聖女の私は遠征に出た婚約者に妹を付かせました。帰ってきたら妹に婚約者を寝取られていましたが、全くもって傷つきませんわ!
初の短編・聖女系小説を書きました。
「ニーア伯爵令嬢、貴様との婚約は破棄させてもらう!貴様の妹ユーリから聞いた非道の数々、許せる訳がない!」
私はニーア・シュヴァルツ、シュヴァルツ伯爵家の令嬢であり、今展開されている修羅場の被害者ですわ。そして、こちらで喚いていらっしゃるお馬鹿さんは私の婚約者、いえ、たった今他人になったアラン第二王子。たかが伯爵令嬢の私がどうして王子と婚約を結んでいたのかというと、私が一国家に1人はいる、聖女だからです。この国には聖女が私しかいませんでしたので、王子との婚約を結んだのです。そもそも、私の生家シュヴァルツ家は元々男爵家でしたわ。しかし私が聖女だと分かり、王子と婚約をしたために王家より特例で伯爵に昇格したのですわ。っと、話がそれましたわね。
アランのそばでアランに寄り掛かり涙目で私を見ているのは、私の妹であるユーリ。
「アラン様、私怖いです。私、以前から姉様に苛められていました!」
「ああ、聞いているさ。ニーア、貴様の犯した非道の数々、この私が知らぬとは思わぬことだ。ある時は階段から突き落とし、ある時は突然茶をかけたというではないか!おぉ、愛しのユーリ、可哀想に。この私がそこの悪徳聖女を断罪してやるからな」
ハァ、私はいつまでこの茶番を鑑賞すれば良いのです?私全て知っているのですから。そもそものきっかけは、私が彼と婚約をした時ですわ。
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「ニーア・シュヴァルツですわ」
「アランだ。君も存じているであろうが、私は王子だ。君の家は今子爵位だ。故に冷やかしや嫉妬に狂った令嬢達が現れるだろうが、私が守ってみせる。安心してほしい」
「っ!・・・はい、ありがとうございます」
今、アランから魔法をかけられかけた。洗脳魔法。それは、現在では禁忌とされる魔法で、世界中で使用が禁じられているもの。危なかったですわ、咄嗟に"無詠唱で"
防呪魔法を使っていなかったら。私はアランがお帰りになった後、直ぐに家の影の者に調べさせましたわ。勿論、徹底的に。そうしましたら、出るわ出るわ、アランの黒い噂やら、口止めされたかつて私のように洗脳魔法をかけられた令嬢のが家族からの情報が。
(こ、こんなにたくさん・・・。アラン様は王子ですけれど、それ以上に国にとって、世界にとって脅威となりかねませんわ)
私は家族にそのことを話しました。父や母はすぐさま王宮に抗議をしようとしていましたが、それは私が抑えました。だって、そんなことをしたらアランは一時的に大人しくなるかもしれませんが、その後狙われるのは間違いなくここです。私は父が、母が、そして愛する妹のユーリが大好きなの。そんな家族に降りかかるであろう火の粉、そんなものは見たくないんですの。
それから私、いかにも洗脳されていますという態度をとっていたのです。勿論、聖女のお仕事の時は違いますわよ?私、この国の民は嫌いではありませんの。アランと2人きりになった時、彼は洗脳されている(と、思い込んでいる)私に様々な事を命令しましたわ。体を強要されたことだってあります。出来ないように細工しましたが。それは勿論、好きでもない男との子など、誰が欲しがりましょうか。苦しかったですし、辛かったですわ。私の家から出向いている侍女や執事には泣いて懇願されました。『もう十分ではありませんか、王子との婚約を破棄して家に帰りましょう』と。その度に私は彼らに話しましたわ。『今帰ってしまうと、彼の怒りは間違いなく私の家族に向きますわ。勿論、貴方達にも。私、家の皆んなが大好きですの。その家族にまで彼の怒りが向くこと、それは命に変えてでも阻止せねばならないこと。皆さん、どうか私をお許しになって。私は彼との婚約は破棄せず、洗脳されたふりをして過ごしますわ』とね。そうしたら彼ら、さらに感激して泣いてしまうのですから、安心しましたわ。皆、私を考えてくれているのだ、と。そもそも私、何の考えもなしに彼のそばにいる気はなくってよ?
