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Vtuber宣言


「………うわぁっ‼︎」


大声を上げた彼が次に見たものは、いつも通りの自分の部屋であった。


「………はぁ……はぁ………っ!」


自分の身体を確かめてみるがとりあえず怪我はないし、壁に叩きつけられた痛みも無い。


「夢……だったのか?」


希望のような独り言を呟くのだが、それはすぐに否定されることとなる。


「残念ながら現実だよ、仮想だけど」


申し訳なさそうな声に視線を向けると、ベッドの隣には少女と本が間違いなく座っていた。


「巻き込んでしまってすまない」


「………まず今お前の状況を説明するよ。ここはお前の部屋だけど、現実じゃない。俺たちが作ったお前の部屋の仮想世界だ」


「お前たちは………」


本当に自分に起きていたことだったのか、と認めるしか無くなって、彼は苦しそうに手を握り締める。


「靑詞も休まなきゃだから簡単に必要なことだけ説明させてもらうぞ」


本は少し疲れたような声を上げた。


「俺たちは、メイザスの飼い犬になった。これから俺たちと靑詞で仮想世界を壊して回るんだ」


「………はぁ………⁉︎」


聞いた話ではテラーが、本やあのメイザスが作ったのが仮想世界であり、それが目的だと言われており、理解ができずに思わず声を荒げる。


「………テラーって言っても一枚岩じゃ無いんだ。今は、二つの派閥がある。元々のアルヴィアの思想を受け継ぐ「人類共生派」と、それに対する「人類自立派」。俺たちはこっちで……詳しくはまたおいおい話すから」


そう諭して丸め込もうとした発言に、彼は苛立ったように自分の布団を思い切り叩いた。


「またそのわけわかんない話かよっ‼︎俺には関係ないんだ、お前らが勝手にやってくれ‼︎」


「………すまない、それはできない」


「なんだって……っ⁉︎」


「断れば、メイザスがお前を殺す。………私たちではあなたを、護れない」


悔しそうにそう話す少女に、彼は思わずまた悪態を吐きそうになる。

だが、心から申し訳なさそうにしている少女に言えることもなく、ただ憤りを表すかのようにもう一度布団を思い切り叩いた。


「すまない」


「………あの仮想世界は、お前の記憶からメイザスが作ったものでな。お前を呼び出して殺すのは、本当に簡単なことなんだ」


「ふざけるなって!……じゃあ、この事を公表すればいいじゃないか」


そう勢いで言ってから、彼はそうだ、と顔を輝かせた。


「そうだよ、これを国か何かに伝えて公表すれば……ほら、俺だって無事……どころか英雄になれるんじゃないか⁉︎」


半ばやけになったように明るく言うが、少女の顔は晴れなかった。


「テラーは仮想世界を作り、その周りのことしか影響を与えられない」


「ああ。公表したところで事実だと立証できないし、もし立証なんてできた日にはこんなオーバーテクノロジーについて知ってる靑詞の身を全世界が狙ってくる上に……俺たちは助けられない」


