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波乱の歓迎パーティー

毎日更新、二日に一回更新を目指しております。

 

(あぁ、一刻も早く戻りたい)


 王宮の廊下をコツコツ、と二つの足音が響く。

 やっぱり衛兵達が私を見て「案内でしたら我が」と尋ねてきたが、レイン様はさわやかな笑顔で


「ありがとう、だが真面目な君達の仕事を邪魔したくはないのでね」と断っていた。


 中庭へと続く廊下を進む。

 ちら、とアイリスは視線だけ後ろを振り返ると相手は気がついたのか、にこやかに微笑んだ。

 つい、と前を見据えて歩いていく。さっきから凄く見られてる気がするんだけど。


「アイリスは十五歳といってたね、いつから城で働いているんだ?」

「…ええと、おそらく十歳くらい、かと」


 理由が全然分からない。

 私に案内させるのも、こうやって話しかけてくるのもただ困惑するだけだ。

(…私が珍しいから?)

 ウェーブを被るメイドが珍しいからと冷やかしで話しかけてくる人は過去にも沢山いた。でもすぐに興味は薄れたし、こんなに気さくに話しかけてはこなかった。


「そうか……大変だったね」


 本当にそう思っているような声音。

 私にはこの人が何を考えているのか分からないけど、きっと優しい人だと思う。


「もう慣れました」


 だから優しい言葉に蓋をする。

 だってこの方はあの帝国の人だもの、頼まれたとしても私を助ける義理なんてない。お金も宝石も、見返りどころか私には何も無い。

 …どうせ視察が終わればこの国からいなくなるのだから。

 王宮の廊下を抜け、階段を降りると大きな噴水が見えた。


「ここまで来れば大丈夫でしょう、真っ直ぐ歩けば庭園が見えてきます」

「庭園まで一緒に行ってはくれないのか?」

「…申し訳ございません、仕事がありますので」


 ぺこりとお辞儀をする、早く戻らないと。

 仕事もたくさん残ってるし、正直庭園には近づきたくない。もしパーティーの最中あのソフィーリアに見つかったらと思うと気が気じゃない。そういう場に私がいることを極端に嫌うから。


「もし誰かに咎められる事を心配しているなら気にしなくていい、頼んだのは私だ」

「でも…」

「大丈夫、私が君を守るから」


 優しく肩に手を置かれた。どうして?

 どうしてこんなに優しくしてくれてるの、出会ったばかりのメイドにそこまでする理由なんて、


「私は…」

「あら、そこで何をしているの?」


 聞き慣れた声、ソフィーリアだ。こつこつとピンクのドレスを揺らしながら近づいてきた。ひゅっと喉が鳴った。

 どうしよう。一番いけない人に見つかってしまった。笑顔でこちらに尋ねているが苛立ちが滲み出ている。


「これはソフィーリア王妹殿下」

 私の前にスッ、と出て綺麗な会釈をしたレイン様。その姿にソフィーリアは明るく声を上げた。


「まぁ!こちらにいらしたのですね」

「もしや私をお探しでしたか?」

「ええ、庭園から出たきり戻ってこられないから何かあったのかと、私心配で…」


 どうやらソフィーリアはレイン様を追ってわざわざ庭園の外まで探しにきたらしい。


「それはお心遣いありがとうございます、ですが彼女のおかげで迷わずに済みましたので」


 レイン様がちらりと私を見ると、ソフィーリアから睨まれた。でもそれは一瞬でにこりと笑みを浮かべる。


「それは…私のメイドがお役に立ったようで何よりですわ」


 こつりとソフィーリアがまた一歩、近づいてきた。レイン様の隣まで来ると可愛らしく小首をかしげた。


「では庭園に戻りましょう、皆様がお待ちですわ」


 私に背中を向けて、お前は用済みだと言わんばかりだ。パーティーが終わればあの扇子で袋叩きにされるんだろうな、と内心ため息をつく。


 それよりさっきから違和感を覚える。ソフィーリアのレイン様に対するそれ、普段は宰相相手でも丁寧な口調はしないのにあの態度、わざわざ探しにくるくらいだから狙っているんだろうけど…あぁ、レイン様はとても顔が整っているから面食いのソフィーリアはたまらないだろう。完全に納得した。


 宮に戻ろうと翻したら「こら」とレイン様に呼び止められた。


「一緒に行くと約束しただろう?」

「え、」


 約束した覚えはないですが。ぱちくりとソフィーリアさえ目を丸くしている。レイン様に押し切られるように私も付いていくことになってしまった。


(あぁ…一刻も早く戻りたい)


 山ほどある仕事が恋しいと思う日が来るなんて。

 庭園までの道のりをこつこつと三人の足音が響く。ソフィーリアは笑顔でレイン様に話しかけているが私に向ける視線がピリついている。そんな目向けないで、私だってこの場から離れたいのに。初めてソフィーリアと意見が重なった気がする。


 やっとたどり着いた庭園はとても賑やかだった、華やかな薔薇の中に白く美しいテーブルや料理が並んでいる。

 綺麗…生まれて初めて見たパーティーの光景に思わず息を呑む、それと同時に冷たい視線が刺さった。


「何だあの汚いメイドは」

「ヴェールを被ってるわ、あの噂の…」

「酷い火傷で醜い顔なんですって」

「穢らわしい」

「一体誰が入れたんだ、早く追い出せよ」


 ぎゅうと思わずメイド服を掴んだ。まるでお前の居場所はここでは無いと、前に立っているソフィーリアが心底楽しそうにこちらを振り返っている。

 そんなの事言われなくても分かってる、酷い言葉なんていつもみたいに聞こえないフリをすればいい。…そうよ、こんなの慣れてるから。


「失礼、ファールハイト王はどちらに?」


 ス、と邪な視線を遮るようにレイン様が私の前に立った。思わず顔を上げると凛々しい背中がまるで私を守るように佇んでいた。


「お兄様でしたら…あ、ちょうど私達を見つけたみたいですわ」


 開けた道から誰かが歩いてくる。緩いウェーブのかかった金髪にエメラルドの瞳。ソフィーリアと似た容姿のその人のこそ、この国の王フェルディナンド。私の義兄でもある。


「レインハルト王弟殿下!」


 思わずアイリスの表情が固まった。

 今、なんと言っただろうか。



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