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一人多い晩餐

 もしもあたしが巷の貴族令嬢だったなら何を着て行こうかなーうっふふっふ~って姿見の前でドレスを取っ替え引っ替えたっぷり何時間も迷ったに違いない。


 だけど良くも悪くもあたしは聖女。


 国王陛下からの招待なら尚更に正装つまりは聖職者としての法衣で行くのがあたしの立場からすると当然だった。仕事の一環ね。

 あたし仕様で刺繍こそ巧みで豪華だけど、教会じゃ年少者から年長者まで着ているシンプルな形の法衣をね。ほらそこっ、ふっ色気ねえなって思わないで!

 それでいいのよ。かえって気が引き締まって煩悩に引っ張られないからむしろ好都合だわ。


 約束の時間に遅れないようにと早目に向かったセオ様の宮殿の晩餐室。五分前どころか三十分も前に到着するようにしたのに、何と彼の方が早かった。


 ど、どういう風の吹き回し? もしやセオ様のドッペルゲンガーでも見ているのかしら?


 なんて考えていたらセオ様から咳払いされた。その際「ドッペルゲンガー?」なんて怪訝にされたわ。まあこっちの人間からするとドッペルゲンガーなんて言われても意味不明よね。

 前世世界と共通の知識とそうじゃないものがあるからうっかり変な事は呟けないわ。

 そんな彼はこんな所でまで仕事をしていたようで、直前まで目を落としていたファイルを閉じて近くに控えていた秘書のユージーン氏に手渡した。何てワーカホリック……! 仕事をするにしてもギリギリまで執務室にいて予定の時間に手ぶらでここに来るって発想はなかったのかしら。

 そんなにこの晩餐が重要なの?

 ……ごくり、やっぱり何かとてもショッキングな話をされるのかもしれない。


「セオドア陛下、お待たせしてしまい申し訳ありません」


 時間より遥かに早く来たあたしだけど、入口で控えめに頭を下げた。


「時間より早く来たのに謝罪する必要はないだろう」


 チラと壁に掛かった時計に目をやった彼は、どこか優しく呆れたような声で言ってあたしに席を促した。

 このタイミングでユージーン氏はいつものように愛想良く笑って「それではごゆっくりどうぞ」と部屋を出て行った。


 はあ、わかっていたけど、遠っ……。


 長いダイニングテーブルの端と端に互いの席が用意されていた。


 他にも招待客がいる公式の王宮晩餐会時はこの位置だから別に今更驚かないけども。

 予定より先に主役が揃っちゃったせいか給仕係達はやや急ぐようにして料理を運んでくる。きっとキッチンも大急ぎね。少し申し訳なく感じつつ、あたしは給仕係の男性から椅子を引いてもらって腰掛けた。ありがとうと微笑んだら恐縮してか顔を赤らめたっけ。何故か遠い向かいの席からはわざとらしい咳払いが聞こえた。

 とにかくまあこれが紛れもなくいつも通りの距離で、その都度あたしは残念とか不満に思っていたけど今日ばかりは正直ホッとしていた。だって近いと推しのエレガントな匂いで煩悩まみれになっちゃうわ。


「……。少々早いが始めるか」


 真正面遠くに座するセオ様は最初の料理が全て運ばれた所で、平素の読めないかつ微妙に不機嫌そうにも見える顔で抑揚なく言った。最早あたしの思考なんて雑念以下に脳内設定できているんだと思う。さすがは優秀なファイアウォールをお持ちね。


「ところで聖女アリエル」

「はい? 何でしょう?」


 わあ声低~っとか思うあたしは素知らぬ顔付きで微笑さえ浮かべてみせる。

 あたしの態度に彼は明確にぐっと眉根を寄せた。


「どうして招かれざる客までいるんだ?」


 あー、やっぱ指摘くるわよねー。

 何故なら現在あたしの膝の上にはルウルウが座っている。


『――ルウルウ、食事の席では大人しくしていてね?』

『なんでだ。あんなヤツちょっとけっとばしてやればいい』

『ちょっとでも暴力は駄目よ。じゃないと同行は許可できません。一人でお留守番していてもらうわよ?』

『うっ……それはイヤだ。わかったギョウギよくしている』


 なんてやり取りをついさっきあたしの部屋でしたのでしたー。国王招待の晩餐に自分も行くって聞かないんだもの。この分じゃ置いてきても無断で付いてくると思ったから、それなら傍で目を光らせていようってわけ。