あぁ、そういえば。なぜ私が聖女となったのか。それを話さねばこの先を語ることはできませんわね。そうですわね・・・あれは、今からもっと遡った頃、まだ私が幼かった頃ですわ。
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当時から私の家は、家族の仲が良くって有名でしたわ。私もその例に漏れず、したいことをさせてもらえました。私は当時から、読書が大好きでした。本の世界に1人飛び込んで、時間も忘れて読みふける。その贅沢に、私は惹かれたのですわ。
そんな私ですが、ある日ふと、魔導書を読んでみたくなりましたの。理由は単純。魔法を当然のように使いこなす家族の姿に惹かれたから。そのことを父に伝えたとき、父は大らかに笑い、魔導書を下さいましたわ。それから魔導書を読んだのですけれど、そこで私の力は発現しましたわ。
「お父様、私魔法が使えましたわ!」(幼き口調ですわ)
「ぶふっ・・・な、何を言っているんだいニーア、君の年で魔法が使える訳ないだろう?この父でさえ魔法が使えるようになったのは君より6つも上の年になった時なんだよ?」
「む〜、本当ですわ!本当に魔法が使えたんですのよ!」(幼きくちょ以下略)
「とうさま〜、おねえちゃ、ほんとにまほーつかえたよ〜?」
妹のユーリは私が魔法を使う現場に居ましたから、私の味方をしてくれましたわ。
「ほらお父様、ユーリもこう言っているのですよ」(幼き以下略)
「ふぅむ、ならば、この父の前で使って見せてくれないか?どうも自分の目で見なくては信用しきれなくてね」
と当時の父は仰り、幼かった私はぷりぷりと怒りましたわ。今となっては当時の父の気持ちが大いに分かります。分かってしまいますわ。
そういうわけで、私は庭に出て、魔法を使いましたわ。使った魔法は、水の生成魔法。戦力としての価値は低いですが、生活する上で必須になる魔法です。
「いやはや、驚いた!まさか自分の娘にこれほどの才があるとは!」
「お父様、ようやく信じて下さいましたのね」(おさな以下略)
それからは早かったですわ。王家お抱えの魔術師に頼み私の魔力の計測をしました。その結果、私の魔力はとても多く、非凡だと。そして調べていく間に、私に聖女としての素質があることが判明したのです。
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ここまでが私が聖女となった経緯です。ここからは、今目の前で繰り広げられている茶番劇を説明致しますわ。・・・と言いましても、また回想になるのですが、ご容赦下さいませね?あれは、2年ほど前でしたわ。
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「ニーア、すまない。しばらくの間、遠征に行かなくてはならなくなった」
アランからそう告げられ、私は心の中でほっとしていましたわ。
「大丈夫ですわアラン様。それよりも、私いつまでもお待ちしていますから、どうか無事に帰ってきてくださいませね?」
私は最大限の作り笑顔でそう言いました。
「しかし、困りましたわ。私もご一緒したいのですが、私は聖女という身。ここから離れる訳にもいきませんもの。・・・そうですわ!私の妹、ユーリがおります。あの娘を付き添いにしては?」
これは、私の独断ではありません。しっかりと家族と相談した結果ですわ。そもそも、私はこの計画について家族に説明した後、『この計画は、出来れば実行に移したくありません。大好きな家族が、ユーリが危険に晒されるなど、あってはなりませんもの』と申し上げたのですが、『何を言う。君が私達を好きなように、私達もまたニーアのことが大好きなのだ。そんな娘1人を危険に晒すのを黙って見ていることなど、できるはずもない』と父に言われ、母とユーリにも神妙な顔で頷かれては、無理と申すことなどできるはずもありません。
『ニーアの計画に、私達は賛成だ。そして、全力で遂行することを誓おう』
『お姉様、私も同じですわ。大好きで憧れのお姉様が1人危険な道を行くのを、ただ見ているなど、死ねと言われているに等しいことです』
『何を言っているの!私は、わたくしは・・・自分の計画の為に、大好きな貴女を危険、いえ、犠牲にするのです!そんなこと、許されるはずもないではないですか!』
と、私は反論しましたけれど。結局家族に押され、同意してしまいましたわ。
その計画というのは、数月後に遠征に出るアランにユーリを同行させ、"敢えて"洗脳させること。彼にユーリを間違いなく洗脳させる為、私は彼が遠征に向かう直前、彼の洗脳が解けている風に振る舞う。そうして彼がユーリを洗脳し、私を貶めようとした時に種明かし、彼を断罪するというもの。
「いいのかいニーア?君の妹とはいえ、私が君ではない女と2人でいることは」
「全くもって問題ありませんわ。言ってしまえば私、1人でも何とかして見せますから」
この発言は、アランにユーリを洗脳させるトリガー。彼がそれを引くことを期待して、私は言ってやりましたわ。
「そうか・・・。分かった、頼むよ」
アラン、思いっきり不審がる顔をしましたわね。まさかそれも分からないとお思いで?
