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波乱の歓迎パーティー③

 


 久しぶりの陽の光に目が眩んでよく前が見えない、何度か瞬きをしてようやく輪郭がはっきりしてきた。


「…?」


 フェルディナンドは口を開けたまま私の顔を凝視している。その顔は驚愕しているようにも見えた。所々から貴族達から上がる声に庭園中がざわめいていた。でもいつもの嘲るような視線とは別物だ、何だろう。知らない視線に思わず困惑してしまう。てっきり醜いと罵られるのかと思ったのに。もしかして、


「私…言葉を失う程酷い顔をしてるの…?」


「とてもかわいいよ」


 呟いた言葉、独り言に帰ってきた返事。

 殿下は私を見ながらにこにこ微笑んでいる、意味のわからない答えにますますアイリスは首を傾げた。

 そんな二人の会話を割くように、フェルディナンドが大きな声を上げた。


「そ、その白銀の髪色に薄紫色の…夜明けのような瞳は…まさかッ…!」


 動揺を隠せないのかわなわなと震えている。髪色と瞳?確かにアイリスの容姿は母様と同じだ、でも会ったことないと言っていたのに…この人は母様の容姿を知っているの?


「帝国ヴォルフラムの王家、女性のみが受け継がれる血統の証…!」

「そう、アウローラ妃は帝国ヴォルフラム王族の血筋だ」

「嘘よ!」


 ソフィーリアが思わず声を上げた、信じられないと言わんばかりにフェルディナンドは口を開く。


「し、しかしレインハルト殿下!帝国の王姉殿下は…病弱で国から一度も出た事がないはずでは…!?」

「表ではね、一国の王女が民に紛れて各国巡りしているとは言えないだろう?」


 異例の速さで結ばれた穀物協定、前陛下と帝国の密約、父の遺言が書かれた書状。点と点が繋がっていくにつれてフェルディナンドの顔色が真っ青になっていく。


「ああ、ちなみにアウローラ妃は私の実の姉だよ」


 どよ、フェルディナンドどころか貴族達でさえ動揺を隠せない。レインハルト殿下の兄、つまり現帝国ヴォルフラム皇帝の血の繋がった姉弟だと言うことだ。

 もう驚きの連続でアイリスは頭が追いついていない。


「つまり、アウローラ妃の実の娘であるアイリスも帝国ヴォルフラムの王家の血を引いている……おかしいと思わないか?」


 レインハルトの冷たい声にびくりと周囲の貴族達が震えた。

 言葉にしなくても分かる、もうヴェールが露見した時点であのアウローラ妃の娘がアイリスである事はこの場の全員が分かっている。


「穏やかに離宮で過ごしているはずが、何故こんな姿でいる?」


 こんな姿。それもそうだろう。

 ヴェールを被り、薄汚れたメイド服に身を包んでいる。彼女を城で知らない者なんていない、醜いと散々蔑んでいたその事実が重くのしかかる。貴族達はまるで刑を待つ罪人のように震え上がっている。


「れ、レインハルト王弟殿下…!」


 フェルディナンドも知っていて放置した、その顔色は真っ青を通り越して真っ白になっていた。もはや知らなかったでは許されない。


「フェルディナンド陛下、わざわざ我々の為に素敵なパーティーをどうもありがとう。明日以降の視察に関しては後ほどお伝えしよう」


 冷え切った薄氷の瞳が見下ろしていた。

 レインハルトは憤っている、顔は笑ってはいるがもう言葉すら取り繕っていない。返事は要らないとフェルディナンドから顔を逸らして、少し後ろに立つアイリスの肩に優しく手を回す。


「アイリス、一緒に行こうか」


 その顔に先ほどの冷たさは一欠片もない。アイリスは困惑したままこくりと頷いた。その様子にレインハルトは嬉しそうに微笑んだ。


 ちらりとアイリスは義兄と義妹の方へ視線を向ける、けれど後ろには先ほどの護衛騎士が控えていて何も見えなかった。


「では、よい一日を」


 庭園はもはやレインハルトの独壇場だった、それもそうだろう。大陸一の強国で帝国ヴォルフラムのしかも王弟殿下、一国の主でもフェルディナンドでは敵わない。

 そのままアイリスは流れるようにレインハルトに連れられて、主役のいなくなったパーティー会場を後にした。



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