お月見
ボールに白玉粉と上新粉を入れて熱湯を少しずつ混ぜる。手でひとまとめにしたら大まかに分けて蒸す。
蒸しあがった生地をすりこ木でついてから、十五等分程度に分ける。
最後に餡を包み込むようにだんごを丸める――。
場所は高村家の台所。
せっせと月見だんごを製作中である。
「ものすごーく御利益ありそうよね……」
だんごを丸めながら彩華はぽつりと呟いた。
あん入り月見だんごを率先して作っているのは、月詠神社の祭神である月詠尊こと、詠であった。
月詠神社のお月見祭事がすべて終わりやっと一息つけた。空を見上げれば、月は少し傾いて見えづらくなってしまったけれど仕方ない。
秋を感じる夜風に吹かれながら月見だんごにかじりついた。
「…………」
固まっているわたしの横で、にやりと笑う気配がした。
口に広がる唐辛子の辛さを冷めた緑茶で中和してから、隣に座る詠を睨みつける。いたずらっ子のような表情の詠と目があった。
「一体全体なにしやがるんですか月詠尊は」
「大当たりー」
ぱちぱちと手を叩く姿が非常にむかつく。
「どういうつもりですかー? 月詠尊?」
再度睨みつけると、詠は笑いながら弁解をはじめた。
「んー? ロシアンルーレットってやつ? しっかし、運がいいのか悪いのか」
のほほんと答える姿が非常にむかつく。
そうかこのためか。このために率先して作ってたんだな。ところでどこで〝ロシアンルーレット〟なんて言葉を覚えてきたんだろうか。
「そんなに怒るな」
と詠は笑いながら、どうしようか考えていたわたしの食べかけの唐辛子だんごを取り上げて自分の口へ放り込んだ。眉間に皺をよせて苦笑いしている。
食べ物を無駄にしないのは良いことだ。
だがしかし。
「怒るわよ」
せっかくの中秋の名月になんて子供っぽい悪戯をしてくれたのか。口直しに別のおだんごを取ろうとして……動きを止めた。
他にはないよね?
無言で詠の顔を見ると、考えが通じたのか、彼は笑って頷いた。
「他は普通のだんご。それよりこれ、詫びの品」
そう言って取り出したのは、雪うさぎならぬ、だんごうさぎだ。ちゃんと胡麻で目を書いて、楊枝で耳の模様もつけてある。
「マメというかなんというか」
怒りを削がれて脱力した。普通にもらえたのならとっても嬉しいのに。
「なんでこう、ひと手間かけるのよ」
「面白いから」
まだ楽しげにしている彼の手を軽くつねってから空を見上げた。
本格的な仕返しは後回しにして、今はゆっくり月を眺めよう。