表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/47

隠し子疑惑

 本音じゃギャーッ嘘でしょほんま黄金竜なんかーいって叫びたい。だって本編開始前に凶悪黄金竜がご登場なんてどうしましょって感じでしょ!

 これは物語が始まりすらしないうちに改変されちゃったって考えていいのかしら。


 しかもあの凶悪竜がこーんな可愛い子になっちゃって~っ!


 グッジョブあたしっ。何年後かに命を落とすはずだった王宮兵の半分の命を救ったも同然だわ。その時に破壊されただろうはずの図書館もね。


 いや~でもまさかこんな展開になるなんて、本来黄金竜とは接点のないあたしってば不思議な縁に巻き込まれている。セオ様と黄金竜、両者の間にある因縁に。


「ちょっと待て、これが本当に高位竜族のゴールデンドラゴンだって言うのか?」

「はい。本人もそう言っていますし」


 セオ様は黄金竜だとまでは思っていなかったのね。ワイバーンに始まって竜族全般って人間からすれば情け容赦なく凶悪ってイメージだから当惑するのも当然か。何しろこんなきゃわゆい生き物になっているんだし?

 とか何とか思っていたらセオ様の目付きが鋭くなった。


「ゴールデンドラゴンなら王都を破壊される前に葬っておくべきだな」

「なーっ!? おおおっ落ち着いて下さい。この子はきっと他とは違います!」


 ごめんって謝ってくれたし、卵ロデオはまあアクシデントと思うとして、人間食ってやるーってあたしを襲ったわけじゃない。

 そもそもいくらセオ様でも黄金竜相手に無傷で済むはずがないし、これ以上の衝突は回避がベストよベスト。


「それはそなたの希望に過ぎない。それに敵わないかどうか、やってみなければわからないだろう」


 あ、やばっ、心の声が聞こえてるんだった。でもセオ様よっわ~とか思っているわけじゃなくて、黄金竜は基本ハイスペックで生まれてくる魔物だから生まれたてでも一筋縄じゃいかないわ。本編でも苦戦の末に倒していたもの。


「陛下は確かにお強いです。だけど一国の王が簡単に自身を危険に晒すのは少々国王たる自覚が足りないかと思います」

「……聖女たる自覚が足りないそなたにだけは言われたくない」


 ごもっともですう~!

 つい目を泳がせるけどこの子は離さない。セオ様はジト目で見てくる。どっどんな目で見てきても駄目なんだからねっ。


 ……だって、あなたが怪我するのは絶対絶対絶ーっ対嫌なの。だから駄目っ。


 セオ様は一瞬息を詰まらせたようだった。お前如きに案じられる我ではないわって思ったのかも。


「は……そなたは私を一体どんな目で見ているんだ」

「え? 常々わかっていらっしゃるのでは?」

「有効範囲があるからいつもわかるわけじゃない。それに今みたいに真意がわからない時もある。そなたは私を本当に好――」

「セオドア陛下ご無事ですかーっ!!」


 不満げなセオ様が重ねて問い掛けたのを遮るように、声と足音が近付いてきた。それも複数。

 見れば岩陰の向こうから人影が現れたところだわ。彼らの大半は魔法なりランプなりの光源を手にした王宮兵だけど、教会組とリンドバーグの姿もある。

 良かったあ~、皆も来たなら安心。セオ様も少なくとも無謀な真似はしないわよね。

 皆どうやってここを見つけたのっ言うかここまで来たんだろう。隠された入口があったのかしら?


「あっとすみません陛下、何のお話でしたっけ?」

「いや、もういい。それより、彼らは私を追って私が開けた床の穴を通ってきた」


 あ、なるほど。セオ様もそうやって来てくれたのね……ん? でも今彼ってばさらっと暴君染みた台詞を吐かなかった?

 床に穴を開けたとか何とか。

 因みにどこの?


「図書館地下二階の。そなたの救出には一刻を争うかもしれないと思ったからな。まあ、半分は杞憂だったようだが」


 彼はじろりと子供黄金竜を見下ろして、子供黄金竜も負けじと睨み上げる。あ、あはは何かなあこの殺伐さはー。

 最後に彼は危機感ゼロなあたしを非難がましい目で見てくる。彼が視線で石床に穴を開けたとは思わないけどその視線かなり強烈に心に痛い~。


「それの話は後だ」


 あたしが息を詰めるようにして固くなっていると気が済んだのか、彼は駆け付けてくる兵士達の方へと爪先を返した。






 正直ね、このタイミングで兵士達が駆け付けてくれて助かったわ。場の空気が微妙だったんだもの。彼らはぱっと見無事なあたし達を見て安堵の表情を浮かべかけたけど、次にはそれを固まらせた。モカ達三人も「聖女様!?」って仰天した。


 あたしの抱っこしている子を見て何故か全員が全員パッカーンと目を丸くしている。普段些細な事では驚きそうもないリンドバーグまで。

 この子が魔物って気付いたとか?

