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ルウルウの選択

「うぬぬっこの数のテレポートだと!?」


 ルウルウの顔には大きな驚愕が浮かんだ。

 数十体はいそうなこんな数相手じゃ彼だって手に負えないわ。聖女パワーもどこまで通用するかわからないし、冗談抜きにこれは間違いなく今夜一番の絶体絶命ね。

 あたしは当然として兵士達や教会組も凍り付いている。

 ただ一人、セオ様だけは険しい顔はしつつこの瞬間にも冷静さを欠いてはいない。その目は国王としてこの場の皆のひいてはこの王都、王国の活路を見出そうと努めている。

 あたしも見習わなきゃ。黄金竜の博覧会かっ、なんて現実逃避なツッコミ入れてる場合じゃない。

 ふとセオ様と目が合って「……」と何か言いたそうにされた。

 今王宮には多くの客人もいるのに王都が戦場と化したら洒落にならないレベルで被害が出る。国同士の衝突にも発展……ううんそれ以前に国存続の危機よ。

 ぶるりと体が震えた。純粋に怖い。あたしはここで舞台から退場するのかもしれない。骨すら残らずに行方不明として。もしそうでも本編開始時との齟齬にはならない。……ホントにあり得るんじゃ。


「万一ここが陥落しようとも、そなたの事だけはどうにか逃がす。だからそう怖がるな」


 先のルウルウと同じくセオ様の思いやりにじんとくる。


「あれと一緒くたにされるのは心外だな」


 彼は不満にしつつまたあたしを背に庇う。

 自分の弱さが恥ずかしくなる。あたしにも彼みたいに毅然と立ち向かえる強さがあったら良かった。


「買い被りだ。正直私だってとても怖い」

「え、あなたでも怖いなんて思うんですか?」


 強靭な精神力で何事にも動じないキャラ一位なセオドア陛下が?

 今だって半裸だけど某に恥じる所などどこにも無しって堂々たる立ち姿のセオドア陛下が!?


「そなたは私を何だと思っているんだ。早く破れていない服を着たいし、そもそも私はそのような超人でもない」

「ご謙遜をっ」


 セオ様に夢中になっていたら恐怖がだいぶ薄らいだ。

 ふふっ最高の推しといて希望や勇気が湧かないわけがないのよね。

 この人がいる限りあたしの中の光も消えない。


「ま、本編よりもかなり結構ハードモードだけど」


 セオ様的にはわけのわからない呟きにか、彼の背中は少しだけ笑ったように見えた。

 改めて竜の群れを見やる。


「テレポートだなんて、全個体が強敵ね」


 前にルウルウはへばるから使いたくないみたいに言っていたけど、どの竜もへばった様子は見られない。実力ある証拠だわ。

 すると集団のうちの一体が舞い降りてきた。

 でっか~! 地面で虫の息の竜よりも一回りは大きい。

 その竜は舞い降りてきたとは言っても依然上空に居ながらに、長い首をルウルウへと垂れた。

 え、お辞儀?


『お初にお目に掛かります、我らがキング』

「お前は?」

『一族の相談役にございます。キングが卵でした折に一時お傍に仕えさせて頂いてもおりました』

「そうか。古参の一人か」

『ほほ、まだ三千歳にも満たないわたしめなどは、古参とは言えませんよ』


 あたしにはやっぱり竜語はわからない。あぁ翻訳アプリがあれば……っ。

 話す同族竜を冷たく地上から見上げるルウルウは硬く抑揚のない声をしていて、警戒が伝わってくる。

 今はあたしと居たいって言ってくれているけど、いつかは一族の所に戻りたいはず。なのに同胞達は歓迎ムードじゃない。


 敵竜との先の戦闘も本質はおそらく殺し合いだったんだろう……ルウルウが殺さなかっただけで。


「そいつを寄越したのもお前の考えか?」


 ルウルウは地面の同胞を一瞥する。


『いいえ、この者は実力を盾に好き勝手に不良仲間と事を起こしました。まあその仲間達も、テレポートの贄にされたようですが』

「なるほど、だからテレポート後もピンピンしていたのか。合点がいった。だとすると、お前達も仲間を踏み台に?」


 顎を上げじっと見据えたルウルウは、ややあって自ら否定を呟いた。


「いや、違うな。お前達……いや、お前は何だ? テレポート魔法に使われた魔力は、全て単一。つまり術者は一人。お前だ」


 人語のままのルウルウの言葉だけを拾っても、会話内容は不穏だ。

 あたしもセオ様も人間サイドはただ見ているだけ……なんて時間を無駄にはしない。セオ様はとうに兵士達へと手で合図を送って退避を促していた。ここにいる彼らじゃもう手に負えないものね。竜達は侮っているのかこっちの動きは無視された。

 残ったのはあたしとセオ様、リンドバーグとモカとイザーク。


「こんな数を発動させたのに、何故ほとんど消耗していない?」

『ふふ、さすがのご慧眼でございます。我々一族は得手不得手はありますが、ほとんど例外なく多系統の魔法を使えるのはご存知ですね。ですがこの老いぼれめはテレポートのみに特化しているのです。少ない魔力消耗でいつどこにでもテレポートするのもさせるのも可能です。そこの若造はこの事を知りませんが』