『だが、もしユーリが王子のせいで死んでしまうなどと言うことがあっては、私達も、勿論君も言葉にできない悲しみと悔しさに襲われると思うのだが』
『その点については考えがありますわ』
私はある「秘策」について話します。
『なっ、だ、駄目だ!そんなことをしては、君がっ』
『お父様、どうか分かって下さい。これは私が希望しているのです。大丈夫、私は聖女ですのよ?そう簡単に死ぬと思わないで』
当然父は反対しますが、私は毅然とした態度でそれに反抗します。
『・・・はぁ、こうなってはどんなに止めても変わらないな。分かった、君のしたいようにするといい。だがこれだけは約束してくれ、絶対にユーリと2人で帰ってくること!』
勿論ですわ、と私は応えました。
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あの馬鹿アラン、全てこちらの策略だと気づかないようですわね。せっかくこちらが黙っておいてあげていると言うのに、洗脳ででっち上げた記憶を散々喚いていますわ。それも、帰還の祝賀会で人がかなり集まり、勿論国王や王妃も集っているこの状況で。
「貴様が聖女を騙っていたことは既に知っている!こちらのユーリから聞いたからな!」
そりゃあ、自分がでっち上げた話なのですから、洗脳したユーリはそう言うでしょう。ああ、私の妹、ユーリ!今解放しますわ!
「ニーア殿、今の話は本当かね?」
「勿論詭弁に決まっていますわ。私は正真正銘の聖女ですし、今までアラン様が申されたことは全て嘘、ですわね」
「貴様こそ嘘をつくな!証拠は全てこのユーリから聞いているのだぞ!」
ハァ、いつまでもユーリから聞いたとしか言いませんわね、この馬鹿は。そろそろ妹を返してもらいましょうか。
「ではそろそろ、種明かしの時間と致しましょうか」
私がそう言うと、それまで騒然としていた会場が静まり返ります。
「た、種明かし?ニーア殿、お主は何を申されているのだ?」
うるさいですわね、自分の息子の非道を権力で揉み消し、口止めまでさせた愚王の癖に。
「簡単な話ですわ。・・・『解呪』!」
私がユーリに手をかざし、魔法を唱えると、ユーリが一瞬気を失ったようにカクンと俯き、次に顔を上げると・・・
「んぅ・・・あれ?ここは?確か私はアラン様の遠征の付き添いをして・・・きゃっ、な、なぜ私はアラン様の腰に手を!?お、お姉様〜!」
「おお、よしよし、ごめんなさい、遅くなってしまって」
洗脳の解けたユーリは一目散に私の元に駆け寄り、抱きついて来ます。2年ぶりの甘えに、ついいつものように頭を撫でてしまいましたが。
「な、なんだと!?私の魔法が!?まさか貴様、最初から!?」
ようやく気づきましたの、このお馬鹿さんは。
「ええ、そうですわ。あなたが私に最初に会いに来て、私を洗脳しようとしたその時から、私は洗脳などされていなくってよ」
洗脳?その魔法は禁忌なはず・・・などと、周囲が騒がしくなります。
「・・・ニーア殿、それは本当かね?我が息子アランが、洗脳魔法を使用していると?」
「あら、お気づきになられませんでしたの?そうですわよね、今までも彼が洗脳魔法をかけ廃人にして来た令嬢たちの家族に、口止めさせるのに精一杯でしたものね。当時は若気の至りと舐めていたかもしれませんが、恐らく彼は初めから洗脳魔法を使っていましたわよ?それも見抜けなかった国王陛下には、私失望しましたけれど」
「なっ、そ、そのような口、王族にするものでは」
「否定しませんのね。それでは知っていてわざと放置していたとでも言いますの?ーーああ、それと、私は聖女ですわ。その聖女にぞんざいな扱いをしたと他国に知られたら・・・王国はどのように思われるのでしょうね。今のこの会場には、他国からの来賓もおられますのよ?」
私がそう言ってやりますと、国王陛下は何も言えず、王妃殿下も俯き押し黙ってしまいましたわ。全く、一国を支配する者がそのようでは、例えこの件が無くとも他国から侮られるでしょうね。
「ククク・・・ア〜ハッハッハ!そこまで知られているのなら、生かしてはおけないな。勿論、この会場にいる者も含めてだ!」
アランが突然笑い出し、狂気に満ちた顔で叫びました。一体彼は何をしようと言うのでしょうか。
「あ、アラン!お前、洗脳魔法などどこで知った!?それに、なんだその力は!?」
「クックックッ。何も知らない父上に教えてやる。今から十年以上前、私はある魔術師に出会った。彼は残忍で酷い性格の持ち主であったが、洗脳魔法のおかげで常に女を侍らしていたな。そんな話はいい、彼は当時王子教育で飽き飽きしていた私に洗脳魔法を教えてくれたのだ。そしてこう言った。『その力で国のトップになってみせろ』と!幾度にもわたる口止め、ご苦労だったな、父上。後は貴様の家を含めた数家だけになったと言う時に、貴様が聖女になどなりおって。おかげで計画が先延ばしではないか!まぁ良い、今に計画は完遂されるのだ!魔術師にもらったこの力のおかげでな!後は父上、あなたを始末するだけだ。だが、今の力では足りない。そうだな・・・そこの娘から力をもらうとしよう」
そう言ってアランはユーリに向けて手をかざし、何かをぶつぶつと唱えました。
ーまずい!
