第10話「これでいい」
# 第10話「これでいい」
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## 1
ギルドマスターの執務室。
ヴェルナーが、報告書を読んでいた。
「中層10階で上位種2体を撃破。大したもんだ」
リンは無表情で立っていた。ミオは横で、リンの裾を掴んでいる。
「ミオのランクをCに上げる。——お前も、正式にBランク復帰だ」
「……ありがとうございます」
「3ヶ月で浅層からCランクまで。普通じゃない」
ヴェルナーは、二人を見た。
「——お前ら、このまま続けるつもりか」
「はい」
「周りが何を言っても?」
「はい」
ヴェルナーは、書類を置いた。
「俺は止めん。結果を出してる限り、何も言わん」
「——」
「だが、限度はある。お前たちは超えかけてる」
リンの目が、細くなった。
「超えたら、どうなりますか」
「知らん。誰も知らん。——超えた奴がいないからな」
ヴェルナーは立ち上がった。
「やめるか、続けるか。決めるのはお前たちだ」
「——決めています」
「そうか」
ヴェルナーは、二人の顔を見た。
「……まあ、予想以上だな。この組み合わせは」
そう言って、背を向けた。
「下がっていい」
リンは頷いて、執務室を出た。ミオがついてくる。
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## 2
屋上。
ギルドの屋上は、誰もいなかった。風が吹いている。夕日が沈みかけている。
リンは手すりにもたれて、街を見下ろしていた。
ミオが横に立つ。
「リン、Bランクだって」
「そうね」
「すごい」
「すごくないわ。——あなたがいなかったら、無理だった」
「ミオも、リンがいなかったら無理だった」
「——そうね」
風が吹く。リンの黒髪が、ミオの銀髪が、揺れる。
「ミオ」
「うん」
「私たち、異常なのかな」
「いじょう?」
「普通じゃない。みんなが言ってる。共依存だって。やばいって。離れた方がいいって」
「……」
「私も、わかってる。これは普通じゃない。健全じゃない。いつか壊れるかもしれない」
リンはミオを見た。
「それでも——一緒にいたい?」
ミオは首をかしげた。
「リンは、一緒にいたくない?」
「いたいわよ」
「じゃあ、一緒にいればいい」
「——」
「ミオ、むずかしいことわかんない。でも、リンと一緒にいると、あったかい。安心する。生きてるって思う」
ミオはリンの手を取った。
「それって、悪いこと?」
「……わからない」
「じゃあ、わかんなくていい」
ミオが笑った。
「ミオ、リンがいればいい。リンも、ミオがいればいい。それでいいじゃん」
「——」
リンは、何も言えなかった。
単純すぎる。馬鹿みたいに単純。
でも——
それでいいのかもしれない。
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## 3
夜。
二人は、いつものように同じベッドにいた。
「リン」
「何」
「ミオ、リンに会えてよかった」
「……私も」
「孤児院出てから、ずっと何もわかんなかった。何すればいいかわかんなかった。生きてる意味もわかんなかった」
「……」
「でも、リンに会って、わかった。リンのために生きればいい。リンを守ればいい。——それだけで、生きてる意味がある」
リンは天井を見つめた。
「私も……同じかもしれない」
「同じ?」
「3年間、何のために生きてるかわからなかった。過去に縛られて、何も決められなくて。——でも、あなたに会って、変わった」
「変わった?」
「あなたを守りたいって思った。あなたのためなら、また動けるかもしれないって思った。——それだけで、生きてる意味がある気がした」
ミオがリンに抱きついてきた。
「リン、おんなじだね」
「……そうね」
「ミオ、嬉しい」
「——私も」
リンはミオの背中に手を回した。
二人で一人。
異常かもしれない。危険かもしれない。いつか壊れるかもしれない。
でも——
これでいい。
今は、これでいい。
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## 4
翌朝。
リンは、ミオより先に目が覚めた。
ミオが、リンに抱きついたまま眠っている。銀髪が顔にかかっている。穏やかな寝息。
リンは、その髪をそっと払った。
「……」
この子がいないと、私は壊れる。
この子も、私がいないと壊れる。
それは——異常。
でも——
「これでいい」
リンは、小さく呟いた。
ミオが目を覚ました。
「——ん……リン?」
「おはよう」
「おはよ……リン、何か言った?」
「別に」
「嘘。何か言ってた」
「——これでいい、って」
ミオが笑った。
「うん。これでいい」
「——そうね」
リンも、笑った。
窓から、朝日が差し込んでいた。
二人の影が、一つに重なっていた。
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*第10話 了*
*第1部 完*