 兵士達は普段からの連携の賜か、声を揃えた。


「「「「この件は公式発表まで一切口外致しませんので!!」」」」


 ふえ? この件って? 公式発表って? いきなりでわけがわからない。


「えーと、話が見えないのですけれど」


 聖女演技で躊躇いがちに聞くと、兵士の一人が「本当にご安心下さい。我らの口は固いのです」なんて返してきた。益々わからない。兵士達の前でセオ様もあたしと同じく意味がわからないようだった。同じ兵士が今まで見た事のないくらいにとても優しい目で言葉を続ける。


「お二人の隠し子の存在は決して漏らしませんので」


 …………隠し子?


 知らなかった。あたし達いつの間に?

 でもそっかうふふふ~この子はあたし達の愛の結晶なのね。

 推しと家庭を築けるなんて嬉し過ぎて弾けそうよ。セオ様等身大抱き枕を隣に置いてドキドキして寝たあの頃のあたしに教えてあげたい。

 あたしはそのままセオ様を見つめてぱちぱち瞬きする。

 旦那様、今夜は先にご飯にする? お風呂にする? それとも、あ た し?


 セオ様は片手で目元を覆って深く長い溜息をついた。耳が赤い気がするわ。あたしの妄想なんて初めてでもないでしょうに、珍しく照れちゃってっ。

 頑張りますね。不束者ですが、めくるめく熱い夜を宜しくお願い致しま……――て、もう無理。


「ぬわっ、せいじょ!? だいじょうぶか!?」


 身を丸め鼻と口を押さえたあたしの手指の隙間から赤い液体が滴った。危険な妄想の代償だわ。

 黄金竜がとても動揺して次いでモカ達三人が思い切り取り乱し、他の兵士達も慌てた。


「え、大丈夫よこれは鼻血――」

「聖女様ああぁ、この漢イザーク聖女様の護り役として今すぐ全身全霊での治癒魔法を施させて頂きます!」


 泣きべそイザークが傍に来るやその手に治癒魔法の光をぼんやりと宿す。彼はあたしレベルとまではいかないけど教会内じゃ屈指の治癒術者。聖女の護衛に抜擢されたのもそれと戦闘力の高さ故。


 一方、聖女の奇跡が魔物の害になるなら、教会聖職者のでも害になるかもしれない。試した事はないけど危ない橋は渡れない。今はこの子を抱っこしたままなんだもの。


 だからあたしは心配してくれるイザークへと血みどろの掌を突き出して「ストップイザーク!」って何かのカッコいい魔法呪文っぽく叫んだ。手からは何も出なかったけど効果は抜群イザークの動きはピタッと止まったわ。魔法もキャンセル。血まみれの手が眼前にってホラーみたいだからか今にも卒倒しそうな顔色だけど。


「せっ聖女様あああーっ、くっ口元にも掌にもそんなに血が付いてえええーっ」

「イザーク落ち着きなさい。わたくしに魔法は必要ありません。これも聖女たるわたくしへの試練なのです」

「そんなあぁ~天はどうしてそのように時に無慈悲なのですかあぁ~!」


 イザークは泣き崩れた。


「聖女、そなたはそなた自身の事をもっと考えるべきだ」


 セオ様だけは唯一魔法を使わせない理由に接して苛立たしそうに眉根を寄せていたかと思えば、懐から小瓶を取り出した。

 ままままさかこの子に飲ませる毒薬とか!?

 いやーっ仲良くして後生ですからーっ。怒った竜が暴れて早期に本編を踏襲しそうで怖い。いかなる攻撃もノーよノー!


「陛下、わたくしよりも今はこの子が重要です……!」


 これはあたしとセオ様の間だけに通じる会話。


「……わかった」


 ほっ良かった。言質は取った。この子は当面無事――


「――んんんっ!」


 安堵していたら口に何かを突っ込まれた。これ今セオ様が取り出した小瓶?

 ままままさかの聖女毒殺薬!?


「おまえっなにのませてる!」

「黙って見ていろ」

「なんだと!?」


 ああだけど、死ぬにしても推し御自らの手で葬られるならまだ報われたかもこの転生。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