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王宮池の底には魔石の他にサスペンスが沈んでいた

 夜はセオ様と晩餐。あたしは必ずしも楽しみや好物を最後まで取っておくタイプじゃないけど、今日はそうなりそうね。

 さてそれまでは何をしていよう?

 一秒でも早く長く顔を拝みたかったセオ様はしばらくいないそうだし、王宮図書館は調査と修繕で使えない。

 ルウルウを部屋から連れ出したものの出鼻を挫かれた形のあたしは、リンドバーグを目の前にして少し考えた。

 もうルウルウは見た目から魔物だとは怪しまれない。お行儀だって良くするわ。どこを連れ歩いても平気よね? リンドバーグがいるから不審者扱いもされないだろうし……よし決~めた。


「今日は王宮ピクニックしましょ、お昼を持ってね」


 王宮ピクニック?と声を揃えて不思議そうにしたルウルウとリンドバーグが何だか微笑ましい。


「実は図書館から外を眺める度に王宮の芝生でのんびりランチしたいなって思っていたのよね。忙しくてできなかったけど」


 まだ聖女仕事はお休み中だし、調べものは当面教会図書館や他の図書館を考慮に入れるにしても、今日はオフ。

 王宮なら食材も豊富だし、難しいものじゃなければその日にリクエストしても用意してくれると思う。まだ朝食のすぐ後だから今から厨房に頼めばどうにか間に合うわね。


「王宮池の傍でなんてどう? 天気も良いし景色もいいだろうから美味しく食べられ……うん?」


 食べ、る……?


 あああっそう言えば手当て優先で食事させてない!


「ごめんねもっと早くに気付くべきだった、ルウルウお腹空いているわよね! 食べ物は魔石だっけ、買いに行かないと!」

「そんなにあわてなくてもシンパイムヨウだぞ」

「でも千年も封印されていたんでしょ? 腹ぺこじゃないの?」

「フウインされていたアイダはジカンけいかがなかったもドウゼンだから、おなかもへらなかったのだ。めざめてからのハントシはちがったけどな。それに、しんぱいしなくてもマセキはオウキュウイケのソコにたっぷりある」

「えっ王宮池に!?」

「はいってわかった」

「なら池でピクニックはあなたにとっても都合がいいってわけか」


 そんなわけで、ルウルウがあたしの昼食時間に合わせてもくれてお昼近くに皆で池へと赴いた。お腹が空いているだろうに何て優しい子~!


「ルウルウ、今更だけど池浚いしてもらおうか?」

「ふようだ」

「だけど体は大丈夫なの?」

「だーいじょうぶ!」


 あたしに心配されたのが嬉しかったのか彼は歯を見せてにーっこりと笑った。お日様の下で照らされて金髪がキラキラ輝いて、表情と相まって何だか魔物と言うより天使だわ。

 ……原始時代の。

 うん、今は池に潜るからって布を腰回りに巻いた格好なんだもの。


 彼が言うには池底で魔石を口にするまで我慢して潜りさえすれば、あとは回復からの自己治癒力が発揮されて平気だと言っていた。とは言え一切の躊躇いもなく池に飛び込んだからもうハラハラよ。あ、良い子は入る前にしっかり準備体操をしなくちゃ駄目よ?


 王宮池の底にはルウルウの言葉通り魔石が沈んでいた。


 平均して林檎くらいの大きさの宝石にも似たカラフルなそれらを、十個くらい彼が抱えて池から上がってきたから、予想外の多さにとってもビックリした。


 池の底にはまだその十倍はあるみたい。リンドバーグが言うには少なくとも千年は誰も池を浚っていないって話。誰かが投げ入れたのか自然と魔力が凝縮結晶化したものかは定かじゃない。


 ルウルウは一度には食べ切れないから残りは池に残しておいて後で食べるつもりみたい。とても貴重な物がわんさと千年も手付かずのまま池底にあったなんて、王宮の誰も思わなかったでしょうね。

 最初リンドバーグも同行のモカ達教会組三人も魔石には目を丸くしたっけ。価値のわかる人間が見れば一目瞭然なんだから当然ね。あたしも未熟ながらも高価だろうとは察したわ。