 セオ様はルウルウをめっちゃ睨んでいる。魔物と一緒だなんて美味い飯も不味くなるだろがって思っているんだろう。

 魔石のおかげで完治もしたルウルウの方も、騒ぎ立てないだけで元気に睨み返してはいるから保護者としては超絶気まずい。


「ええとこの子は置物とでも思って下さい。暴れたりしませんし、あとそれに朗報です。この子は無意識に他の魔物を集わせる存在ですけど、反対に意図して遠ざけられもできるみたいで、早速そうしてくれたんです! ですからこの子がいる限りもう王都は魔物が寄ってくる心配はありません」

「そうだぞ。ぼくよりヨワいヤツはちかづかない」

「だ、そうです。よくやったわねルウルウ~!」

「えっへん!」


 誇らしい気持ちでにこにこと笑い合っていると、セオ様から冷笑が聞こえた。


「はっ、ドラゴンのくせに随分と飼い慣らされたものだな。首輪でもねだったらどうだ?」


 鉄の処女(アイアンメイデン)もビックリな鋭さの棘がありますねー。ああもうこれじゃ喧嘩ヒートアップは避けられない。どうしよう。

 しかーし、予想に反してルウルウは怒るどころか自慢げにした。


「オマエもアンガイいいことをいうな。タシかにコウソクグをすれば、ぼくはアリエルせんぞくだというアカシになるな」


 故にウェルカムだそう。ルウルウの鈍さに感謝っ。

 で、でも拘束具なんて穏やかじゃないわね。

 あたしは辛うじて笑顔を浮かべた。


「か、考えておくわー。美味しそうなお料理ですし、冷めないうちに頂いても?」

「……そうだな」


 セオ様はふぅと気持ちを落ち着かせるように息をつく。

 この話題を引っ張らずで一安心よ。

 因みにあたしの護衛達は部屋の外で待機している。腕の立つセオ様といるんだから安心して夕食に行って良いって言ったのに聞かなかった。ルウルウを完全には信用していないからよね。


 仕切り直して幾分穏やかな雰囲気で食事の手が進む中、あたしは魔物の動向に詳しいだろうセオ様に尋ねたい件があったのを思い出した。食卓上は少し前にデザートが運ばれてきたところ。


「ところでセオ様、他のゴールデンドラゴンの目撃例はありませんか? この子の仲間がどの辺りにいるのか、少しでもその手掛かりがほしいんです」


 ルウルウは意外そうにこっちを見上げた。あたしにぐーんと背中が寄り掛かる格好になる。


「高位ドラゴン系統はなかったな。ところでそれを知ってどうするんだ?」

「手掛かりがあればこの子が探しに行けます。まだ生まれて間もないからなのか、仲間の気配を察知できないみたいなので」

「なるほど。手掛かり、ね」


 何故かセオ様はジト目でお坊ちゃまルウルウを見つめる。


「なら必要ないな。その嘘つきドラゴンをさっさと放り出せ」

「嘘つき……?」


 この子のどの辺が? あ、擬態が?


「そなたは知らないようだが、わざわざそんな面倒をせずともソレは仲間を呼び寄せられるはずだ」

「え、はい?」

「ソレは自らをキングと名乗ったんだろう? 高位魔物が意図せずも下位の魔物を呼び寄せる存在なのとは別に、その種族の王は得てして同族を召集できる能力を有していると、そう言われている」


 声音から温度を取り払い、セオ様が明らかな怒気を放つ。


「確認するが、お前は嘘偽りなくゴールデンドラゴンの王なんだな?」

「そうだ」

「王なら同族の気配を感じ取れないはずがない」

「――それはっ」

「狡猾な魔物め、そこを偽ってまで王宮に居座るのには何か善からぬ企みがあるからだな」

「たくらみなどないっ、ただぼくは……っ」


 あたしを見つめ大きく動揺する様子からして、あたしは嘘をつかれていたってわけね。この子は本当に仲間を呼べるし気配を感じ取れるんだわ。


「ルウルウ、本当に仲間を呼べるの?」

「……う、うむ」

「じゃあいつでも仲間と合流できるのね。――良かった」


 ルウルウは「へ?」とぽかんとした。セオ様も。


「お、おこらないのか? ぼくはうそをついてたんだぞ」

「そうね、でもどうして秘密にしたの?」

「もっとアリエルといっしょにいたかったからだ。だけど、ごめん……」


 はあ、思った通り。この子ってばあたしが大好きでしょう? なんて言うと自慢みたいになるけど事実だもの。あ~にやけそっ。

 それにこの子の事情を知っているからこそ責めるなんてできない。でもこのままってわけにもいかないわ。


「反省しているみたいだし赦してあげる。けど嘘つきにはお仕置きよ~」

「のわああああぁぁぁ」


 こめかみぐりぐりをしてやった。

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