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時に王様同士の喧嘩は幼稚

 もうすぐ王宮に着く馬車の中、セオ様は相変わらず仏頂面のままに……ルウルウのお坊ちゃん服を掴んでいる。

 最初馬車に乗り込んだ時にこの子があたしの横に座ろうとしたからこうなった。今は向かいの座席に二人で並んで時々互いを睨み合っている。殴り合いにならなくて良かった。街中で馬車が大破したら大ごとだもの。

 因みにルウルウは外ではあたしと同じくローブを羽織って上等な服装を隠したけど、馬車の中では脱いでいた。


「アリエル~そろそろ王宮だ」


 あらホントだわ。何度か一緒に外出しているから彼も王宮近所の景色は見慣れたみたい。不機嫌に眺めていた窓の外からこっちに目を移して教えてくれた。


「なあなあ着いたら今日も――」

「彼女は婚約者の私と明日の最終確認だ」


 ルウルウはこれみよがしに台詞に被せられてじろりとセオ様を睨んだ。セオ様は前を向いたまま仏頂面をやめてしれっとしている。

 ルウルウはきっと勉強会をしたいって言おうとしたんだわ。連日様々に学んでいて本当に勉強熱心。元は勤勉な人間でしたって言われても信じそうよ。

 あたしのにこにこ顔に釣られたのか彼は眉間を解いた。


 ここでコホン、とセオ様が空咳。


 そうだわ、こんな状況で和むなんて反省していない奴だなと白い目で見られても仕方がない。


「アリエル、今回の件は人情的には理解できる。反省もしているのはわかるから、これ以上は咎めない」

「え……?」

「ただ、もっと慎重にはなってほしい。臣下の中にはこの婚約を破談にしようと目論む者もいるんだ」


 確かに。婚約宣言した王宮会議の際、咄嗟には隠せなかった表情から賛成反対くらいはわかった。まあ皆すぐに表情を取り繕ったけどね。


「セオ様、改めて申し訳ありませんでした。温情は非常にありがたいのですけど、婚約者だからと不問に付すのはよくありません。身勝手な行動の責任は負うつもりです」


 知らなかったならともかく知っていて隠したと露見すれば良い事なしよ。彼の高尚な公正さをあたしのために曲げてほしくない。今日のは家族に会っただけで特に何かを融通したわけじゃないけど、規則破りは規則破りだもの。

 しかと顎を引いてはっきり告げると、彼は一度唇を引き結んだ。


「そなたは私を過大評価しているよ。私はそこまで物事にきっちりしているわけでもない。況してやただ目撃した正門での揉め事に心を痛めて、その観光客一家を気遣った慈悲の聖女をどうして責められるって言うんだ?」

「……観光客一家?」


 セオ様は本気で無かった事にするつもりなの?

 言い知れない懸念と自己嫌悪が湧いてくる。いつかあたしは大きく彼の足を引っ張るかもしれない。彼の汚点になるかもしれない。

 今更不安になるなんて、今日の自己中な覚悟が聞いて呆れる。それでも後悔だけは不思議としていないんだけど。

 あたしの愚かさに怒るよりも呆れたのか、セオ様は小さく息を吐いた。


「あのなアリエル、そなたの私へのイメージがどうであれ、今のこの私が現実のセオドア・ヘンドリックスだ」

「え、はい……?」


 急に何だろうときょとんとしていたら、彼は身を乗り出して至近から真剣な目を合わせてくる。ただでさえ魅了されちゃう眼差しに頭が真っ白よ。


「変な想像でも妄想でもなく、そなたの目の前にいる私をしかと目を大きく開けて見ろ。それと、汚点とかそんなものになったとしても影響はないから安心するように。大体な、いちいち評判なんて気にしていたら国王なんてやってられない。……過度に騒ぎ立てるようなら黙らせるだけだしな」


 ええっまさかの暴君バージョン!? ……なーんて下手なジョークよね?


