第05話「いつも一緒
# 第05話「いつも一緒」
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## 1
休息日。
リンは宿の部屋で、戦術書を読んでいた。
隣で、ミオがパンを食べている。
「リン、本読んでるの? むずかしそう」
「戦術書。読んでも意味ないって思うけど」
「なんで読むの?」
「……習慣」
リンは本から目を上げなかった。
ミオがパンを差し出してきた。
「リン、パン食べる? おいしいよ」
「……いらない」
「甘いの嫌い?」
「……嫌いじゃないけど」
「じゃあ食べて」
ミオがパンを押し付けてくる。リンは諦めて、一口齧った。
甘い。蜂蜜のパン。
「……おいしい」
「でしょ!」
ミオが嬉しそうに笑った。
「リン、ミオと一緒にごはん食べると、おいしいって言う」
「そう?」
「うん。一人の時、『いらない』しか言わない」
「……そうかもしれない」
リンは本を閉じた。
ミオが、リンの隣に座っている。距離が近い。肩が触れそうなくらい。
「……近くない?」
「近い方がいい。リンの匂い、好き。本と、ちょっと埃っぽい」
「埃っぽいは褒め言葉じゃないわよ」
「ミオは好き」
ミオが笑う。
リンは何も言わなかった。
——慣れてきた。
この子の距離感に。この子の無邪気さに。
それが、いいことなのかどうかは、わからない。
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## 2
午後。
二人で街を歩いた。
ミオがあちこち見回している。露店、看板、行き交う人々。
「リン、あれなに?」
「果物屋」
「あれは?」
「武器屋」
「あれ!」
「……服屋」
ミオが、ショーウィンドウに張り付いた。
白いワンピースが飾ってある。
「かわいい……」
「欲しいの?」
「いい。お金ない」
「……」
リンは財布を確認した。中層の報酬が、そこそこ溜まっている。
「買ってあげる」
「え?」
「今月、稼いだから。——似合うと思うし」
ミオの目が、きらきら輝いた。
「いいの!?」
「いいわよ。——着替えてみて」
「やった!」
ミオが店に飛び込んでいく。
リンは、店の外で待った。
——何をやってるんだ、私は。
服を買ってあげるなんて。まるで、姉みたいな——
「リン!」
ミオが出てきた。
白いワンピース。柔らかい布地。銀髪によく似合っている。
「似合う?」
「……似合う」
「本当?」
「嘘は言わないわ」
ミオが嬉しそうに回った。スカートが広がる。
「リン、ありがとう!」
「……どういたしまして」
リンは目を逸らした。
胸が、少し熱い。何だこれは。
——気にするな。
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## 3
夕方。
宿に戻る。
「リン、今日も一緒に寝ていい?」
「……好きにすれば」
「やった!」
ミオが嬉しそうに跳ねる。白いワンピースのまま。
「着替えなさい。寝巻きに」
「うん!」
ミオが着替える。リンは窓の外を見ていた。
夕日が沈んでいく。街が、オレンジ色に染まっている。
「リン」
「何」
「今日、楽しかった」
「そう」
「リンと一緒だと、楽しい」
「……」
「リンは? 楽しかった?」
リンは振り返った。
ミオが、ベッドに座っている。寝巻き姿。銀髪が柔らかく揺れている。
「……悪くなかった」
「悪くなかったって、楽しかったってこと?」
「——多分」
ミオが笑った。
「リン、素直じゃない」
「うるさい」
「でも好き」
「……」
リンは、ベッドに座った。ミオの隣に。
「——私も、嫌いじゃない」
「嫌いじゃないって、好きってこと?」
「……うるさい」
ミオが笑う。
「リン、顔赤い」
「気のせいよ」
「赤い」
「——寝なさい」
「うん」
ミオがベッドに潜り込んだ。リンも横になる。
狭いベッド。二人で寝ると、体が触れ合う。
ミオの体温が伝わってくる。高い。人間離れした身体能力の副産物か。
肩が触れる。足が絡まる。息遣いが聞こえる。
「リン、あったかい」
「……あなたの方があったかいわよ」
「ミオ、体温高いから」
「知ってる」
ミオがリンの手を取った。
「今日もいっしょに寝ようね」
「……ええ」
「明日もいっしょ?」
「……多分」
「やった」
ミオの呼吸が、すぐに穏やかになった。眠っている。
リンは、目を閉じなかった。
ミオの手が、リンの手を握っている。眠っていても、離さない。
——いつから、こうなった?
一緒に食事をして。一緒に歩いて。一緒に寝て。
離れている時間の方が、少なくなっている。
それが——
「……リン」
ミオが、寝言を言った。
「どこにも行かないでね……」
リンは、その手を握り返した。
「——どこにも行かないわ」
誰にも聞こえない声で、呟いた。
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## 4
翌朝。
リンは、ミオより先に目が覚めた。
ミオが、リンに抱きついている。腕を回して、離さないように。
——この子は、無防備すぎる。
でも、嫌じゃない。
リンは、ミオの銀髪を撫でた。指の間を、柔らかい髪がすり抜ける。
「……ん」
ミオが目を開けた。
「おはよ、リン」
「——おはよう」
「リン、ミオの頭撫でてた?」
「……気のせいよ」
「撫でてた」
「気のせい」
「撫でてた!」
ミオが笑う。寝起きの顔。無邪気な笑顔。
「リン、やさしい」
「優しくない」
「やさしい。ミオ、知ってる」
リンは何も言わなかった。
——やさしくなんかない。
私は、この子に依存している。この子がいないと、何もできない。
それは——優しさじゃない。
「リン?」
「何でもない。——起きるわよ」
「うん。今日もいっしょ?」
「……ええ。今日も一緒」
ミオが笑った。
「いつも一緒がいい」
「——そうね」
リンは、小さく息を吐いた。
いつも一緒。
それが、どういう意味を持つのか。
今は、考えないことにした。
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*第05話 了*




