口うるさい料理評論家ⅤS復讐を誓う料理人
「ここが貴様の新しい店か」
とあるイタリアンレストランの前で着物姿の男が店を見上げて横に立つ男に声をかける。
「はい、以前の店はつぶれましたので新しくチャレンジしようと」
「ふん、三流の店だからだ。今度もたいして変わらんだろうがな」
男はそう言いながら店に入っていく。
その後ろ姿を見ながらウエーター服の男は心の中で復讐を誓うのだった。
「では、料理を準備してきます」
「ああ、今回もしっかりレビューを書かせてもらうぞ?」
ニヤリと笑って、和服の男はウエーターを見送る。
少ししてウエーターが戻ってきた。
「こちら、食前酒の日本酒です。それと前菜の舌平目のカルパッチョです」
「ふむ――」
おちょこで日本酒を飲み、カルパッチョを食べ始める。
緊張的な空気が流れる。
「ふむ、これは悪くない」
「良かったです。次の料理を運んできますね」
そう言って、運ばれてきたのはウニのコンソメジュレ包みだ。
「悪くはないが、面白みにはかけているな」
口を拭きながら、バカにしたように言う。
「すみません。先生には王道で認めてもらいたく……。メイン、名物を持って来ていいですか?」
「かまわん」
ウエーターは厨房に戻りながら笑う。
「こちら、ミートソーススパゲッティです」
「妙に脂が多いな……」
フォークで麺をすくい、そう言葉にする。
「こだわりです」
その言葉に目を閉じて、一口分麵を巻き口に含む。
「こ、これは……。トマトの甘味、豚と牛肉。牛肉は神戸牛だな! トマトは熊本辺りか……。豚は油分が少し気になるがまぁ、良いだろう」
「美味しいですか?」
「ああ、これならレビューも少しは良く書けそうだ」
「しかし、どうして産地まで分かるのですか? 店の隠し味まで」
「私は魯山人の良まれ変りと言われる食通だぞ? 分かって当然じゃないか! 貴様がどれだけ隠したところで、全ての味は我が舌が分析してくれる」
男は勝ち誇ったように笑う。
その姿にウエーターはお腹を押さえて、笑いだす。
「貴様、何がおかしい?」
「いや、バカ舌が露見したと思ってな」
「どういう意味だ?」
「今日の料理工程から、今の発言まですべて配信させてもらってます」
「それはかまわんが、バカ舌と言ったことは取り消せ! 私が一言いえばこんな店、すぐに潰れるぞ?」
「知ってますよ。前の店もそうやって潰れたんだから。後、今食べたそれレトルトだから」
「何!」
「しかも安いやつだ! 神戸牛? 国産と海外産のミックスだ。それに鳥ミンチすら入ってんぞ! トマトはアメリカ産だしな!」
ウエーターは勝ち誇った顔でそう言い放つ。
「ぐ、貴様何が目的だ!」
「俺の親父の店を潰したバツだ! お前はもう二度と評論家としてはやっていけない」
「く、ただではおかんぞ」
着物を翻し、男は急ぎ足で逃げていく。
「それでは視聴者の皆さん、レビューや口コミだけでなく自分の舌に合うかでレストランをお選びください」
ウエーターは隠しカメラにそう言って頭を下げた。
その後この動画で知名度を上げた店は繁盛し、評論家の男は姿を消したのだった。
(完)