表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

第05話「いつも一緒

# 第05話「いつも一緒」


---


## 1


休息日。


リンは宿の部屋で、戦術書を読んでいた。


隣で、ミオがパンを食べている。


「リン、本読んでるの? むずかしそう」


「戦術書。読んでも意味ないって思うけど」


「なんで読むの?」


「……習慣」


リンは本から目を上げなかった。


ミオがパンを差し出してきた。


「リン、パン食べる? おいしいよ」


「……いらない」


「甘いの嫌い?」


「……嫌いじゃないけど」


「じゃあ食べて」


ミオがパンを押し付けてくる。リンは諦めて、一口齧った。


甘い。蜂蜜のパン。


「……おいしい」


「でしょ!」


ミオが嬉しそうに笑った。


「リン、ミオと一緒にごはん食べると、おいしいって言う」


「そう?」


「うん。一人の時、『いらない』しか言わない」


「……そうかもしれない」


リンは本を閉じた。


ミオが、リンの隣に座っている。距離が近い。肩が触れそうなくらい。


「……近くない?」


「近い方がいい。リンの匂い、好き。本と、ちょっと埃っぽい」


「埃っぽいは褒め言葉じゃないわよ」


「ミオは好き」


ミオが笑う。


リンは何も言わなかった。


——慣れてきた。


この子の距離感に。この子の無邪気さに。


それが、いいことなのかどうかは、わからない。


---


## 2


午後。


二人で街を歩いた。


ミオがあちこち見回している。露店、看板、行き交う人々。


「リン、あれなに?」


「果物屋」


「あれは?」


「武器屋」


「あれ!」


「……服屋」


ミオが、ショーウィンドウに張り付いた。


白いワンピースが飾ってある。


「かわいい……」


「欲しいの?」


「いい。お金ない」


「……」


リンは財布を確認した。中層の報酬が、そこそこ溜まっている。


「買ってあげる」


「え?」


「今月、稼いだから。——似合うと思うし」


ミオの目が、きらきら輝いた。


「いいの!?」


「いいわよ。——着替えてみて」


「やった!」


ミオが店に飛び込んでいく。


リンは、店の外で待った。


——何をやってるんだ、私は。


服を買ってあげるなんて。まるで、姉みたいな——


「リン!」


ミオが出てきた。


白いワンピース。柔らかい布地。銀髪によく似合っている。


「似合う?」


「……似合う」


「本当?」


「嘘は言わないわ」


ミオが嬉しそうに回った。スカートが広がる。


「リン、ありがとう!」


「……どういたしまして」


リンは目を逸らした。


胸が、少し熱い。何だこれは。


——気にするな。


---


## 3


夕方。


宿に戻る。


「リン、今日も一緒に寝ていい?」


「……好きにすれば」


「やった!」


ミオが嬉しそうに跳ねる。白いワンピースのまま。


「着替えなさい。寝巻きに」


「うん!」


ミオが着替える。リンは窓の外を見ていた。


夕日が沈んでいく。街が、オレンジ色に染まっている。


「リン」


「何」


「今日、楽しかった」


「そう」


「リンと一緒だと、楽しい」


「……」


「リンは? 楽しかった?」


リンは振り返った。


ミオが、ベッドに座っている。寝巻き姿。銀髪が柔らかく揺れている。


「……悪くなかった」


「悪くなかったって、楽しかったってこと?」


「——多分」


ミオが笑った。


「リン、素直じゃない」


「うるさい」


「でも好き」


「……」


リンは、ベッドに座った。ミオの隣に。


「——私も、嫌いじゃない」


「嫌いじゃないって、好きってこと?」


「……うるさい」


ミオが笑う。


「リン、顔赤い」


「気のせいよ」


「赤い」


「——寝なさい」


「うん」


ミオがベッドに潜り込んだ。リンも横になる。


狭いベッド。二人で寝ると、体が触れ合う。


ミオの体温が伝わってくる。高い。人間離れした身体能力の副産物か。


肩が触れる。足が絡まる。息遣いが聞こえる。


「リン、あったかい」


「……あなたの方があったかいわよ」


「ミオ、体温高いから」


「知ってる」


ミオがリンの手を取った。


「今日もいっしょに寝ようね」


「……ええ」


「明日もいっしょ?」


「……多分」


「やった」


ミオの呼吸が、すぐに穏やかになった。眠っている。


リンは、目を閉じなかった。


ミオの手が、リンの手を握っている。眠っていても、離さない。


——いつから、こうなった?


一緒に食事をして。一緒に歩いて。一緒に寝て。


離れている時間の方が、少なくなっている。


それが——


「……リン」


ミオが、寝言を言った。


「どこにも行かないでね……」


リンは、その手を握り返した。


「——どこにも行かないわ」


誰にも聞こえない声で、呟いた。


---


## 4


翌朝。


リンは、ミオより先に目が覚めた。


ミオが、リンに抱きついている。腕を回して、離さないように。


——この子は、無防備すぎる。


でも、嫌じゃない。


リンは、ミオの銀髪を撫でた。指の間を、柔らかい髪がすり抜ける。


「……ん」


ミオが目を開けた。


「おはよ、リン」


「——おはよう」


「リン、ミオの頭撫でてた?」


「……気のせいよ」


「撫でてた」


「気のせい」


「撫でてた!」


ミオが笑う。寝起きの顔。無邪気な笑顔。


「リン、やさしい」


「優しくない」


「やさしい。ミオ、知ってる」


リンは何も言わなかった。


——やさしくなんかない。


私は、この子に依存している。この子がいないと、何もできない。


それは——優しさじゃない。


「リン?」


「何でもない。——起きるわよ」


「うん。今日もいっしょ?」


「……ええ。今日も一緒」


ミオが笑った。


「いつも一緒がいい」


「——そうね」


リンは、小さく息を吐いた。


いつも一緒。


それが、どういう意味を持つのか。


今は、考えないことにした。


---


*第05話 了*


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