お正月だヨ!月詠神社
ギャグ
たしかエイプリルフール企画で書いたもの
昔々あるところに一人の少女がいました。
少女の家は代々、怨霊退治をしている外法師の家系で、少女も立派な術者になるべく毎日厳しい修行をしていました。
名は彩華。赤い服に黒髪が映える少女は、まだ心もとない部分もありましたが、なかなか強い霊力の持ち主と噂されていました。
やがて成長した彼女は、一人前の外法師として最初の仕事を任されることになりました。
「彩華や。隣町の森でたいそう乱暴な荒魂が暴れているそうだ。ちょっと様子を見てきておくれ」
そう父親に言われた彩華は、渡された荷物の多さに目を丸くしました。
「父さん? なにこれ?」
術をかければ何てことないですが、少女ひとりでは持ちきれないほどの量です。ちらりと中身を確認すると、おにぎりやタコさんウインナー、出汁巻き卵など、それはそれは美味しそうなお弁当が詰められていました。
術者が調伏退治に出かけるのですから、普通は符や霊力を込めた数珠を持っていくものです。なのに、お弁当しかありません。
「元々は食べることが大好きな強い神様らしいのでな。うまく手懐けることができたなら、我が一族の守護神にでもなっていただければなぁ、と。無理なら、それ投げつけて逃げてこい」
なんとまぁいいかげんな、と呆れた彩華でしたが、一族のためなら仕方ないわと呟きました。
「わかった。そいつをとっ捕まえればいいのね? それじゃあ、いってきまーす」
大荷物を抱えて、彩華はえっちらおっちら歩き始めます。時々、転びそうになりますが、何とか耐えて目的地へと辿り着きました。
隣町の森には荒々しい空気が漂っています。
その発信源を探して森の中へ入っていくと、大きな木の根元に銀色の髪を風になびかせている男が座っていました。
男は立てた片膝に肘を乗せて頬杖をついています。なかなか秀麗な顔つきでしたが、眉を不快に歪めていました。
きっとあのひとね、と彩華は思いました。
不穏な空気を纏わせていますが、その中心から感じる気はとても清浄なものです。
彩華は小走りで男の元へ行くと荷物を下に置き、にこっと笑って言いました。
「神様はどうしてそんなに怒ってるの?」
「お前には関係ない。さっさとどこかへ行け」
つりあがった眉をさらにつりあげて神が答えました。
「神様はどうしてそんなに怖い顔してるの?」
「……お前、喧嘩売ってるのか?」
神の眉間に深い深い皺がよりましたが、彩華はそれに気がつきません。
その時です。彩華の耳にぐぉぉぉぉとも、ぐぅぅぅぅとも聞こえる、とても大きな音が届きました。
「今の音、なに?」
「………………」
きょろきょろと辺りを見回す彩華の目に、神のバツの悪そうな顔が映りました。
耳を澄ますと、どうやら神の腹から聞こえてくるようです。
「もしかして、神様? お腹減ってるの?」
答えるように腹の音が鳴りました。
「神様はどうしてお腹がすいてるの?」
「……」
「……」
「……もてなされた料理がひどくて頭にきて暴れたからだ」
無言でじっと見つめてくる彩華に根負けしたのか、神はぼそっと呟きました。
「じゃあ神様。これどうぞ」
彩華は持ってきた包みを開けて見せました。
胡散臭そうに彩華とお弁当を交互に見ていた神でしたが、やがてそろそろと手を伸ばし、出汁巻き卵をひとつ口に運びました。
もぐもぐもぐ、と数回咀嚼し、
「……うまい」
どうやら気に入ったようです。
次々に口へと運び、お弁当はあっという間に半分なくなりました。
「ね、神様。温かいお鍋をご用意できますけど、わたしの家へきませんか?」
「むー」
もう一押しだ、と思った彩華はさらに続けました。
「おいしいお酒も沢山ありますよー。あ、あと水菓子も」
しばらく考えていた神は、誘いに心惹かれたのか首肯しました。
彩華は思わず心の中で勝利の雄叫びをあげました。
餌付け大成功。これで我が一族は安泰だ――。
「だぁぁぁぁ!」
額に張りついた髪を掻きあげて、彩華は荒い息を整えた。がっくりと肩を落として唸る。
まったく、なんという意味の分からない夢を見たのか……。
外はまだ暗い。枕元の目覚まし時計を確認すると、三時半を指していた。
遠くから人のさざめく声が聞こえてくる。夜も更けて人は少なくなっただろうが、大晦日から年始にかけては真夜中でも参拝者が多い。
参拝者は臨時のアルバイトに任せて、彩華たち神社の関係者は短い休憩を取っていた。休めるうちに休んでおかないと三が日を乗り切れない。
「なのに、なんでこうなのよ」
まだ一時間程度しか眠っていない。それにあの、変な夢。術者の見る夢には意味があるというが嘘だ。ぜっっったい嘘だ。しかもあれが初夢なんてお断りだ。誰が何と言おうとなかったことにしてやる!
眠い目で部屋を見回すが、彼は気を使ったのかどこにもいない。彩華は欠伸をひとつかみしめると、ふたたび眠りについた。
今度こそ、良い夢を――。
赤ずきんパロ
勢いで書いた反省はしない