「知らないって!そもそも、俺は靑詞じゃない‼︎」


彼は苛立ちを抑えられずに大きく息を吸い込んだ。


「それはネットの世界だけの名前だ!少なくとも靑詞じゃない俺はこんな認知されない上に命を懸けるなんてできない!デメリットしかなくて何もメリットがないだろ⁉︎」


「………すまない」


謝罪一辺倒で苛立ちも抑えられなくなってきて、彼は頭で考えるよりも先に口が勝手に動いていった。


「公表できないからこれを創作だってことにして小説でも書いてみようか⁉︎世界から狂人だって馬鹿にされて終わりだぞ‼︎」


自暴自棄の言葉だったが、それを聞いて本はそれだ!と叫んだ。


「………はぁ?」


「小説……いいじゃないか!是非やるべきだ!」


「………いや、待ってくれ。今のは言葉のあやっていうか」


「創作だって事にして、これを広く認知させるんだよ!そしたらテラーの与える影響も少なくなるかもしれない……被害も出ない」


「いや、だから」


「それに!お前も認知されたいんだろ?人気が出て、それで収入も出るかもしれないぞ⁉︎」


その言葉に正直惹かれるものはあった。

怒りと現状に対する混乱しかなかった彼だったが、人気と収入というわかりやすい「幸せ」というものを突きつけられると頷きたくなるものはあったのだ。


「………でも、俺は小説なんて書けないし、この時代小説なんて」


「おいおい、物語なんていつの時代でも注目の的だぜ?それに、この時代だからこそ宣伝する方法はいくらでもあるだろ」


「そりゃあ、Yo○Tuberとかが全盛だから……誰でも発信はできるけど」


「方法がわかっているのならば、それを実行しない手は無いと思う」


一人と一冊に諭され、段々とやり場のない怒りが鎮火していっていることに、彼自身気がついていなかった。


「いや、それはダメだ……顔とか名前とか公表したらお前の身が危ない……何か他に方法はないのか?」


「方法ったって……」


腕を組んで考える彼は、もう仮想世界がどうだとかいう難しい考えはなかった。

ただ初めて自分で何か動き出している感覚を無意識に感じ取ってそれに集中していたからだろう。


「なんか、例えばだけど流行ってるVtuberとかだったら顔は出さなくていいけど……」


「ほう、いいじゃないか。名前だって本当のお前じゃないネットだけの名前があるだろう?」


なぁ、と少女に話を振ると、少女もコクリと小さく頷いた。


「名前なんて、そんなもの。私たちの中で貴方はもう靑詞だから」


靑詞と言われて、彼はでも……と俯いた。


「そもそも本なんて俺は書けないし」


「そんなもん書けるやつに書いて貰えばいいんだよ!お前も、俺たちも上手いこと偽名にして……ほら、デメリットがメリットに変わってきてないか?」


「いや、でも………なぁ」


言い訳を求めるように少女に視線を向けるものの、少女は少しだけ考えてゆっくりと話し始めた。


「人類だけが物語を作ることができる。貴方の望む物語を伝えるだけで良い」


「そうだぜ、そこさえきっちり書いてもらえれば些細な問題に思えるだろ」


彼が反論する理由が段々となくなっていることに、彼自身は気がついていた。

そして何より、この訳のわからない状況でも、自分のメリットが生まれかけていることを明確に理解してきていた。


「それでも迷うのは、どんな理由?」


少女にそう聞かれ、彼は困ったように頭を掻く。


「いや、事情は全然わかんないけど、俺はこれから世界の為に動くしか無いんだろう?」


こく、と頷いた少女を確認してから、男は罰の悪そうな顔で言葉を続ける。


「こんな時、人類の危機をネタにするような男でいいのかなって」


人類の危機なんて大規模な話、こんな作り物のような事情は文字通り創作の中でしか知らないからわからないのだが。

だが、本がそんな考えを一蹴した。


「人間なんて自分の幸福のために生きていいんだよ、それこそ俺たちテラーの目的でもあるんだからな!」


「………そんな単純な話か?」


「幸福なんて、単純でいいんだよ!お金が貰える!人気者になれる!それじゃ足りないとでも?」


「いや、足りないとかそういうことではなくて……」


そう言いながら、彼の頭の中に別れたばかりの女性の顔が浮かんできた。

自分がもっと収入があれば、立場があれば。

そう思ったのは、紛れもない自分自身だった。

そして今の状況は、とてつもなくピンチではあるのだが、それだけで終わっていいのか?

浮気されました、別れました。

訳のわからない状況になってしまいました。命を懸けます。

それだけでいいのか?と。

ピンチはチャンスという古来からの言葉を、実現できるのではないか。

そう思い始めた彼の背中を本はここぞとばかりに押し始める。


「そうだ、お前は靑詞になるんだ!自分だけが知っていることをそれとなく発信して人類の為に尽くすなんて…英雄だぞ!」


「………それは、確かにな」


「表でも裏でも、貴方は人類の為に役立てる」


満更でもない顔をしながら、煽てられて彼は頷いていた。


「動く前に考えすぎるから迷うんだよ!とりあえず一歩踏み出してみれば簡単なことなのに!」


そう言い切って本は悩むように唸り声を上げた。


「そうだな……だったら、俺は……雲瀬だ、雲瀬って呼んでくれ!」


どうだ、と自慢げに聞かれても男には判断できる材料もなかった。

だが、本はそんなこと気にしないかのように言葉を重ねていく。


「いまの俺は本の姿をしているだろ?訳があっていろんな小説に詳しくてな。その中でも好きな作品からちょっと拝借した。格好良いだろ?」


お前はどうする、と今まで黙って落ち込んでいた少女に話を振るが、少女は「わからない」と首を振るだけだった。


「………あーもう!だったらこいつはアイビス!これも俺の好きな作品に登場した名前だ。ピッタリじゃないか?」


「…………」


呆れたように息をついたアイビスだったが、それでも最後には小さく頷いた。


「ほら、あとはお前だけだぞ靑詞!これから共生派の仮想世界を壊して回ることが人類の為になるんだ。その活動を皆に見てもらいたくないのか⁉︎英雄になりたくないのか⁉︎」


何度も勢いのある言葉をかけられ、男は自分の心の中が熱くなっていくのを感じていた。

確かにバレたら危険は及ぶし、バレなくてもこれからの人生は危険に満ち溢れていることが確定している。

だったら、少しでも自分の為に動いて。

そして皆気が付かないうちに皆を助ける。

そんな英雄のような行動を取りたくなってしまった。

アルヴィアなんてものがなくても、人は幸せになれる。

今いる場所で居場所がなくて苦しかったり、困難の中でも笑顔になれる。

自分がそれを証明してみせる。

そんな大それたことを思いながら、彼は、靑詞は立ち上がった。



「ええい!わかった!俺は世界を救うVtuberになってやるよ‼︎」



単純だと笑いたければ笑うが良い。

頭がおかしいと思うならば思えば良い。

自分が笑顔になって、それを見ている人間も笑顔にしてみせる。

これは、そんな靑詞と、キミの物語。






ここまでがこの作品のプロローグになります。

今回#1~#4までの執筆を金田 悠真先生に担当して頂きました。

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