足無しの証人
「犯人はこの男です! 間違いありません!」
写真を指差してそんな証言をする女性を前に警官は困り果てていた。たしかにその写真に写る男性はかねてより警察がある殺人事件の犯人だと目星を付けていた人物ではあったのだが、証拠も証人も集まらずに困り果てていたのだ。
本来はこの女性の証言は非常にありがたいものである。だが……。
「しかし……あなたの証言を取り合ってくれるかどうか……」
「なぜですか? どのように攫ってどのように殺したのか、完全に証言できます! 嘘なんてついていません!」
恨みに満ちた鬼のような形相でかっと目を見開きそう言う女性の勢いに警官は思わずのけぞる。
だがそれでもあくまでも落ち着いた態度の警官は、その女性を宥めるように言った。
「あなたが嘘を吐くはずがないと私自身は信じていますよ。しかしですね……」
警官はちらりとその女性の足元に目をやった。たしかにそこに立って喋っているはずの女性の足は膝の辺りから消えて宙に浮いている。
捜査本部で幽霊の相手をしている警官は殺人事件の被害者自身がその犯人を告発するなんていうことが受け入れられるのかを悩み続けていた。