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海底の道

作者: HORA

2025年にベンチャー企業が作った宇宙服。サイズはこれまでの従来の宇宙服と同型であったが内部には革新が施され体の動きを阻害しない点が優秀であった。それなりの質量こそあったのだが、重力の無い宇宙空間や、重力の軽い星での活動では問題無い。ただし大きな欠点を抱えていた。素材に用いられている金属は分子の結合が弱く熱に弱かったのだ。全身に薄く圧縮空気を配し呼吸のための酸素を断熱にするなどの工夫を施してみたものの結局は350℃程までしか耐えることができず宇宙船の船外活動や、大気の薄い星での昼においてはリスクが高すぎた。


宇宙飛行士は宇宙での船外活動の訓練として、水中を宇宙空間の無重力に見立てての各種疑似任務を行なう。水中での訓練においてはその宇宙服が用いられるようになった。熱に弱いという欠点も屋内プールでは欠点とはならず、従来の宇宙服と同型ということで、訓練序盤の宇宙飛行士ビギナーが慣れるためには最適と判断されたからだ。

宇宙から帰還した女性宇宙飛行士がインタビューを受けている際に、水中での訓練に用いていたその宇宙服の紹介をしたことから、開発ベンチャーと旅行会社が手を取り合って新たな販路を開拓する。海遊服(シーフロ)(宇宙服から海中服にコンバートされた服)として売り出したことで海底レジャーが後に大流行することになった。


その宇宙服は熱にこそ弱いが、海底1000m程の圧力であっても余裕で耐えられる仕様になっている。脚部のおもりにより海底であっても、陸上とほぼほぼ変わらない感覚で歩行することができる。海底の大半は砂・泥になっており足場としては悪いが履いているブーツは専用に開発されたもの。足裏よりも接地面をやや大きくしてあり、その接地している全面が水を下から吸い上げ、上方に流す事で、またはその逆の挙動をすることで足場が砂・泥であっても転ぶ事無くしっかりとした歩行が可能となっていた。


海中における法の整備が成される前の数年間。ベンチャー企業の職員や関係者が海底の道の整備を急ピッチで行う一方で、YOUTUBERや、冒険家や勇者…つまり無謀な人物が未知の海道を開拓する。ただし盗掘行為も横行してしまう。海遊服(シーフロ)にソナーや金属探知を含めた各種機能を搭載していたことから、近海における貴重品を抱き沈んだ沈没船の中身などが多く略奪されてしまう。悪用してしまえば一攫千金を狙えるのだ。その様子が動画にアップされたことも、皮肉にもこの海遊服(シーフロ)が多くの人に知られるきっかけともなった。


ひとつなぎの海遊服(シーフロ)は音声操作によって関節部を除き体積を変えることで密度の変更ができる。それは水中での浮き沈みとその程度を容易に調整できることを意味する。スキューバダイビングのように水中を泳いだり、海底を歩いたり、速い潮流であってもブーツの水流操作と全身の密度を自動で調節し流されなくするオートAI機能を搭載。また音声操作により視界前面に備えつけられた半透明のPCモニターを操作し望遠や撮影、AR機能により泳いでいる魚の名前・サイズ・特徴がモニターに浮かび上がる。魚の種類毎にサイズのランキングが存在し、大きなサイズの固体に遭遇すると自動的に発見者としてランキング上位に自身の名前が載る。世界1位の固有の魚は世界中のアイドルとして愛称が名付けられ、その時点の生息海域が動画やTVなどで確認されるとその海に人が押し寄せることになった。


安全面に関してはどこまでも懐疑的な層もいたのだが、飛行機と同様で安全性の高さと評価・口コミの良さが長年積み上がっていく中で特定の時期から爆発的に広がる事になった。


