2.急展開過ぎんだろぉ!
は?結婚?聞き間違いか?結婚と血痕を聞き間違えたのかもしれない。うん、きっとそうだ。
『いやごめん母さん。もう1回言ってもらっても良きですか?』
『だからお母さんね結婚することになったのよォ!』
やはり、聞き間違いではなかった。
『急展開すぎんだろぉ!』
思わずそう叫んだ。あまりのボリュームに周りの猫がビクつきながら逃げてしまった。そんな細かいことを気にしている暇のない俺は当然気づかなかった。ちなみに俺の父さんは俺が一歳の時に交通事故で亡くなったそうだ。
『何でだよ母さん!そんな事話したこと無かったじゃん!』
『あら、言ってなかっただけよ?聞かれなかったから。』
『いや、誰が自分の母親に好きな人いる?とか聞くんだよ!馬鹿じゃねぇのか!?』
『あら失礼ね。私だって恋するお年頃よ♡』
『マジで勘弁してくれ。』
思わず頭を抱えた。え?何?うちの親結婚すんの?誰と?ドッキリ?いやでも今までそんなことされたことがないからそれは無い……と思う。急過ぎて頭が追いつかない。とにかく確かめよう。
『ちなみに相手はどんな人?』
『とてもダンディーな男の方よ。凄く素敵なの♡あのね、母さんがね、書類を落とした時に手伝ってくれたのよ♡しかも拾ってくれるだけじゃなくて一緒に運んでくれたのよ♡そこにキュンときちゃってそれから…』
『はいはい、もうわかったから。』
この反応からして演技ではない。僅かな可能性のドッキリの線が消えた。現実を見よう。
『明後日にアメリカから引っ越して来るのよ♡』
『ブッッ─』
思わず吹き出した。
『どうしたの皐月?』
『は?アメリカ?外国の人なの?アメリカ人?』
『そうよ♡』
『いや、母さんの職場の人じゃないの?さっきの話からして同じ職場にいたんじゃ…。』
『彼が、取引先のうちの会社に来てただけよ。』
マジ?そんなんあり?どうしよう。俺コミュニケーション取れるかな…?
そんなことを考えていると母さんが俺の心を読んだのか。
『大丈夫よ。彼は日本語ペラペラよ。』
『そう、それならまぁ……。』
もう、何も考えたくない。大人のことは大人に任せよう。
『それじゃあね。楽しみにしててね。』
ブツッとそこで通話が切れた。一人道の真ん中で佇む俺は、楽しみにしていた手元の本の事などすっかり忘れて、帰路を辿るのだった。