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私の誕生日当日に、彼氏の浮気が発覚した。

作者: 宮野ひの

 私の誕生日当日に、彼氏の浮気が発覚した。インスタに、「彼氏の元カノ」と名乗る人物からDMが送られてきたのが、すべての始まりだった。この子をA子と呼ぶことにする。


 A子の話を要約するとこうだ。彼氏(健斗(けんと)と言う)とA子は別れてからも、月に3〜4回ズルズル会う関係だったらしい。しかし、A子は健斗がフリーだと思い込んでいたそうで、浮気をしている自覚はなかったようだ。


 しかし、健斗と会話をしていても、辻褄が合わない部分が出てきたりして、他に女がいるのではないかと勘付いたそうだ。とりあえずインスタのアカウントを調べて、怪しい女とつながっていないか、1,000人以上いるフォロー欄から一人ひとりチェックしていったそうだ。


 そしたら、私のアカウントに辿り着いたということだ。健斗とのツーショットを堂々とアップしていたから、遅かれ早かれ、私の存在には気付いたと思う。


 浮気されていたのが自分だと知ったA子はムカついて、私にDMをしてきたという訳だ。健斗に未練はないけど、馬鹿にされたのが癪に障ったそうだ。すべてを終わらせるつもりで、今カノの私にDMしてきたというから、隕石のような人だと思った。


 A子は証拠のつもりで、健斗とホテルに行った時に撮ったであろう寝顔の写真を送ってきた。口を開けて無邪気に寝ていた健斗は、私が誕生日の時にあげたネックレスをしていたから最近の写真だとわかった。


 わざわざ私の誕生日に、彼氏の元カノから浮気報告をされるなんて(みじ)めだ。


 この後、健斗とデートする予定だったのに。こんな仕打ちはあんまりだ。


 本当なら、健斗と顔を合わせて話をする必要があるだろう。


 しかし、今日は私の誕生日だ。悲しい出来事とは極力、向き合いたくない。


 A子とのDMの後、私は健斗にLINEをした。


「あなたの元カノからDMが来ました。浮気してたんだね。今日、会うことはできません。」とメッセージを送ってから、LINEの通知をミュートにした。


 家でじっとしていたら、おかしくなりそうなので、外出することにした。玄関のドアを開けると肌寒く、上着が必要だった。薄着の私は、部屋からコートを取ってきて、できるだけあたたかい格好をしてから街に繰り出した。


 友達とも会う元気はなかった。家族には合わせる顔がない。一人でいたいのに、孤独にはなりたくない。矛盾した気持ちを抱えながら、直感で行きたい方に向かって、ひたすら歩いた。


 テンポよく歩いていると、彼氏の浮気も嘘のように思えた。しかし、それは現実逃避だと気付き、嫌な想像を振り払うように歩くスピードを上げた。


 目的地もなく、ただひたすら歩いていると、コンビニを見つけた。喉が渇いたので、飲み物を買おうと店の中に入った。


 店内はあたたかく、思わずホッとした。ペットボトルのお茶を手に取り、店内をうろうろしていると、スイーツコーナーにたどり着く。プリンやシュークリームと並んで、いちごが乗ったショートケーキが目に入った。胸がちくりと痛む。


 本当なら今ごろ私の家で、健斗と出前でも取って、ケーキを食べていたかもしれない。まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。健斗がディナーの予約を入れていなかったのは、不幸中の幸いかも。


 いや待てよ。彼女が誕生日なのに、手のかかる準備は何もしてくれない彼氏ってどうなんだろう。浮気する男性は、マメな性格をしている人が多いって話は嘘なのだろうか。


 誕生日プレゼントも、用意してくれていないかも。私は先々週の健斗の誕生日の時は、奮発してハイブランドのネックレスをあげたというのに。見返りを求めているつもりはないけど、シンプルにムカついた。


 というか、浮気相手と会うのに、のほほんと彼女から貰ったネックレスをつけていくなよ。


 腹が立った。もう全部どうでも良いと思った。


 私はお茶とショートケーキを手に持って、コンビニのレジに向かった。その後、近くの公園に行き、ベンチに座った。


 もう外は薄暗かったからか、園内には誰もいなかった。しかし、街路灯が等間隔にあったので明るく、心細い気持ちになることはなかった。


 勢いよくお茶を飲む。続いて袋からケーキを取り出し、揃えた膝の上に置いた。


 はぁ、とため息をついた時、急に良い(ひらめ)きが降りてきた。


 数秒、悩んだものの、思い立ったが吉日。誕生日という非日常感も相まって、実行に移してみることにした。


 早速、ポケットからスマホを取り出した。





 私はTikTokに「誕生日に彼氏に浮気されていたことを知った女の末路」というショート動画を投稿した。公園でケーキを食べている様子を、(うつ)した動画だ。


 何も面白いことは思いつかず、「一人で公園でケーキを食べてます」「寒い」「(つら)い」「甘い」と実況をした。そこだけ見れば何の変哲もない、普通の日常を切り取った動画だったかもしれない。私も最初、全世界に向けて発信することは考えていなかった。


 しかし奇跡的に、街路灯の電気が切れかかって点灯を繰り返したり、近くで救急車の音が鳴ったりした。しまいには、季節外れの打ち上げ花火も映り込む始末で、カオスな状況となった。これは誰かに共有したいと思い、軽い気持ちでTikTokに動画をアップロードした。そしたらバズって1万いいねがついた。


「悲しい動画なのに、情報量が多くて草」「元気出して」というコメントがついたり、SNSでフォロワーが10万人以上いるような、インフルエンサーにもシェアされたりして嬉しかった。


 驚いたのはインスタのDMに「この人が浮気したんですか?」と健斗の卒業アルバムを載せて送ってきた人がいたことだ。あの数秒の動画で特定されるなんて。怖すぎる。


 中学生の健斗は毛量が多かった。屈託のない顔で笑っている。


 短期間で元カノと捨てアカウントから、"元カレ"の写真が送られてくるなんて思っても見なかった。


 私はスマホのカメラを起動した。また良い動画が撮れたら、2作目を投稿してみよう。


 悲しみは、まだ癒えないけど、何かに夢中になっていたら、いつのまにか気にならなくなってくるだろう。どうせなら、みんなが楽しめることを提供していきたい。前へ向こう。

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