 古参竜は瀕死の同胞を見やった。どことなく呆れた色がある。もしかしてあの暴れ竜は仲間内からも評判悪かったのかしら。


『しかしその代償に攻撃魔法も防御魔法も使えません。体も弱く、低級魔物にも劣るでしょう。人間と戦えばどうなるかは火を見るよりも明らかです』

「だが、ここに来た。――僕を殺すつもりで」

「殺す!? やっぱりその流れ!?」


 古参竜はちらとあたしを一瞥すると、あたしでも何を意図しているのかわかるようにゆるりと首肯する。


『はい。一騎打ちの結果がどうあれ早期にと決めておりました。人間に与する愚王を戴くなど笑止千万。あなた様を弑して新たな王の誕生を待つつもりです。一族の未来のために。今の想定以上に疲弊したあなた様相手なら、彼らでも十分でしょう』


 ルウルウはずらりと並んでホバリングする竜達に一通りざっと視線を流すと、ふんと鼻を鳴らした。


「やってみろ。たとえ朽ちようとも、お前達全員をここで葬るくらいはできる」

『……』


 いつになく引き締めた顔をする彼からは断固たる意志を感じる。


「アリエル、僕の問題に巻き込んでごめんな。……そこのセオドアとか言う奴、アリエルを連れてすぐに逃げろ」

「ちょっと何を言い出すの!」

「わかった」

「セオ様も!」


 セオ様から腕を掴まれ引っ張られたあたしは勿論踏ん張って猛抗議。


「こんなの駄目です!」

「竜族内の諍いに首を突っ込む必要はない。それにこれ以上そなたを危険には置いておけない」


 国には聖女が必要だからそんな事を言うのって、昨日までなら怒っていたと思う。でも彼の真摯な眼差しと今夜の行動にはそれ以上の理由がある。

 だって彼自身よりもあたしを気にして庇おうとした。何かが違っていたら死んでいたかもしれないのに。咄嗟の時に取る行動はその人の真実だと思う。

 聖女としてじゃなく一人の人間として見てくれているんだわ。


「あの子を残していくなんてできません」

「なら私が残るから、そなたは逃げるんだ」

「ああもうっルウルウといいあなたといいっ。逃げるなら全員でですっ」


 喧嘩腰のあたしをルウルウが案じるような目で見ているのを、更に古参竜が見ていた。

 そんな古参竜は何かをルウルウに語りかけた。


『キング、もしも降参して頂けるのでしたら、その銀髪の娘には今後も含め我が一族は手出ししないとお約束致しましょう』


 何を言われたのかわからないけど、驚いたようにしたルウルウが一度こっちを見て一切の力を抜くと、不格好に微笑んだ。


「わかった」


 え、わかったって何が? そんな全てを甘受して自分を諦め放棄したみたいな目をして。

 なに、何か……嫌な感じ。

 急激に不安が膨れ上がり、無意識に彼へと手を伸ばそうとした矢先。


『皆の者、やりなさい』


 あたしでもわかるくらいに敵の殺意が跳ね上がったのに、ルウルウは動かず目を閉じる。


 ルウルウ?


 直後、彼をターゲッティングした複数の魔法陣が出現し、多系統の魔法攻撃が一斉にルウルウへと命中。小さな体が無防備に大きく吹っ飛んだ。


 え……な、に……?


 咄嗟の出来事に思考が凍り付き声も出ない。放物線を描いた体が遠くの芝の上に落ち、痙攣しながらゲホゲホと咳き込んで血を吐く最中にも、また数多の魔法攻撃が一局集中し吹っ飛んだ。

 それがもう数回繰り返されたところであたしはようやくこれが現実だって理性が追い付いた。


「ル、ルウルウ!」


 咄嗟にあの子の元へと行こうとしてセオ様に手首を掴まれ阻まれる。


「危険だっ」

「このまま見ているわけにはいきませんっ」


 強引に彼の手を振り切って更には両手で突き飛ばしてその反動さえ利用して走り出す。


「アリエル!」


 履いていたヒール靴が途中で脱げたのも取り合わずむしろ捨て置いて全力で駆けた。踏み付けて千切れた草が夜風に消える。

 自分も攻撃されるかもしれない恐怖を瞬時に捩じ伏せるくらいには焦り憤っていた。


「ルウルウッしっかりして! 何がどうなっているのか後で説明してもらうからね!」


 駆け寄って抱き起こし、今は避難と抱き上げる。


「アリ、エル……っ、離れて、いろっ、――アリエル!」


 ルウルウの様子から攻撃が迫っているのは見なくてもわかった。

 だけどこの子に障るから聖女の奇跡は使えない。このドレスにも防御機能は付与されているとは言えどれ程耐えられる? 護るようにぎゅっと彼を抱き締めた。


「そなたは本っ当に考え無しだなっ!」


 ――!?

 間に飛び込んできたセオ様が攻撃を全て跳ね返した。

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