「ですけど」

「ですけどもだけどもない」

「えぇ~……」

「これは国王決定だから覆らない。アリエル、返事は?」

「――っ」


 更に近付けられた彼の眼差しからは頷かないとこの話題を終わらせないって意思を感じた。

 ああどうしようドキドキし過ぎて思考が蕩けそう。この男は色気で有耶無耶にするつもりなの? ハニトラセオ様バージョン!? 思いっ切り引っ掛かるでしょこんなの~っっ。

 で、引っ掛かった。

 わかりましたと頷くと、満足したように彼も頷いて席に体を戻した。誰か冷却ファン回してーっ。

 本当にこれで良いのか葛藤自体はまだあるけどとりあえずは受け入れる事にして、セオ様を止めあぐねて悔しそうにしていたルウルウには勉強会をできない旨を告げた。彼は残念そうにはしたもののこっちの立場を理解してくれてごねなかった。やっぱり見た目通りじゃないのよね。


 そう言えば鱗の格好いい竜姿から人の姿に外見を変えられるとは言っても何故か子供姿にしかなれないみたい。


 何をどう踏ん張っても大人の姿にはなれないってわかるや一人で酷く落ち込んでいたっけ。可愛い今の姿で十分じゃないのってフォローのつもりで言ったら逆効果だったし。


「正直な所、そなたが変な連中に傷付けられたり拐かされたりしなくて良かったよ。今時期は舞踏会の影響で国内外から多くの者が集っているからな。その中に善からぬ者がいないとも限らない」

「そこはご心配には及びませんよ。教会の護衛達もこの子もいますし、王宮兵だって。戦力ではどこよりも強力です」


 むしろ危害を加えようとしたら皆が一斉にぶちギレて犯人は最後って気もするから、お願い自重してって親切心からそう思う。


「ふんっ、その通りだ。人間なんぞにアリエルを攫わせないぞ。矮小で弱虫な人間の王は無駄な心配ばかりしてるな!」

「食っちゃ寝して肥大した愚鈍なドラゴンは思考も愚かなようだな。そもそも慎重さも繊細さも初めから欠落しているんだったか」

「なんだと!」

「えーとルウルウ頼もしい宣言ありがとう。でもあたしの婚約者様に暴言はやめてね? セオ様もですよ」


 ルウルウが頬を膨らませてセオ様はそっぽを向いた。ああもうこの二人は~っ。子供の喧嘩を仲裁するママ気分だわ。


「アリエルそいつは本当の恋人じゃなく嘘の恋人だ、正気に戻れ」

「シャラーップ! そこは言わないで!」

「でもな、現実を忘れたら駄目だぞ」


 ええ、ええ、ご尤も。

 だけどどうせなら契約なんだって忘れていたいじゃない。浸らせて!


「何にせよね、他の皆にはバレないようにそこは頼むわよ? そうしないとあたしが大変になっちゃうから、ね?」


 実際国民に実は愛のない契約結婚するんですってバレたら感動を返せって野次られそう。

 加えて、政治的な婚姻にすると、なら他にも利点ある貴族の娘を妃に等々の意見が避けられないからこそのロマンス演出なのよね。

 因みに愛のないとは言ったけど、あたしには永久不滅のドでかい愛があるわん。


「アリエルが大変……そうだった。うむ、お口にチャックだ」

「うむうむ、よろしくね」


 この子の扱いが結構よくわかってきた。

 でもお口にチャックだなんて、どこで仕入れてきた言い回しかしら。前世ではとっくに死語だったし、そもそもこっちでチャックやファスナーはまだ見た事ないわ。もしや古代にはあったのかも? この世界にも廃れた文化や技術はあったって聞くしね。まさかあたしみたいな転生者……なわけはないか。

 ここでセオ様がまた空咳をした。


「話を戻していいか? 拐かしは必ずしも戦力の優劣によらない。好機を待って最小限の人員で密かにターゲットを誘拐するケースの方が多いだろうな」

「そ、そうなんですか。気を付けます」


 すると何を思ったのか彼はふっと笑った。


「だからアリエル、いつもなるべく私の傍にいてくれ。離れていては護りたくとも護れないからな」

「セオ様……っ」


 予想外のお言葉! しかも傍にいろですってよ奥様、きゃあーん!

 ……でもはしゃぎ過ぎはよくないわね。聖女は政治的に大事な駒、早とちりして必要以上に舞い上がったりはしないわよ。舞い上がったけど。


「アリエルそれは――」

「アリエルやっと門だぞ~」


 今度は会話を被せ返したルウルウにセオ様は一睨み。彼も現在地の確認も兼ねてか窓の外を一瞥したけど続きの言葉は呑み込んだようだった。何を言おうとしたのかしらね。

 彼は結局あたしとルウルウが馬車を降りるまで終始無言で何かを考え込んでいた。

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