私はそう思いました。何故なら、彼の取った行動は私が最も危険視していたこと。洗脳魔法は、ただ相手を洗脳するだけではありません。それだけなら、禁忌にまではなっていないはずです。洗脳魔法が真に禁忌とされている理由、それは、一度『術をかけた者』は、『術をかけられた者』から生命力を搾取し、自身の力に変換するから。彼は今、それをユーリにしようとしているのです。こうなってしまっては、もう止められません。
「あぎゅっ、や、やめて・・・!痛い、お姉様、助け・・・て・・・」
そう言ったきり、ユーリは動かなくなってしまいました。
ー許さない。
「ハ〜ハッハ!やはり若い女の生命力は旨い!そして力も多く取れる!クックック、聖女ニーアよ、どうだ?妹を奪われた気持ちは」
ー絶対に許しません。
私はぎりっと拳を握りました。
「ふん、無言か。悲鳴の一つも上げられんとは、興ざめだな。まぁ良い。貴様もろとも、父上と共に殺してやるわぁ!」
「アラン!お前だけは絶対に許しません!覚悟しなさい!!」
私はアランに向けて、最大限の魔力を集中させます。
「ハッ、何を言うかと思えば、やる気か?いいぞ、まずは貴様から殺してやることにしよう」
アランがこちらに向かって来ます。
ーーこの時の為に、何年魔法の研究をしたと思っているのです。お前を無力化することなど、造作もありません。聖女の魔力、舐めないでくださいまし。
「はぁぁ〜っ!」
私は集中させた魔力を一気に放出します。すると放出された魔力は一目散にアラン目掛けて飛び、彼に直撃します。
「ハッ、この程度、痛くも痒くも・・・何ぃぃっ!?」
彼がそれを受けた数秒後、彼の体に異変が。彼が纏っていた強い邪気は霧散して行き、さらに魔力は彼の体力までもを奪い、後に残ったのは息も絶え絶えで立っているのがやっとなただの馬鹿王子アランでした。
「今です!今の彼は無力です!衛兵、彼を捕らえなさい!」
私の命により、我が家の精鋭達が彼を取り押さえます。その直後、王室の衛兵も彼を捕らえるのに加担しました。
「これで、解決ですわね?国王陛下?」
「う、うむ・・・ニーア殿、いや、聖女殿。感謝申し上げる。そしてあのような馬鹿息子を守っていた私も、潮時だろう。私は王位を譲位したいと思う」
それは、国王なりの責任の取り方でした。
「しかし、聖女殿の妹殿はもう・・・」
「大丈夫ですわ。一応策はあります。まあ、決死の術ですけれど」
その術は、アランが遠征に行っている間に国立図書館の禁書を読ませてもらっていた時に見つけたもので、『死者蘇生』の魔法でした。消費する魔力が大きすぎて、一般の方にはどうあがいても使えない魔法。しかし、私の魔力であれば、半分の魔力を犠牲にすれば使えるものでしたわ。
「では始めますので、皆様どうか近寄らぬよう」
私は先程よりも集中し、ユーリに向けます。
(これは・・・、私の魔力量を持ってしても、辛いですわね。力が吸い取られますわ・・・)
しかし、泣き言ばかり言っていられませんわ。私のせいでユーリは死んでしまったのですから。絶対に生き返らせて見せます!