海底にアジャストされた類似の商品や関連グッズもその企業から売り出される。また別の企業からも廉価版が多数販売され一般人にも手が届く価格となる。世界中の海底にレジャー施設が作られ水中の遊びやスポーツ、競技、産業が短期間で次々と打ち出される。週末には多くの家族連れが訪れている。天然の水族館であると同時に、海中生物に愛着を持つ団体が増え、海洋生物保護活動が盛んになった。結果、その海底のレジャー施設をはじめ世界中で海底の人気スポットは増え続けた。魚としてもレジャー施設で人から餌がもらえるのでWin-Winの関係であると言えよう。海中のごみ問題が一気に解決に向かう流れとなったのも大きい。


海底の旅行が流行してから四半世紀が経つ頃には海遊服(シーフロ)は開発したベンチャー企業を誰もが知る有名企業にした。さらに法整備が追い付いたことで一大レジャーとしての地位を確立する。海底の遊歩道はアップダウンこそあるものの等間隔に杭とロープ、海灯が設置され、安全な海道が数十万kmも網の目に作られた。海中を走る海車(シーカー)もまだ高額ではあるものの順調に売り上げている。21世紀は海中進出の時代なのだと誰もが疑わなかった。


しかし2075年の7月24日。

海遊服(シーフロ)が開発されてちょうど50年目。

たった一日にして

海中で2億人もの人間が亡くなる。


海の異常はその年の春前から起こっていた。

世界中の海が凍り始める。

氷河期が来たとかそういうことではない。

気温はむしろ平年よりも高く春であっても30℃程の気温であるのだが、

何故だか海が凍ってしまうという原因不明の異常事態である。


7月に入る頃には氷の厚さは50cm~2m程にまで厚くなった。

ただし海底の施設やレジャーには特に影響はない。

むしろ海上における船の航行が阻害されたことと、

7月上旬にして各地で50℃に迫る異常気温が観測されていたことから、

海中・海底での物流やレジャーがより盛んになっていた。


一部の専門家は警鐘を鳴らしていた。

海面の氷が50℃を超えても溶けないという異常性。

2m程の厚さであると相当重みがあるということ。

しかし誰もそのような見解に耳を傾けずその日を迎えてしまう。


世界の海上に張った氷が一斉に海底に落下した。

1㎢あたりの氷の重さはおおよそ150万トン。

およそ海面3億5千万㎢から530京トンの氷。

それが重力により相当の速度で施設や人間の全てを押し潰した。


なぜ水よりも氷の比重が急に大きくなったのか。

なぜその特殊な氷は浮力が作用しなくなったのか。

なぜこのような大惨事となる予期ができなかったのか。


仮説の域を出ないのだが大惨事当日に起こった不可思議な出来事を繋ぎ合わせる。

タコとイカが海中から陸上へ移動していた。

8本脚と10本脚の地球外生命体然とした軟体生物の2種が、

50年を掛けて海中が安全であると徹底的に思い込ませたタイミングを見計らい、

人類にアタックを仕掛けてきたとの都市伝説が蔓延(はびこ)った。


しかし真実の究明などはもうどうでも良いだろう。

もう海の中のインフラや施設は軒並み破壊され海中に行く人はいない。

前日までの過熱ぶりは一転して冷え込み海の墓場と化してしまった。

遺体の回収どころか、生存者の確認作業でさえ絶望的。

何も(おこ)なえていないのだ。

海洋資源と言える魚をはじめとした海洋生物も絶滅したと言ってよい。

地上における水族館はもう15年も前に全てが閉められていた。


そして、、、

すでに海面にはまた薄く氷が張り始めている。


何より人類は恐怖したことは、

明らかに人類を害す意志があったこと。

そしてそれはきっと今後も

何か(・・)から向けられるということだろう。

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― 新着の感想 ―
オカルトじみた「攻撃」。物理的法則をまるっと無視した、迂遠過ぎる謎の手段。 人類を滅ぼすならば3~4年掛けて大陸全土を50度熱波に曝し、彼らが海中に逃げ込んだところを氷で蓋をすれば一網打尽にできるはず…
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