 リンドバーグは公にはしないでおいた方が良いだろうって。モカ達も同意見だった。まあね、争奪戦になりそうだものね。ただしセオ様には伝える。そこは当然よね。


 あと、ルウルウが言うには魔石の他にも池の底には色々と沈んでいるみたい。


 沈んでいる全ての魔石がなくなってから池浚いしたら面白そうって思っていたら「ホウセキをつけただれかのふるいホネもあったぞ。それもひとりふたりじゃない」って言われてさすがに背筋にゾクリときた。昔のドロドロ王宮サスペンス劇の臭いがぷんぷんよ。そう言えば巷でも行方不明になった大昔の王族や貴族の話を聞いた事があったわね。眉唾だと思っていたけど……。

 池の底には触れないでおこう。うん。


 王宮池の岸辺に腰を下ろすあたしはフルーツを口に運びながら、横でルウルウが魔石から魔力を吸収する様を眺めた。因みにもう着替えて今はお坊ちゃん仕様の出で立ちよ。きゃわゆいわ!


 そんなルウルウってば魔石をバリバリ噛んで食べるのかと思いきや、何とまあバリバリ噛んで食べた。


 うん、あたしの中の竜の食事イメージそのまんま。魔石は魔「石」なだけに豪快。


「擬態したままで食べにくくないの?」


 歯は大丈夫かなーって懸念を余所に彼は魔石を苦もなく噛み砕きながら、普通は本来の姿で食べるものだって説明をくれた。


「けどな、ドラゴンすがたでたべるのはこんなちっこいマセキではないから、かえってギタイしているほうがたべやすい」

「え、なら池のだけじゃ足りないわよね?」

「それが、イケのマセキはみなおおきさのワリにマリョクがんゆうりょうはたかいから、エネルギーだけでみるとドウトウなのだ。まんぷくになる」


 へえ、そうなのね。確かに池の魔石は一級品。魔力純度が高い程透明度が増すのが魔石の特徴のテンプレート。その通りに凄く結晶が澄んでいて向こうの景色がくっきりはっきり透けて見える。だからあたしにも価値がわかったってわけよ。

 色合いは石になった大元の魔力の系統によるけど、魔力源として見る限りはあくまでも純粋に魔力源だから元の系統にはよらない。チョコにイチゴ味とかメロン味が付いているのと似ているかも。


 人間社会じゃ一級品はビー玉くらいでも大層な値打ち物なんだけど、今この子が食べているのは林檎級。そりゃ子供とは言え手負いかつ半年も腹ペコだった竜の体力を補えるわよね。


 うん? でも半年?

 ……カナール地方で魔物が活発化したのもその頃じゃなかったかしら?

 まさか、ルウルウの覚醒が原因だったり?


 否定はできない。だけどまあ、そうだとしても不可抗力同然だし魔物除けはしてもらったからそこには池の底同様に触れないでおこう。

 ここの魔石は高栄養みたいだし、当分この子の食事に不自由もなさそうで安心した。


 のんびりと楽しんだピクニックランチ。同行の皆は時折り気掛かりそうにあたしとルウルウを見つめたっけ。勿論皆にも一緒に食べてもらったわ。

 たぶん本音では魔物と親しくする聖女どうよってわけよね。わからなくもない。

 ハッ、まさかこれで闇落ち聖女になっちゃうとか?

 なーんて、それはないか。本来あたしと黄金竜との接点はなかったもの。本編を基準にするならこの子が原因にはなり得ない。


「ルウルウ一つ疑問なんだけど、どうしてあなたの封印が解けたのかわかる? あたしも魔法で召喚されたし……少し手荒くね」

「ぼくをフウじたオンナがしくんだんだろうな。そいつはアリエルとおなじようにセイジョだったみたいだぞ」

「聖女!?」


 黄金竜を封印できちゃうなんて物凄い力の持ち主じゃないの。


 聖女の魔法は治癒の他にも幾つかある。

 例えばあたしが飲まされたみたいな万能薬作りや封印関係もそうみたい。

 各聖女によって能力はまちまちだし、この国が二千年前には現在とは異なる国境線を有していたように時代時代の聖女を取り巻く環境は同じじゃない。歴代の聖女はこの国だけじゃなく世界各地に生まれているから能力にはハッキリしていない部分も多い。


 元凶たる古代聖女が凄いのはわかった。


 でもわざわざこの子を封じて何をしたかったんだろう。

 一つ確かなのは、こうして千年を超えてルウルウに会えたのはその人のおかげって事。

 この子にとっては恨み節をぶつける相手なわけで簡単にはそんな風には思えないだろうけど、それでもあたしとの出会いが無理やり時を隔てられてしまったこの子への埋め合わせと言うか、慰めになれば良いなとは思った。

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