私は、魔力を集中させることに精一杯で、体に起きていることに気づいていませんでした。
その時、会場に集まった人々は、奇跡としか言いようがない光景を目にする。突如聖女が周囲から人を離したと思いきや、死した聖女の妹君に向け、魔力を集中し始めたのだ。何人かは聖女が何をしようとしているのか気づき、無理だと思う。しかし、聖女は魔力の集中を止めない。
(まだ、まだ駄目なんですの?ああ、ユーリ。どうか、どうか生き返って下さいませ)
その時、魔力が一層吸い取られる感覚を覚え、倒れそうになりました。しかし、持ち堪えなければ。そう思い魔力を集中させると、ついに反応が。集中させた魔力がユーリを包むように広がり出し、一瞬目が眩むほど強く煌めき、光が収まると・・・
「ぅ、ぅぅ…」
「!ゆ、ユーリ!?」
ユーリの指が微かに動き、ユーリの口から小さな呻きが聞こえます。
「ぁ・・・おねぇ、さま・・・」
「っ、ユーリ!!」
私は思わずユーリを抱きしめました。
「良かった、良かった・・・!もし私の魔力でも足りなかったら、どうしようかと・・・!」
「えへへ〜、お姉様の香り〜。私、生き返れたんですね・・・」
その言葉を聞いて、私はさらに抱きしめる力をかけてしまいます。まるで、絶対に放さないとでも言うかのように。
聖女が魔力を集中させ始めてから数分後、それは起きた。聖女の髪が、金色から透き通った銀へと、毛先から変わって行ったのだ。その変化に、人々は息を飲む。ただでさえ美しい聖女が、髪色が変化しただけで、さらに美しさに磨きがかかったのだ。男達の目が釘付けになるのも無理はない。
しかし、その後起きたことに人々はさらなる衝撃を受ける。聖女が一瞬よろめいたと思った瞬間、魔力が聖女の妹君を包み、一瞬煌めく。すると、死んだはずの妹君の指が微かに動き、小さいものの呻き声をあげる。
人々は色めきだった。聖女がやってのけた。死者蘇生をして見せたと。
国王の後任は誰が務めるのか議論が交わされたそうですが、アランの弟でありアランを反面教師にして誠実に、賢く育ったアレス様という方が王位に就かれるとのことを私が知ったのは、家に帰った数ヶ月後でしたわ。まあ、今となってはどうでもいいのですけれど。
「お姉様、ごめんなさい」
「ど、どうしましたの突然!?私こそ謝らなければならないというのに」
「だって、お姉様、髪が。お姉様の金色の髪が、銀色に」
ふふっ、この娘は、そんなことまで気にかけてくれるんですから。でも、そんなこと気にする必要、ありませんのよ?
「ユーリ、こちらへ。見てみなさい、鏡に映る私達を。金と銀、とても映えているのではなくって?2人の聖女が並ぶとそこは天国になる、というのはあながち間違いではないですのよ」
ユーリは私の魔力が半分入っているので、聖女としての能力に目覚めましたの。何を言っているのか分からないかも知れないけれど、私も分かりませんわ。どうして魔力を分け与えるとユーリまで聖女になれたのか。
そして、聖女は2人になりましたけれど、絶対に離れようとはしませんの。ユーリがそうしたいと言ったのですから、そうするのは当然ではなくって?そういえば、2人の聖女が一緒にいることは、初めは批判されるかと思いましたけれど、蓋を開けてみれば仲良しな私達は完全に受け入れられていましたわ。私としても大好きなユーリを独り占めできるので不満はないですわ。
ーーああ、そうそう。あの後、自分の娘もとお願いしてくる家族の方々がいましたけれど、無理と言って差し上げましたわ。
『な、なぜだ!?自分の妹さえ助かればいいとでも言うのか!?』
なんて言われたら、反論したくもなります。
『勿論ですわ。あなた方だってそうではないですの。自分の娘を助けろと言い、他人である私の妹はどうでもいいと仰います。それは、今あなたが怒っている私と同じではありませんの。もっと客観的に物事を見なさいな』
と言って差し上げれば、誰も自分の娘をとは言ってこなくなりましたわ。
「お姉様、私、今幸せです!」
「どうしましたの突然。私だって、最愛の妹がそばにいるのですから、幸せに決まっているではないですの。ユーリが居るのなら、私婚約者など要りませんわ。このまま2人で過ごしたいですの」
ーその国には、2人の聖女がいた。2人は姉妹であり、姉は透き通った銀髪。妹は輝くような金髪であり、仲睦まじく、国民から敬愛された。その聖女達は結婚することなく、2人揃って死ぬまで未婚であり続けたという。聖女の生家は、聖女の両親が頑張ったために男児に恵まれ、聖女の姉に厳しくも優しく教育され、実家を立派に発展させ、現在まで続く一流貴族であり続けたという・・・。
完
いかがでしたでしょうか。面白かった、感情移入したという方は是非評価をお願いします。その評価が私のモチベに繋がりますので・・・。