こわかった。一人、こわかった」
ミオが震えている。全身で。
リンは、ミオの背中に手を回した。
「……大丈夫。帰ってきたから」
「もう離れないで。お願い」
「——」
リンは何も言えなかった。
ミオの体温が伝わってくる。高い。でも、手は冷たい。震えている。
——これは、何だ。
半日離れただけで、この子はこうなる。
そして——私も、同じだった。
落ち着かなかった。集中できなかった。手が震えた。早く戻りたかった。
「……ミオ」
「うん」
「私も、落ち着かなかった」
「……本当?」
「本当」
ミオが顔を上げた。涙で濡れた目。
「リンも、ミオがいないと落ち着かない?」
「——多分」
「じゃあ、一緒」
「……一緒ね」
ミオが笑った。泣きながら。
リンは、ミオの頭を撫でた。銀髪が指の間をすり抜ける。
「もう大丈夫。一緒にいるから」
「うん。ずっと一緒がいい」
「……ええ」
リンは目を閉じた。
——これは、依存だ。
わかってる。わかってて、止められない。
この子がいないと、私は壊れる。
この子も、私がいないと壊れる。
それが——どういう意味なのか。
今は、考えないことにした。
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*第06話 了*




